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06:魔力適性

 ガードナーさんに案内され、応接室で待機中である。

 部屋にはソファーが一対、間にテーブルが置かれ、高そうな調度品も置かれていて少し落ち着かない。

 私はカリーナさんと並んでソファーに座り、ガードナーさんは横に立っている。


「カリーナさん、お手数をお掛けしてしまって済みません」


 先に診断機の件で手間を掛けてしまった事をカリーナさんに謝る。


「気にしなくて大丈夫よ」


 そう言ったカリーナさんは私の頭をポンポンと叩く。

 子供じゃないんだけどなー。

 と思いつつも存外に嫌では無かった。

 母親に窘められている感じがして少し嬉しかった。


「お嬢ちゃんが気にするこたぁねぇよ。面倒な事はミアータに押し付けておけば良いんだよ」


 さらっと酷い事を言うガードナーさん。

 こんな事を言うからあんな風に言われるんだろうな。


「そうよ。ミアータは出来る娘だから大丈夫よ」


 ちょっとミアータさんが可哀想に思えた。


「ま、そんなんだから気にすんな。それよりお嬢ちゃんは竜人族か?あの魔力量は普通の種族じゃ有り得ねぇし」


 素直に答えるべきか迷った。

 自分の種族が世間的にどの様な扱いを受けているか分からない。

 昨日の内にカリーナさんに聞いておけば良かった、と後悔した。

 カリーナさんは私の戸惑う様子を見て微笑みを向ける。

 大丈夫よ、と言わんばかりに。


「……魔皇族です」


「マジか!?」


 ガードナーさんの驚き方からすると、やはり魔皇族と言うのはかなり珍しい様だ。


「魔皇族と言えば極北の魔王以来じゃねぇか?特徴は一致しているが本当か?」


「ガードナー、本当よ。でも余り詮索はしないで欲しいわ」


 カリーナさんはガードナーさんに私への詮索へ釘を刺す。


「結構、訳ありか?」


「察しなさい」


「分かったよ。まぁ、冒険者になる様な奴に色々事情がある事は珍しくない。そう言う事だろ?」


 ガードナーさんは半分諦めたかの様に言った。


「えぇ、それで良いわ」


「ガードナーさん、すみません」


 ガードナーさんに軽く謝罪をする。

 それにしてもカリーナさんがそこまで私を庇う理由が気になった。

 後で聞いてみようか。


「まぁ、珍しい事じゃないからな。困った事があれば相談に乗るぜ」


 ガードナーさんの笑顔を見ると歯が光った様に見えた。

 気の良いおじさんと思ったら良いのかな。

 悪い人では無いとは思う。

 微妙な会話を続けていると部屋の扉をノックするのが聞こえた。


「失礼するよ」


 入って来たのは紳士の様な男性とミアータさんだ。

 四十代ぐらいだろうか、髪は白髪混じりだが短く整えられており、モノクルを掛けた、品のある感じ。


「座ったままで構わないよ」


 立とうとした私とカリーナさんを制して向かいのソファーに掛ける。


「私がアングレナ支部のギルドマスター、ライル・サラドナだ。ミアータから報告は受けている」


 弁償とかにならないと良いな。


「まず魔力適性診断機が壊れた件だが、過去にも同様の事例は報告されている。何例かあるが一例としてあるのが、二百年程前に名を馳せた宝石の魔女、クリス・ディアイアだ」


 宝石の魔女、クリス・ディアイア---

 西のオーゼン帝国の宮廷魔術師、幼少から秀でた魔力を保有しており、宝石に魔力を蓄えて魔法媒体とする技術を開発し広めた人物。

 その技術はあらゆる魔道具の根幹となっており、彼女がいなければ今の魔道具は生まれてくる事は無かったと言われる程だ。

 その敬意を表して、魔道具の母とも呼ばれているそうだ。


「彼女も君と同様に魔力適性診断を行った時に診断機が壊れたそうだ。その時は原因は分からなかったが、後々彼女自身が原因を調べたそうだ」


 きっと研究肌の人だったのだろう。


「原因は膨大な魔力量、虚無の属性の適正だ」


 人に宿る魔力には属性がある。

 属性は基本属性と呼ばれる火、水、土、風と上位属性の光、闇に分かれている。

 それらに該当しない特殊属性と言うのが存在している。

 その中にあるのが虚無の属性だ。

 主に空間を操る属性で適性を持っている物が非常に少ない。

 ただ虚無の属性は適性を持つ者が少ない為、研究が他の属性と比べて分かっていない事も多い。


「虚無の属性の魔力が診断機の魔道回路を侵食、そこに膨大な魔力が入り込み、耐えれなくなる事によって壊れてしまう。まぁ、診断機が壊れてしまったのは不可抗力だから君が気にする事は何も無い。幸い診断機は二つあるから業務に支障は無いから弁償とかは必要無い」


