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魔本物語  作者: 秋月瑛
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第1幕〜薔薇の記憶〜第5話「怪盗ジャンクの挑戦状」

 翌朝、セイはずいぶんと早く起きてしまった。

 ベッドから起きたセイの身体を酷い筋肉痛が襲う。

 すぐにファティマも目を覚ましてセイの身体に抱きついて来た。

「ご主人様おはよ!」

「ううっ」

 セイの身体を激痛が襲う。

「どうしたのご主人様?」

「筋肉痛」

「運動不足なんだよ。だめだよ普段から運動してなきゃ」

 セイはベッドに引き返して寝転んだ。もう動くの嫌だった。

 しばらくセイが横になっていると、シスターが訪ねて来て朝食の用意ができたことを告げた。

 セイはしかたなく筋肉痛の身体に鞭を打って食堂に向かった。

 筋肉痛を庇うセイの歩き方がカッコ悪く、シスターが口を押さえて笑いを押し殺し、ファティマは盛大に指差して笑っていた。セイは顔を赤くして足を速めた。

 食堂でセシルを含めた数人のシスターたちと朝食を食べた。セイがこんなに大人数で食事をするのは久しぶりかもしれない。ずっとセイは自分の部屋でひとりで食べることが多かったのだ。

 食事も終わり、シスターたちがバタバタと後片付けをしている中、セシルは朝に似合った爽やかな表情で手紙を読んでいた。セシルは目を使わずに手紙まで読むことができるのだ。

「誰からの手紙ですか?」

 とセイが尋ねると、セシルは飲み物を一口飲んでから爽やかに答えた。

「予告状ですよ、怪盗ジャンクからの」

 ガシャン!

 近くで食器類を運んでいたシスターが思わずお皿を床に落としてしまった。そして、落としたお皿には目もくれず、セシルの前に立ってテーブルを両手で強く叩いた。

「司教様、どうしてそんな大事なお手紙のことを皆に話さないのですか!?」

「いや、みなさんお忙しそうでしたし、そんなに慌てることではないでしょう」

「な、なにを仰ってるのですか、十分慌てる事態です!」

「慌てても空回りしてしまうだけですよ、ティアナはもう少し落ち着きを持った方がよいですよ」

「司教様が落ち着き過ぎなのですよ!」

 ティアナと呼ばれたシスターは昨日もセシルに対して怒っていたような気がする。二人は犬猿の仲なのかもしてない。

 予告状の話を聞いたファティマがセイのわき腹を肘で突付いてきた。

「予告状だって、なんかドラマチックだね」

「ドラマチックとか言ってる場合じゃないでしょ」

 セイが呆れた顔して言ってもファティマには効果がないらしく、ファティマは予告状に胸をときめかせていた。

「すっごいよね、予告状を出すなんてカッコイイよね。ところでなに盗むんだろうね?」

 はしゃいでいるファティマにセシルが予告状を手渡した。

「どうぞ、興味がおありでしたらお読みください」

「わぁ〜い、やったね、予告状なんてはじめて読むよ」

 予告状を開けようとするファティマの手をセイが止めた。

「ファティマ待って、セシルさん本当に読んでいいんですか僕らが?」

「ええ、聖堂の外に漏らさないとお約束してくだされば、特に治安官には内密に」

 セイは少し首を傾げたが、ファティマはそんなことなど気にせず予告状を読みはじめた。

「え〜と、夜闇の町に鐘が九つ鳴る時、〈薔薇の黙示〉の鍵をいただきに参上する――怪盗ジャンク。だってさ」

 セシルはテーブルの立てかけていた杖を持つと、セイとファティマに説明をはじめてくれた。

「〈薔薇の黙示〉とは盗まれた〈ライラの写本〉の正式名称。そして、鍵とはこの杖のことです。〈薔薇の黙示〉はこの杖を持つ者にしか開くことができないのです」

「僕たちのそんな大事な秘密を教えて平気なんですか?」

「この杖が鍵になっていることは、この町の者でしたら誰でも知っていることですから」

 セイがふと横を見ると、ファティマが犬みたいに予告状に鼻を付けてクンクン匂いを嗅いでいた。

「何やってるの?」

「セイも嗅いでみるぅ? いい匂いがするよ」

 予告状を渡されたセイも匂いを嗅いでみたが、微かな匂いがするだけでよくわからなかった。この町中にいろんな花の匂いが立ち込めているために、鼻がよく利かなくなってしまったのかもしれない。それにこの聖堂の中は薔薇の匂いがこもっているので、それも原因かもしれない。

 手紙をセシルに返してセイはある質問をした。

「盗まれた本には具体的になにが書かれていたんですか?」

「申し訳ない、それはお答えできないのですよ」

 まあ大切な物らしいから、内容を教えてくれないのも当たり前かもしれない。

 内容と言えばセイの持っている魔導書はセイには読むことができない。

 セイがバッグから魔導書を出してテーブルの上に乗せると、セシルがセイに話しかけてきた。

「わたくしには開けることがきませんでしたが、やはりあなたは魔導書の選ばれた?」

「はい、僕には簡単に開けられるんですけど」

 セイが表紙をめくって見せるとセシルは微笑ましい表情をした。

「あなたがこの魔導書の所有者ということですね。ところでこの魔導書はどのようにして手に入れたのですか?」

「拾いました、そこにいるファティマと一緒に」

「ボクはセイに拾われましたぁ〜」

 両手を挙げてブラブラさせるファティマをセシルは見つめて、次にセイの顔を見つめて不思議な顔をした。

「どういうことなのですか?」

「僕に聞かないでください。聞くならファティマ本人に聞いてくれますか。僕にもよくわからないことが多くて……」

 セシルが再びファティマに視線を向けると、ファティマは胸を張って話しはじめた。

「ボクの正体が知りたいって顔してるね、うんうん、答えて進ぜよう。ボクはズバリその魔導書の精霊みたいなもんかな?」

 自分で説明しておきながら、なぜか疑問系?

