町外れのホテル馬小屋
今までの二話分くらいのボリュームになってしまいました。
やっぱいいよね。お風呂回。
「とりあえず入ってみよー。」
光が漏れていた半開きの扉をダルが開けると、カウンター越しから紫色の着物を纏った馬面のおじさんが声をかけてきた。
「おういらっしゃい、あんまり見ない顔だけど初めてかい?」
「うむー。はじめてー。」
馬小屋の中にお店?兼業ってやつだろうか。
「馬小屋へようこそ! ここは冒険者専用の宿だよ、お代は取らないけど牛のお世話よろしくね、あと酒場が地下にテナントとして入ってるからそっちも良ければどうぞ」
ああ、嬢ちゃんにはまだ早かったかな?と付け加えて豪快に笑うおじさん。わあ、ベタベタだなあ。
「とりあえず、空いてる部屋探そうか」
「うむー。おじさん部屋借りるねー。」
軽く会釈をする。カウンターでは、あんた失礼だよ!っと叱咤しながら朱色の着物を纏った女将さんが出てきておじさんの座布団を引き抜いていた。
「結構人気っぽいねー。」
「ちゃんとベッド完備なんだな」
長い廊下を歩いていくと、左右にずらりと部屋が並んでおり、牛とベッド、それから冒険者がくつろいでいた。もちろん扉は無い。
一番奥の部屋で荷を下ろし、ダルは向かいの部屋で寝る事になった。荷物といってもこの剣しか持ってないんだけど。
未鑑定のもやもやした剣、これはいつか鑑定したいな。ダルに何かあったらこれで敵を追い払ったりするんだろうか。それってもう俺の手に負えない時な気もするけど。
かっこいいとこ見せたいなぁ。
「トールー。お風呂行くよー。」
「はーい……ん?」
お風呂?俺って今…。
「まさか女風呂?」
そうだけど?と首を傾げる幼女。そうだよねぇ~~~。俺今女の子なんだもんね~~~。
俺が頭を抱えていると。
「あー。慣れてないもんねー。洗ってあげるよー。」
違う。そうじゃない。
結局、上手く説明できないまま脱衣所に着いてしまった。まさか馬小屋の地下2階が銭湯だったなんて。繁盛してますね馬おじさん。
「さー。脱ぎ脱ぎしようねー。」
「イヤーーーーー!!」
するするーと剥がされ産まれたままの姿になってしまう俺。いや、俺産まれた時こんなんじゃなかったけど…。
ほどよく引き締まった肢体、やや小振りの胸、すべすべの……。いやいや待て、見るな、前だけを見るんだ俺。今が耐える時。
「すぽぽーん。」
わざわざ声に出して脱ぎ始めるダル。まあ後方だから振り向かなければ大丈夫。
「じゃあ進んでねー。背中流すよー。」
「ハ、ハイ!」
俺は視線を斜め上に固定したまま、躓きそうになりながらも浴場を進んだ。
かぽーん。
どこからともなくそんな感じの音が聞こえた。
今、俺はダルに背中をしてもらっている。斜め上中空を見つめながら、俺の思考力は限りなく落ちており、次のセリフの「あっ! 前はいいよ! 自分でやるから!」とかそういうので頭いっぱい。
「あっ! 前はいいよ! じ、じ、自分で」
「んー? どしたのー?」
まだ早かったか!?タイミングが難しいな!
それにしても今は沈黙がつらい、妙な妄想で頭がいっぱいになりそうだ……!
「ごしごし。ごしごし。」
「だ、ダルはこういうの恥ずかしくないの!?」
どゆことー?とダルが返事をすると同時に手の動きが遅くなった。小首でも傾げているのだろう。
「ほ、ほらさっき頭撫でまくったら、顔真っ赤にしてショートしてたじゃん!?」
「あ。」
ダルの手の動きが止まる。やったか!?
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。何か切り抜ける作戦を考えろ。頭をフル回転させるんだ。
ふと、目線の先──解放された窓から緑色の醜悪な生き物がこちらを見ている事に気付いた。
目と目が合う。その生き物はニヤリと笑うと、身軽な動きで窓からピョンっと飛び降りてきた。
「ギャハー!見つかっちまったらしょうがねえ!片っ端から犯しつくしまくってやるぜー!ヒョオオー!」
尖った耳。大きな鼻。ギラつき、飛び出そうな丸い目玉。小柄で、全身が緑色のそれはまるで
「キャー!! ゴブリンよー!! 男の人誰かー!! でも入ってこないでー!」
浴場中に悲鳴が響き渡る。
やっぱりモンスター!無防備なところを狙うなんて卑劣な。だがこちらには最強吸血鬼のダル先生がいるんだぜ!
「ダル! モンスターだ!」
「ボンッ。」
ショートしていた。嘘でしょ。
「ケケケェーッ! まずは目の前にいるお前から犯しつくしまくってやるぜー! ヒャッハー!」
まずい、このままだと俺の純潔が危ない!ネッサごめん!




