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悪魔×異世界×俺  作者: 左十 八八
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1/4 悪魔×侵入者

 キルキス王国のトップ、国王ノイエル・キルキスが休んでいる寝室に一人の男が入る。


「陛下、お伝えしたいことが。」


「なんだ、こんな遅くに。」


 男が声をかけるとノイエルからすぐに返事が返った。


「サンライト公爵領のバラレル周辺にて、強大な魔法による魔力波を感じたという報告を受けました。」


「バーナードの関係か?」


「いえ、報告によると別口の可能性が高いです。」


 ノイエルには思い当たる節があったようだが、どうやら違うみたいだ。


「ただでさえバーナードの件で大変だというのに、さらに問題が増えるのか…どの系統の魔法かはわかるのか?」


「わかりません。ただ、今のところ被害は出ていないことから、召喚魔法などの可能性があります。」


 被害が出ていないという事にノイエルは、ひとまず胸を撫で下ろす。


「ならば通常通り領主のサンライト公爵に任せる。」


「分かりました、そのようにお伝えします。では、失礼します。」


 男が出て行く扉の音を聴き、ノイエルは窓の外へ目を向けた。月の光が雲の間を抜け、差し込んでいる。



 四大王国にも数えられる大国、キルキス王国はある一つの問題を抱えていた。王国騎士団団長、バーナード・セントの謀反である。一年ほど前、キルキス王国は旧帝国跡地の調査で迷宮を発見した。迷宮には魔物が住みついていた為、騎士団を派遣しての探索が行われることになり、その探索隊を率いたのがバーナードだった。


 探索開始から半年が経った頃、探索員の一人が血塗れの状態で王国へ帰還した。


 探索員が報告した内容は、バーナードの裏切りと探索隊の壊滅。


 探索隊には何人もの手練れがいたのだが、バーナードの手によって全員、殺された。


 報告を受け、ノイエルはバーナードの持つ爵位を剥奪し、セント家を取り壊した。さらにバーナードの捜索部隊を編成したうえ、賞金を懸け、王国内に公布した。


 しかし、なかなか足取りを掴むことはできず、今日まで三つの村と一つの街を潰されているのだ。


 ノイエル・キルキスの悩める夜は続く。



 ###############



(バラレル周辺で召喚魔法って俺たちのことじゃね?)


(おそらくそうですね。魔力の漏れは最小限に収めたのですが、申し訳ございません。)


 キルキス王国では国内外の情報を集めることを目的とした暗部が設置されており、各地に隊員を配置しているそうだ。


「どうかなされましたか?」


 念話に集中してたら、お姉さんに不思議がられた。


「何でもないですよ。ただ、何を召喚魔法したんだろうなって考えてただけです。」


「そうなんですか。もし魔物や魔族だったらミキトさんの出番ですかね。でも!そういう難易度の高いのはそれに見合うランクになってからですからね。」


 お姉さんが俺の回答で納得してくれたみたいで良かった。


「まずはFランクの依頼から行きましょう!あちらの掲示板に以来が貼ってますから、お好きなのを選んでください。」


 バッカスは何でもギルドマスターから直接依頼がある、ということで感謝を述べてから別れた。


(まぁでも、あの屋敷は大きい森の中なんだし、大丈夫だろ。)


(そうですね。ですが、念のため警戒を強化しておきます。)


(頼んだ。)



「あなた、バッカスさんと知り合いなんですか?」


 突然声かけられ振り向くと中学生ぐらいの男の子が立っていた。装備をしてはいるのに威圧感が感じられないのは、年下ということだけが理由ではないだろう。


「さっき知り合ったばっかりなんだけど、君は誰?」


「ごめんなさい。俺、ガイって言います。」


 ガイという少年は冒険者になったばかりで一緒に依頼を受ける仲間を探していたそうだ。そんな時、この街で一番ランクの高いバッカスと睨み合っているサタンを見て、俺たちがバッカスと同じくらい強いと勘違いしたみたいだ。


「一緒にEランクの依頼を受けませんか?」


「申し訳ないけど断るよ。」


 俺はまだこの世界の空気を纏いきれていないので、当然断る。


「ミキトさんも冒険者になったばかりなんですよね。早くEランクに上がるには、Eランクの依頼を受けた方がいいんですよ!」


「それは分かるんだけどね。俺はこの街に来たばかりでまだ慣れてないんだ。当分、依頼を受ける気はないよ。」


 ガイはどうしても強い仲間と一緒に依頼を受けたいようだ。


「じゃあ、依頼を受けるまで待ってますよ!いいですか?」


 というか、ストーカー気質だな。依頼を受けるときはこっそりとやろう。


「いつなるか分からないけどね。」


「それでも大丈夫です!それでは!」


 ガイはそれを言うとギルドの外へと駆け出していった。


「なんかヤバいやつだったな。」


「処分しておきましょうか?」


 処分て…言い方悪いな。しかも何するか分からないから一層怖い。


「何もしなくていいから。あと、あと処分って言葉は怖いから禁止。」


「分かりました。」


「それよりも依頼読んでくれない?」



 Fランクの依頼は、下級回復薬(ポーション)の材料集めや一角甲虫(いっかくこうちゅう)の捕獲などからはじまり、近隣の田畑を荒らす害獣の駆除まで幅の広いものだった。しかし、花形の魔物の討伐は一切なかった。