 弁償が無いと分かって胸を撫で下ろす。


「次に君の適性だが、虚無の属性を持つ者は他の属性の適性が無い。これは過去に虚無の属性の適性がある者の悉くが他の属性の適性が無かったのだ。残念だが恐らく、君も虚無の属性以外は無いと思われる」


 基本属性、上位属性は同時に適性を持つ事が出来る様だ。

 そうすると虚無の属性は外れなのか?


「他の属性に比べて外れの様に聞こえる虚無の属性だが、本当は非常に希少な特殊な属性なんだ。虚無の属性で使える魔法の代表が空間収納だ。冒険者が喉から手が出る程求められるぐらいだからな」


 自分の指輪に目を向ける。

 この指輪の収納は本当に凄いんだな。

 ここでは黙ってよう。


「後は空間転移だ。文字通り、術者のイメージした場所に転移出来る魔法だ。ただ欠点は魔力消費量が非常に大きく適性を持った者で使えたのは宝石の魔女ぐらいだ」


 何て便利な魔法だ。

 出来れば使える様になりたい。


「外れ所か考え方によっては当たりと言っても良い。因みに君は魔法は使えるのか?」


「使った事が無いので分かりません。どの様にしたら使えるのですか?」


 魔法とは無縁の世界だったからよく分からない。


「使った事が無い……か。虚無の魔法を使える魔術師はこの国にはいないから虚無の魔法を教える事は出来ない」


 国に誰もいないぐらい適性を持っている人が少ないのか。

 どうやって覚えるか難題だ。


「だが適性が無くても使える魔法があるから、そこから学んではどうだろうか?カリーナと一緒に住むなら彼女に教えて貰うと良い」


 属性関係無く使える魔法は一般的には無属性と呼ばれている。

 虚無は一旦、置いておいて魔法を使える様にした方が良さそうかも。


「まぁ、こんな所だな。何か質問はあるかな?」


 私は首を横に振る。


「今は特に大丈夫です」


「うむ、それでは一階の受付でカードを発行するからミアータに着いて行ってくれ。今日から君も冒険者だ。呉々も無謀な事はしない様に頑張ってくれ」


「はい」


 私はギルドマスターに一礼し、ミアータさんに着いて部屋を出て、受付へ向かう。

 受付に着くとミアータさんからカードの説明を受ける。


「これがギルド証のカードです。個人の魔力で認識してますので偽造とかは出来ない様になっています。身分証も兼ねておりますので、紛失しない様に気を付けて下さい。再発行は銀貨十枚必要になります。登録しますのでカードに触って下さい」