「ボクねぇ、最近物忘れが激しくて……あはは」

 頭の後ろに手を当てながらファティマは明るく笑って見せた。この時、セイは心の中で少しだけ思ったことがある――マヌケ。でも、愛嬌のある仕草だった。

「僕からファティマに質問なんだけど、この魔導書の名前は?」

 盗まれた魔導書にも〈薔薇の黙示〉という名前があったのなら、セイの持っている魔導書にも名前があるはずとセイは考えたのだ。

「あー、その魔導書の名前はボクと同じ〈ファティマの書〉だよ」

 ファティマという名前を聞いて少し考え込むセシル。そして、静かに口を開いた。

「……確か〈アウロの庭〉と呼ばれていた砂漠地帯にそのような名の大魔導師がいたと記憶していますが、まさかこの魔導書はその?」

 少し驚いた顔をしているセシルと一緒にセイもファティマの顔を見つめた。

「……ボク? ボクってそんなに有名なのかなぁ? でも、いつどこでボクが書かれたか覚えてないんだよね、これが……あはは」

 ファティマは自分に関することはあまり覚えていないらしい。けれど、ファティマが持つこの世界の知識は多い。の割になんでこんな軽い感じの女の子なのだろうか、落ち着きがない。

 しばらく落ち着いたところでセイは昨晩出会った女性――アズィーザを探しに行くことをセシルに告げた。するとセシルもついていくと言い、特に断る理由もなかったので、セイたちは三人で町の中を散策することになった。

 町の中は昨日と変わらない。ただひとつ違っていたのは街中に人だかりができていたことくらいだった。

 セイが人だかりを掻き分けて、その中心で見たのは喧嘩をしている二人だった。その二人にセイは見覚えがある一人目は昨日セイを襲った犬男、もう一人は顔をベールで隠したアズィーザだった。

「さっそくアタシに喧嘩を売りに来るとはいい度胸じゃないかい!」

「今日は痛い目見せてやるぜ!」

 犬男が吼えると、彼はポケットの中からタマゴを取り出して地面に叩き付けた。すると、割れたタマゴから煙がモクモクと昇り、その煙の中に巨大な影を映し出された。

 セイの横にいたファティマがその影を見て驚いた表情をした。

「マジカルエッグ……それもスゴイのが入ってる。ちなみにマジカルエッグっていうのは、タマゴの中に物体を封じ込めた物で、強大な力を持つ怪物を入れるには、それなりのぉ〜……」

 ファティマは説明の途中で首を上へ向けて行く。そして、ここにいた全ての人たちの首が上へ向けられる。タマゴから出てきたモノが、それほど大きなモノなのだ。

 岩みたいな鱗に包まれた長くて巨大な物体が天を突いて伸びている。簡単に例えるなら、ゴツゴツした皮膚を持つミミズ。その巨大生物のあんな小さなタマゴの中から現れたのだ。

 ファティマが巨大ミミズを見ながら呟く。

「ワームちゃんだね。でも、一〇メートルくらいの小物でよかったねぇ」

「あれが小物!?」

 セイが驚いた声を出すと、ファティマは大きく頷いた。

「うん、普通は五〇メートルくらいあるからね」

 ワームが身体をくねらせながら動くと、近くで腰を抜かしていた犬男を下敷きにして押し潰した。その時に耳を覆いたくなるような絶叫が聴こえて、セイの足はすくみ上がった。

 早く逃げなきゃ!

 そう思って辺りを見回すと、すでに集まっていた人々は叫びながら逃げ出してして、この場に残っていたのはセイとファティマとセシルと、それにアズィーザだけだった。

 ――逃げ遅れた。

 どうすることもできずセイがその場に立ち尽くしていると、信じられないことが目の前で起こってしまった。

 それは一瞬だった。ワームは一瞬にして姿を消してしまったのだ。それを見たセイは目をパチパチさせるだけだった。

 ワームの尻尾が建物を壊し、セシルが杖を構えてワームに向かって行こうとしたその時、ワームは一瞬にして消えてしまったのだ。

 分厚い本を開いたアズィーザが何かを唱えた次の瞬間に、ワームはその厚い本に吸い込まれるようにして消えてしまった。それだけおしまいだった。

 セイのすぐ横でファティマが何時になく真剣な顔をしていた。

「あの人、魔術師だよ。それもすっごい魔導書を持ってる」

 そう言ってファティマは身体を震わせ、その顔色は少し悪い。

 すぐにこの場を立ち去ろうとしたアズィーザの腕を掴んだのはセシルだった。

「少しお話がしたいのですが、それは魔導書ですね?」

「アタシは忙しいから行かせてもらうよ」

 アジィーザはセシルの手を強引に振り払って走って行ってしまった。セシルは無理に追おうとせずにその場に立ち尽くした。

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