 Eランクの依頼からは、レッドボアー討伐などの討伐系が段々と入ってきている。


「これはどうです?」


『逆賊 バーナード

  バーナードを捕らえた者、もしくは首を持ってきた者に

  王国から褒賞を与える。

  推奨Bランク以上』


「ランクはあくまで推奨、制限ではありませんから。」


そんな揚げ足取るような。でもそれが一番手っ取り早いか。


 話によるとバーナードは元王国の騎士団長で実力はAランク冒険者以上のようだ。

 なのに、推奨Bランク以上という形にしているのというのは、身を隠すのが上手いバーナードの情報が少しでも欲しい、という王国側の意図が見えるな。


「良さそうだけど、俺は絶対勝てないよ?」


「そちらは任せて下さい。私達が対処致します。」


 それだと何と言うか、面白みがないじゃなくて、人任せすぎて申し訳なくなる。


「俺も頑張るよ。」


 でも、今のままじゃ俺、絶対勝てないんだよなぁ。


「では、これにしましょう。申請も入らないようですし、準備を始めましょうか。まずは、主様の装備を買わなくてはなりませんね。」


「そうだね。買いにいこうかな。」


(お待ちください主様、サタン様。)


 突然オロバスが会話に入ってきた。いつもよりも早い口調で。


(屋敷の敷地に侵入した者がいる、との報告を受けました。)


 あんな森の奥にも侵入者が来るんだな。


(主様どうなさいますか?」


(捕らえておいて。殺さないでね。)


 一言釘を打っておかないと、悪魔達は平気で殺しそうだからね。


「サタン、一旦帰ろう。」


「承知しました。」



 ◇



「…で、こいつらが侵入者か。」


 屋敷へ戻ると、祈りの間(幹斗が始めに転移してきた部屋)で盗賊風の身なりをした侵入者たちが個別に縛り上げられていた。さながら処刑執行を待つ罪人のようだ。


「いや、あながち間違えてないか。」


「どうしました?」


「何でもないよ。それより何したの?この人達、異常に怯えてるんだけど。」


 リアルに奥歯をガタガタ言わせて怯えてる人なんて初めて見たぞ。


「いえ、普通に捕らえただけです。ただ、主様にお見せするには余りにも煩かったので、少々調教致しました。」


 ボティスと言う、大きな二つの角を持った女性悪魔が答えた。


 ボティスによると、剣で腕を斬り落とし、回復魔法で治すを繰り返したらしい。


 酷いな。


 ちなみにその時の血は綺麗に掃除されていた。



「君たちのここへ来た目的は?」


「お、お答えすることは、で、出来ません!」


 意外だ。ここまで怯えてたらすんなり答えるものだと思っていた。


「あの方を裏切るような真似は、俺には出来ません。」


「俺も出来ねぇ、です。」


 口々に固く語ることを拒んだ。


 これだけ口が固いんだ。あの方と言うのは相当慕われているのか、それとも酷い仕打ちをしたボティスよりも恐れられているのか、どちらかだろう。


「喋るくらいなら死んだ方がマシだ!」


 こんなことまで言う始末だ。どうしようか。


「主様、アスモデウスを連れてまいりました。」


 アスモデウス、お風呂で会った悪魔か。昨日は、うん、いい思い出だ。


「アスモデウスは精神へ干渉する魔法を使えます。」


「それは便利だな。よしっ、早速どうぞ!」


「はい。精神魔法"真実(テル)従者(トゥルース)"」


 アスモデウスが魔法を発動すると侵入者たちはグッタリとうな垂れた。そしてすぐに背中を伸ばし、気をつけの状態で静止した。


「じゃあ聞くぞ。お前らは何しにここに来た?」


「ここには「定時連絡を「月一度の「ここには…」」」」


「よしストップ、喋るな。」


 失敗した。一人一人に絞って聞くべきだった。一斉に喋り始めるとは想定外だ。


「じゃあ、お前にする。名前は?」


「サージ。」


 一番ガタイの良かったサージに絞って質問することにした。


 刑事ドラマと同じ感じで進めればいいかな?


「サージ、何の目的でここに来た?」


「月に一度の定時連絡の為だ。」


「それが、何でここへ来ることになる?」


「我らの活動拠点の一つだからだ。」


「活動拠点?」


「我らはこのバベルの森を隠れ蓑にして活動している。その中で魔物が少ない場所に拠点を置いている。拠点は森の各地にあり、我らは分散している。」


 ということは、この屋敷にこいつらの仲間がいたということかな?

