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愚か者

作者: 亜ヰ美-aivi-

「アルベルト様、貴方が私を嫌っていることは存じております。婚約を破棄なさっても構いません。けれど、その前にこの本をお読みください」


「何故そのような本を俺が読まねばならない!」


「婚約者としての最後の願いです。この本をお読みになって頂けたのなら、今後貴方に声をかけることも致しません」


「……わかった。そこまで言うのなら読んでやろう。その代わり、今後一切話しかけるなよ!」


そう言って本を受けとり、俺は婚約者のナターシャに背を向けた。

今日カレンは王子と茶会だったかと思い、寮へと戻ることにした。



俺はクレスタ侯爵の三男として産まれ、宰相を勤める父の背中を見て育ってきたことから、武よりも文に力を入れて学んできた。

学園でも首席を維持してきた。



そんな俺には、幼少から婚約者がいる。

婚約者のナターシャは小さい頃から余り顔色を変えない無愛想な女なのだが、それでもまだ小さい頃の方が表情はあった。

成長するにつれその無愛想に磨きがかかり、最近ではその可愛げもないナターシャを煩わしいとすら感じている。


そんな時出会ったのがカレンだ。

元平民で父親が貴族だったため最近引き取られ男爵令嬢になった。

そんなカレンは元平民だったからか、他の令嬢よりも明るく何をしていても楽しそうで、表情もコロコロ変わる。

そんなナターシャとは全然違うカレンが可愛くて、愛しいと感じるようになるのは必然だったと思う。


だが、彼女に好意を向けるのは俺だけではなかった。

王子を筆頭に俺も含めた王子の側近、他にも数多くの男子に彼女は好意を持たれている。

その中には婚約者がいるものも少なくないため、彼女は令嬢達から虐めを受けている。

そしてその中にはナターシャもいると聞いている。



そんなナターシャから婚約破棄してもいいと言われた。

そしてこの本を読めと言う。

自分の趣味を今さら押し付けても、婚約破棄していいと言っているのだし、意味がわからない。

夕食まで時間もあることだし読んでみるか。


女子が好きそうな恋愛物かと思っていたが、少し違うようだ。



――――――――――――――――――――――――――――――



主人公である公爵令嬢の婚約者が、男爵家に引き取られた元平民の少女に恋をし、婚約者である彼女を蔑ろにしだした所から始まった。


そこから愛する婚約者の心を取り戻すために努力するが、上手くいかない。


その内、元平民の少女が虐めにあいだした。


そしてその虐めは彼女がやっていると噂が出始める。

彼女は「彼は私の婚約者だから周りから誤解されないよう、行動に注意するように」と忠告だけしかしていない。


しかし、その噂を信じた婚約者から婚約破棄を言い渡される。


婚約者から信じてもらえなかった彼女は、淑女が感情を表に出してはいけないと分かっていても、涙を止めることは出来なかった。


けれど、このままでは自分が噂通り虐めを行っていたことになり、その事により家の名誉まで傷付けてしまう。


彼女は自分の心に蓋をし、婚約者と決別する決心を付け、虐めを自分は行っていないと婚約者の責めを論破していく。


彼女が虐めをしていなかったと誰しもが納得したとき、彼女は婚約破棄を受け入れ静かにその場を去った。


しかし、この二人が婚約破棄して終わりとはいかなかった。


この事が国王の耳に入り、国営の学園での出来事だったため調査が入ることになった。


そして虐めは元平民の少女が自作自演し、公爵令嬢の婚約者や他の男達までたぶらかし虜にしていたことが分かった。


元平民の少女はただちやほやされたくて、そして楽に贅沢な暮らしがしたかったようだ。


この事を重くとらえた国王は元平民の少女とその取り巻きとなった男達に処罰を与えた。


元平民の少女は厳しいと評判の修道院へ、少女を引き取り学園へ通わせた男爵家は賠償を求められたが支払いきれず財産没収と爵位返上、男達はまだ学生だったからと謹慎と各家にて再教育となった。


婚約していた家については令嬢達の精神的苦痛に対して賠償を払わせ、破棄は家同士に任せることで決定した。


その後、男達は社交界で笑い者にされるようになり、肩身の狭い思いをした。


月日は流れ、公爵令嬢は隣国の大使と出逢い、彼からの愛で傷付いた心を癒し、皆に祝福されながら隣国へ嫁いだ。


めでたしめでたし。



――――――――――――――――――――――――――――――



物語を読み終わり俺は戦慄した。

この物語がどうしても他人事に思えなかったからだ。


公爵令嬢の婚約者は彼女の努力をちゃんと見ず、ただ煩わしいと彼女を蔑ろにし、そして彼女を断罪した。

ちゃんと見ていれば彼女の努力が分かるであろうに、ちゃんと調べれば間違いであったことに気付けただろうに。

この婚約者はその当たり前の事を疎かにした。



俺はこの婚約者と何が違う?

ナターシャの事を俺は詳しく知らない。

ただ可愛げもない女としか思っていない。

ナターシャもこの公爵令嬢の様に何か努力をしているのだろうか?


カレンも虐められていると言う。

そしてナターシャも虐めていると噂されている。

俺は調べもせずにナターシャがカレンを虐めていると決めつけていた。

本当にナターシャはカレンを虐めているのだろうか?


ナターシャは俺にこの物語の婚約者と同じにならないようにと忠告してくれているのではないだろうか?

考えることをやめ、感情で行動するなと言ってくれているのではないだろうか?



俺は夕食も食べずに落ち込んだ。

そして気が付いたら一睡もせずに朝を迎えていた。

だが眠いはずの頭は冴え渡り、やる気に満ちていた。


まずは調べることから始めよう。


そしてちゃんとナターシャと向き合おう。







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