レベルアップと呪いの剣
「クソッ……! 俺は最後まで抵抗するぞ!」
徒手空拳で戦う覚悟をし、ファイティングポーズを取る。ネッサには悪いが、やられっぱなしなんてのはごめんだ。どれだけ傷ついてでも一矢報いてやる。
地獄の悪魔に一方的に殺された事を思い出し、何故か今ごろ強い怒りが沸いてきた。
「こんな理不尽があってたまるものかァ!」
襲いかかってきたゴブリンの顔面に拳を叩き込む。ゴブリンは怯み、驚いた顔でこちらを見ている。
拳がきりきりと痛むが、ゴブリンにさほどダメージは無いようだ。
「一方的になぁ!! 弱者が痛めつけられる世界は! どうかしているだろうが!」
倒産した会社を思い出す。俺が向こうの世界で塞ぎ込んでいた原因だ。俺含め大勢の弱者が傷ついた。
何故今になって嫌な記憶ばかり思い出すかは分からないが、都合がいい。
ありったけの負の感情を右手に込める。
この右手の、何故か既に握られていた、未鑑定の剣に。
「死ねえェェェェェッッ!! クソがああああああ!!!」
全身全霊の袈裟斬りはゴブリンの鼻先を掠め、剣筋は空間に火花を残し、それが地面に到達した瞬間、爆ぜた。
轟音の後、無数の緑色の欠片と、抉れた床、大穴の空いた壁を確認して、俺の意識は途切れた。
ここは──天国だろうか。
辺り一面の原っぱ。他になにもない。なんだかふわふわして、どうしようもなく気持ちいい。
ひたすら走り回って、草をいっぱい食べたい。
∪ M A「やあ」
「誰だお前!?」
なんだろう、視覚で認識してるわけじゃないんだけど、何か正体不明の存在を感じる。
∪ M A「←に名前出てるでしょ」
∪ M A「経験値溜まってるしレベルアップしようね」
∪ M A「レベル0→2になるよおめでとう」
∪ M A「うさぎとか大量に殺した割になんか伸び悪くない?」
∪ M A「聞いてる?」
「あ、はい」
∪ M A「じゃあまた溜まったら馬小屋に泊まるんだよ」
∪ M A「あ、そうだパン食べたでしょ?魔法使えるようになったからね」
∪ M A「サモン・フライシュ。召喚魔法だよすごいね~」
∪ M A「聞いてる?」
「あ、はい」
∪ M A「じゃあまた経験値溜まったら馬小屋に泊まるんだよ」
目覚めると心配そうに覗き込むダルの顔があった。
「うお。大丈夫ー? 昨日から気失いっぱなしだったんだよー。」
「あ、はい……じゃなかった、昨日?もう朝なのか」
陽光が差し込み寝起きの瞼の裏に染みる。
「朝だよー。昨日は大変だったねー。ありがとね。」
「壁とかメチャクチャになってたよな…?」
「うむー。全部見てたぞー。」
ちょうど俺が必殺剣を放った時にダルは目覚めたらしい。その後で色々質問されたが、店の人には上手く取り繕ってくれたとの事。
「自爆ゴブリンって本当にいるからねー。それよりその剣。」
剣に視線を移す。もやもやとシルエットが動いている。なぜだか笑っているような気がした。
「風呂に持ち込んでないのに何故か手に持ってたんだよな……。」
「多分呪われてるねー。それ。戻ってきちゃうんだよー。」
呪われたアイテムは一度装備したら戦闘状態になると手元に戻ってきてしまうらしい。
「あれ?便利なのでは?」
「いやいやー。他にやばいデメリットが絶対くっついてるはずだからー。」
あー、気を失ったのはこれのせいかもしれないな。強いけどうかつに使えない。
「まあ全力で使わなきゃ大丈夫だろ、多分」
うーん、と納得いかなさそうなダル。悪いが、俺でも一線級の火力が出せる事が分かったからこの剣は手放さないぞ。
「それより腹減ったな! 牛の世話終わったら下の酒場で飯食おうぜ飯」
「おーけー。」
俺たちは牛と爽やかな朝を過ごした。