 そういえば、オロバスが屋敷を掃除した、と言っていたな。


「そういえば、屋敷を最初の頃掃除したって、」


「はい。不当にこの屋敷を占拠していたので。」


 こわっ。悪魔こっわ。


 オロバスが当然のような顔をして答えたが、内容は恐ろしいものだ。

 さっきのボティスの調教もそうだが、この世界、特に悪魔達は傷つけること、命を奪うことに躊躇しない。


 これに関しては、後で考えないとな…



「ってかさ、そもそも俺らも不当に屋敷に住んでるよね。」


「ごほんっ、話を戻しましょう。我ら、とは?」


 オロバス、逃げやがったな。


「バーナードさんが率いる我ら、"国盗(くにと)り"です。」


「バーナード?バーナードって、元王国騎士団の団長の?」


「そうだ。」


 マジか、超ラッキーじゃん。いきなり、バーナードの尻尾を掴めるとかツいてるツいてる。


「まとめると、バーナード率いる"国盗り"の拠点の一つがこの屋敷で、定時連絡のため仲間に会いにここへ来た、ということですね。」


「バベルの森で活動していたとなれば、王国がバーナードを見つけられなかったのも分かりますね。バーナードが襲った街はバベルの森とは遠く離れています。よもやバベルの森に逃げ込むとは思わない。…そうですね、このくらいの移動がバレずに行われたとすると、移動系の魔法を使えるものがいる?」


「いる。」


「何の魔法だ?」


「空間魔法。」


 空間魔法、空間を操る魔法である。主に移動に重宝されるが、攻撃、防御でも絶大な力をふるえる万能な魔法だ。希少な魔法で使える者は片手で数えられる程度と言われる。


「空間魔法、随分うってつけのものを持っていますね。」


「こうなると、空間魔法の使い手を先に始末しなければ面倒なことになりますね。他にも何かあるかも知れません。吐かせるだけ情報を吐かせましょう。」


 アスモデウスが使用した精神魔法"真実(テル)従者(トゥルース)"は、質問に対して回答者の真実を語らせる魔法である。


 そのため、回答者は質問に対しての答えしか喋らなくなるので、深く情報を知るためには問答を何回も繰り返さなければならない。


 さらに、回答者が真実だと思っていることが真実として語られるので、サージ以外にも同じ質問をし、重ねて確認をとる。


 サタンとオロバスが質問と確認を着々と行なっている間、幹斗は暇になってしまった。途中までは頑張って聞いていたのだが、自分の知らないことが多過ぎてついていけなくなってしまったのだ

 特に魔法関係の話はサタンに後で聞こうとしたまま、それっきりだったのでほとんど分からないのだった。


「なぁ、アスモデウス、魔法って一体何なの?誰でも使えるの?」


 なので、この暇を利用してアスモデウスに魔法について教えてもらうことにした。


 隙間時間の活用は大事だね。


「そうですね、魔法は魔素に干渉することで…」


「お話の途中、申し訳ございません。正門に人間がやって来ました。主様に会いたい、ということですが如何致しましょう?」


 おっと、折角の隙間時間が無くなってしまった。

でも、俺に会いたいって、こっちに知り合いはいないんだけどな。


「分かった、行くよ。サタンとオロバスは続けてて。」


 サタン達にも話は伝わったようで、俺に着いて来ようとしていた。

 サージ達からの情報に集中して貰いたいので、代わりにアスモデウスとサージら侵入者を捕まえたボティスを連れて行くことにした。



 アスモデウスとボティスを連れて幹斗は玄関を出る。玄関を開けると庭園が広がっている。

 剪定され、丸や円錐など様々な形に整えられている庭木。

 屋敷を円状に囲っている塀の外で自分の思うがままに広がる樹林。

 このアンバランスな光景が思わせるのは、建てた者への疑問だ。

 なぜこんな樹林の奥深くに建てたのか。隠したいのか。

 なぜこんなに綺麗な庭と屋敷にしたのか。目立たせたいのか。

 悪魔達からは、庭も屋敷も原型を保たせていると聞いた。

 何の目的で建てられたのか。

 

訪問者はそれを知る者だろうか。



「思ったよりも多いな。」


 正門には六人程の騎士の団体が立っていた。正門と言っても樹林から延びる獣道を閉ざすように築かれた門で、格式張っているものではない。

 獣道を進んで来たためか、騎士達着ている高価そうな鎧は泥で汚れていた。


 バラレルで見かけた衛兵とは見るからに格が上だ。


「お前がこの屋敷に住んでいるのか?」


 近づくと、いきなり金髪碧眼の美青年が尋ねてきた。


「そうだけど、どちら様?」


 無礼な物言いに斬りかかるボティスを、俺は制止する。


「貴様っ、アーサー様になんたる口の聞き方!」


「やめろ。」


 騎士の一人が激昂するのを青年が止める。


 様付けで呼ばれているあたり、金髪の青年がリーダーで身分もそれなりなのだろう。


「俺はアーサー・サンライトだ。サンライト公爵家ぐらいは山奥暮らしでも知っているだろ?

 ここはバベル大樹林でもキルキス寄りだしな。」


 サンライト公爵家のことは知らないが、公爵が貴族の中でも最上位に位置していることは知っている。

 それにしても、貴族って全員こんな偉そうなの?実際偉いんだろうけど。


「まだ理解していないようだな。そうだな、この屋敷の現在の持ち主だって言えばどうだ?」


 ごめんなさい、失礼してたのこっちでした。

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