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声と紡ぎ  作者: 中ノ村 あつし
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3 名前とドーナツの呪い






私の父は、私の名前を『帆』と書いて『ふぅ』と呼ばせたかったらしい。

昔からよくそう言っていた。

けれど、あいにくそうはなからなかった。何故なら、父の2番目の姉に猛反対されたからだ。

父の2番目の姉は、父からすると2歳上で背が小さく髪はショート。体系は太っていて父とも同じく、生まれながらの健康胎児だった。

そんなそっくりな姉が反対して来たのだから、さぞかし驚いたと聞いている。

父は私が生まれる前からこの前を、と決め込んでいたのだ。

「この名前でえぇじゃろ!」

父はこれだけは譲るまいと、姉弟喧嘩では一度も勝ったことのない姉に楯突いたのだった。

だが、反対意見はこうだった。

「この子が、あたしみたいに太ったらどうするん?『ふ』に点々が付いたら『ぶぅちゃん』になるじゃろ!」

怒っていた父も、母も、祖母も、一番上の姉も、みんな固まった。

そして同じく、唖然とした顔をしていて、口は開いたまま塞がらずその衝撃的な言葉は耳を通り抜けるしかなかった。

父の2番目の姉の特技は『ど真ん中で物事を言い当てる』ことだった。

父はそのことをすっかり、忘れていたらしい。

「た、確かに……」

そんなこんなで、自分の名前は将棋の『歩』から取られ父が最後まで悩んだ『帆』の字の由来も込められ、名付けられた。






_____この子が、どうか。船の帆の様に誰かの背を押し、誰かに背を押される様な子に、どんなことにでも歩んで行ける優しさを持った子でありますように。







そんな長い意味が込められ、私の名前は『あゆみ』になった。

ひらがなのこの字は優しさを表すためか、父が兼ねてからの丸字を使いたかった為か、ひらがなとなった。

もちろん。あだ名はこの名前の由来から取られ、未練たらたらだった父がせめてあだ名にとそうしたのだった。

けれど、今はそれで良かったと感謝している。

それはあの夏の日の出来事。

私は小学一年生の夏、ミスタードーナツの呪いを受けた。

そう、ドーナツの呪い。それが、私のデブ期の始まりだった。

祖母は私が親族の中でも最後の孫にあたるため、特に一番可愛がっていた。

そんなある日、祖母が一つドーナツを買ってくれたことがあったことがある。

甘い物が嫌いだった私が、初めてお菓子を食べて「美味しい」と言った瞬間だった。それからというものこれは!と祖母は思い、子どもらしいところを見せた孫がさらに可愛く見え、目が眩み、私に夏休み中ずっとドーナツばかりを食べさせることとなったのだ。

もちろん。何も文句を言わなかった私は、そのドーナツをずっと食べていた。

反論すれば、もっと面倒くさいことになると思ったからだ。

来る日も来る日もドーナツばかり。自分はドーナツにでもなるのではないかと、その時ばかりは思っていた。

「ドーナツ……」

窓が少なく、日当たりが悪い家のせいか、昼間から電気をつけないとかなり暗かった。それなのにドーナツの苦しさを覚えながらリビングのカーテンを閉め、もう一つの窓の方に目を止めた。夕日が差していたのを間近で、眩しそうにドーナツを片手に見ていた。

その時は、悲劇が起こるとも知らずに……

その後、誰でもわかる様に私は一ヶ月で十キロ太ることとなった。

けれど私は、大人に近づく頃には何とも思っていなかったと言えば嘘になるが、殆ど困らないだろうと思っていた。

だが、『デブ』と言う言葉を知らなかった自分には、やはり災難というものは襲って来たのだった。

それがドーナツの呪い。

誰しもデブは嫌いな様で、それからか意味もわからないいじめが始まった。





ドーナツの呪いはまだまだ続きます!


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