 カードに触れるとカードぎ淡い光を放つ。

 暫くすると光は収まった。

 受付の魔道具にカードを置くとまた淡い光を放つ。

 カードに個人情報を登録しているらしい。


「これで冒険者登録は完了となります」


 ミアータさんから出来上がった冒険者証を受け取る。


「本来はFランクからのスタートですが、ジャンヌさんの実力は問題無しと判断し、Eランクからになります。冒険者は結構、危険な仕事なので無理はしないで下さいね」


「はい。当面はカリーナさんのお店のお手伝いがメインになるので大丈夫だと思います。今日は有難うございました」


「何か困った事があれば気軽にギルドに相談して下さい」


「分かりました」


 少し手間取ったけど、無事に冒険者登録完了。

 待合スペースにいるカリーナさんの所に向かい、声を掛ける。


「登録終わりました。この後はどうしますか?」


「そうねぇ……折角だから街の案内も兼ねて東門のギルドの酒場でお昼にしましょう。着く頃にはお昼のピークも過ぎてるからね」


 魔力適性診断機が壊れるトラブルのお陰で既に時刻は昼過ぎとなっていた。




 アングレナ東通り---

 南門側の通りと打って変わって賑わいの通りだ。

 通り沿いには商店、飲食店、屋台が軒を連ねている。

 タイミング良くお昼時なので通りの飲食店から美味しそうな香りに鼻をくすぐられる。

 あそこの屋台の串焼きとか凄く美味しそうだ。

 他にも甘い香りがする小さいパンの様なお菓子や色んな食材を挟んだパン、カットフルーツ、色んな料理を横目に空腹を我慢しながら通りを進む。

 自分でも子供かと思うぐらいに食欲には従順らしい。

 そんな私を見るカリーナさんの目は食いしん坊の姪を見る様である。

 昔の食事は正直、この街で食べている物に比べてかなり雑なのだ。

 砂糖は貴族が食べる様な、貴重品、塩も農村では希少なので節約しながら使わないといけないし、調理方法も焼く、煮るぐらいだ。

 香辛料なんか山で採れるハーブぐらいしか手に入らないし、輸入物の香辛料は庶民にはまず手に入る事が無い。

 屋台の料理に目移りするのは仕方が無い事だと言いたい。

 食いしん坊みたいで恥ずかしいので声には出さないけど。

 お金に余裕が出来たら屋台巡りしたいな。

 目指せ屋台制覇!

 屋台の美味しそうな食べ物に思いを馳せながら歩くと目的地、東門のギルドに着いた。

 かなり年季の入った石造りの建物で冒険者の出入りも多い。

 ギルド内は中央と違い賑やかで熱気に溢れている。

 中は入って右側がギルドの各種窓口や依頼票が貼ってある掲示板、左側は酒場になっており、賑やかなのはその為だ。

 依頼の報酬を受け取ってギルドの酒場で打ち上げ、これが冒険者の基本パターンらしい。

 複数の冒険者でパーティーを組んでる場合は特にその傾向が強いそうだ。

 私達は空いているテーブルに着く。


「あら、カリーナじゃない。いらっしゃい」 


 席に着くと緩くウェーブの掛かった赤髪の店員が来て、カリーナさんに声を掛ける。


「久しぶり、ブレンダ」


「こっちのギルドに来るなんて珍しいわね?」


「街の案内を兼ねて寄っただけよ」


「へぇ……、この娘は?」


「ウチの店のお手伝いをしてもらうジャンヌよ」


「ジャンヌ・ダルクです。カリーナさんにお世話になってます」


 ブレンダさんに軽く一礼する。


「ブレンダよ。ここで冒険者の相手をしたりギルドの仕事のてつだをしたりしてるわ。宜しくね」


「はい」


 ブレンダさんの自己紹介に応えながら座ると良い感じに主張する部位に目が行ってしまう。

 たわわに実った二つの塊と自分の胸と比較すると悲しくなる。

 身体の年齢が下がったとは言え辛い。

 成長すると願いたいが前世の私の胸はお世辞にも大きいとは言えなかったので不安だ。

 ここも前世と別の人生を送りたい。

 プラス方向に!


「取り敢えず、お腹空いたからランチ二人分宜しく」


「あー、はいはい。分かったわ。ちょっと待っててね」


 ブレンダさんは手を振りながら厨房に戻っていく。

 歩きながら揺れるあの胸は凶器だ。

 色んな意味で。

 カリーナさんの胸も私と同じぐらいなので少しホッとした。


「今、何か失礼な事を考えなかったかしら?何か身体的な部分で」


 鋭い。


「そんな事無いですよ。ただブレンダさんの胸が羨ましいなー、と」


 半分は事実。


「あー、あれは凶器よね。あの揺れ方とか殺人級よ。目に毒よ、毒」


 無い者の僻みである。

 絶壁では無いがある方では無いので辛い。

 同性とは言え僻みたくもなる。


「座ると調度、目線の位置にありますよね……」


「料理を持って来た時とか前屈みになるから嫌でも視線に入るわね。でもあの揉み心地は最高よ」


 手をわきわきと動かすカリーナさん。

 流石にその手つきはどうかと思う。

 それ以前に揉んだ事があるのか?


