町外れの発光チワワ
「どうー? お腹痛いー?」
特に体に不調は無い。むしろ満腹になって心地いいくらいだ。
「平気だけど……これ魔法覚えたかどうかってどう確認するんだ?」
「うーん。何か今、無性にやりたい事とかない?」
「特に……あ、これかな」
なでなで。
ダルの癖っ毛を矯正するように優しく撫でてみる。
「あわわわわわわ。」
すごい微振動しながら顔を赤らめるダル。
ちょっと冗談のつもりだったのだが、反応があまりにも面白いのでやめるタイミングを失ってしまう。
なでなでなでなでなで。
「ボンッ。」
ダルは真っ赤になったまま動かなくなってしまった。えぇ~…ボンッって自分で口に出したよ?
やりすぎたか? 俺もしかしてロリコンなのか?なんだか俺まで顔が熱くなってきたかも。
そして、気付けば夕方になっていた。空は朱に染まり、俺たちを包み込んでいる。
「あー…ごほん、もう日が暮れるけど、宿とかどうしようか」
ダルの再起動を待って聞いてみる。
「あ、あー。宿。うんー。ネッサが教えてくれた場所に行こうー。」
何故かニヤニヤしていたコックさんに会釈をして店から出る。宿は町外れの方にあるらしい。
人通りもまばらになり、ガラガラガラ、とシャッターの降りる音がする。
そのまま歩き続けると建物や街灯の本数は減っていき、かわりに広大な農場や牧場が見えるようになってきた。
「おや?」
遠くの方で白いチワワがこちらに向かって歩いているのが見える。仄かに発光している。
「なにあの犬?光ってない?」
「あー!!!!!!!!!!!!」
これまで聞いたことのないような声をあげるダル。耳がきんきんする。
犬がこちらに気付いたようで、わんわんと鳴きながら走り寄ってくる。すっごい光を発しながら。眩しい。
「あー!!!!!ジルわんやだー!!!!!!」
目玉をまん丸に開いて大量の汗をかいている。
うん分かった、犬が怖いんだ。
「ぽいっと。」
地面に落ちていた枝を遠くの方に放り投げると、発光チワワはそれを追いかけるようにして、そのまま見えなくなっていった。
「なんでこんなところにぃ…。」
ぜえぜえと過呼吸気味になっているダル。どんだけ犬怖いんだろう、チワワカワイイのに…。っていうかこの世界の犬、光ってるのね。
陽は完全に落ちて、あたりはすっかり暗くなっていた。
「宿なんか無くない?」
「そこだよー。あの小屋ー。」
どう見ても馬小屋にしか見えない。もっと遠くの方かな? 吸血鬼は夜目が効くと言うし。一応聞いてみる。
「……あの馬小屋?」
「うむー。」
今晩の宿は馬小屋になった。