「はぁ……」


 これは適当に相槌をしておこう。


「カリーナ。全く……人の胸の話ばかりしてるんじゃないわよ」


 ブレンダさんが溜息を吐いてサラダを持って来た。


「あら良いじゃない。減る物じゃないんだし」


「まぁ、成長の止まった二百歳に言われても痛くも痒くも無いけどね」


 カリーナさん二百歳なの!?


「さらっと私の年齢を暴露するんじゃない」


「カリーナさん、二百歳なんですか?」


「正確には今年で二百八十七よ。エルフは人より寿命が長いから。これでも若い方なんだから」


 エルフは森の民と呼ばれ精霊と共にする種族で人の寿命が五十年から七十年だがエルフは六百年、長いと千年も生きる事もあるとか。

 特徴は美しい金髪、或いは銀髪に尖った長い耳だ。

 元々は東の海を渡った大陸にある精霊樹と言う精霊が集まる神木を崇める精霊国ユグドラシルに住む種族で、こちらの大陸にいるエルフは流れの者らしい。


「次に言う時は三百歳って、言わないとね」


「勝手に人の年齢を切り上げてるんじゃないわよ。アラフォーに言われたくないわ。まだアラサーだし」


「いや、桁が違ってるから……」


 いやー、女性の年齢トーク怖い。

 私は黙秘で行こう。


「そう言えばジャンヌちゃんは幾つなの?」


 何かさらっと自分の方に話が飛んできた。


「十四です」


「若いのね。娘と同い年ね。カリーナのお店の手伝いって、言っていたけど薬師を目指してるの?」


「いえ、そう言う訳じゃないんですけど……」


 困ったな……何て答えようか……。


「ちょっと事情があってね。暫くは素材集めをしてもらうつもり」


 困ってる私の代わりにカリーナさんが応える。

 薬の材料集めなら出来るかも。

 薬草の見分け方とか分からないから教えて貰わないと。


「あ、それでこっちのギルドに来たのね」


「そう言う事」


「でも若い娘一人で危なくない?」


「一応、ガードナーのお墨付きもあるから街の周辺ぐらいだったら問題は無いと思ってるけど」


 後でお仕事の細かい所を聞かないと。


「本当に?アイツが認めるレベルだと下手な奴らより強い?」


「戦いに限ればね」


「そうなんだ……」


 正直、自分の強さが冒険者の中でどのぐらいの位置にあるのか分からない。


「ねぇ、もし迷惑じゃなかったらウチの娘も一緒にさせてくれない?」


 ブレンダさんの娘さんと一緒にお仕事?


「ブレンダ。いきなり何言ってるのよ」


「ウチの娘も今年から冒険者やっているんだけど、ちょっと危なかっしくてね。ジャンヌちゃんは良い娘そうだし、強いなら尚ね」


 ブレンダさんの娘さんも冒険者だけど不安があるから一緒にいて欲しいと言う事かな?


「ジャンヌも冒険者初心者には変わりは無いわよ。さっき登録しに行ったばかりだし。今年からならまだランクはFでしょ?」


「まぁ、そうなんだけど……」


 私としてはどうだろうか?

 まだこの世界に来て分からない事だらけだし、街も一般知識も足りない。

 ふと中央のギルドでの受付でのやり取りを思い出す。

 私、読み書きが出来ないんだった……。

 もしカリーナさん以外の依頼を受けようにも依頼書が読めない事には話にならない。

 悪い人でなければ一緒にお仕事してもらった方が良いかもしれない。


「ジャンヌはどう?」


「まだこの街に来たばかりで分からない事も多いので、私も一緒の方が有難いです」


 一緒にお仕事してもらおう。


「ほら、ジャンヌちゃんも良いって、言ってるんだから良いじゃない。それに初心者はソロよりパーティーを組むのも推奨されてるんだし」


「確かに新人冒険者の死亡率を下げる為にパーティーを組むのを推奨しているのは分かってるわ。ジャンヌもその方が良いみたいだからね。明日、ウチの店に横しなさい」


「分かったわ。有難うね。二人とも」


「私の方こそ宜しくお願いします」


 一人だと何かと困りそうだから同い年の娘なら友達にもなれるかな。

 

「あんまりサボってると怒られるから戻るわ。明日は娘を宜しくね」


 そう言ってブレンダさんは厨房に戻っていき、私達はランチをゆっくり楽しんだ。




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