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05:冒険者への第一歩

「ん……」


 眩しい……。

 窓から注ぐ朝日の眩しさに目を覚ます。

 背中とお尻にある新しい身体の一部分---羽と尻尾の違和感。

 仰向けで寝ようとすると羽と尻尾が気になって寝辛かったのだ。

 背中とベッドに挟まれて痛いと言う事は無いのだが、気になるのだ。

 角は思いの外、気にならないので大丈夫そう?

 慣れない自分の身体に戸惑いを感じながらも一張羅の服を着る。

 こう改めて自分で服を着てみると羽と尻尾の事がしっかり考慮されているのに気付く。

 自分が人間で無い事も実感する。

 それは何処か心が締め付けられる様な感じがした。

 顔を洗い、リビングへ向かうとカリーナさんが朝食の準備をしていた。


「カリーナさん、おはようございます」


「あら起きたのね。おはよう。朝ご飯、すぐ出来るからちょっと待っててね」


 そう言ってパンとサラダを食卓に並べてお茶を淹れる。


「ありがとうございます」


「取り敢えず、今後やってもらう事を簡単に言うわ」


 朝食を摂りながらカリーナさんが言った。


「はい」


「薬の調合や処方はかなりの知識と経験がいるから私がやるわ。ジャンヌにやって欲しいのは材料の調達ね。主に薬草だけど魔物の素材もあるかな。見分け方は私が教えるわ。手が空いている時は倉庫の整理とかも手伝って貰うかもしれないけど、ざっくりこんな所ね」


 素材の調達なら見分けがつけば出来るかな。

 山にハーブとか取りに行った事もあるし、野営の時は兎や鹿、猪を狩っていたから何とかなるかな。


「ウチで使わない素材はギルドで買い取って貰えるから、そこでも稼げるからそう悪く無いと思うわよ。そんな感じだからご飯を食べたらギルドに登録しに行かないとね」


 今日は冒険者ギルドに登録に行くんだった。

 朝食を済ませて仕度をしてお店を出る。

 私はカリーナさんと一緒に冒険者ギルドのある中央の行政区へ向かう。


「冒険者ギルドって、どんな所何ですか?」


「うーん……折角だから行ってからのお楽しみで。一応、アングレナには中央の行政区と東門近くの二箇所にあるんだけど、今日行くのは中央の方ね」


「中央と東門近くのギルドで違いがあるんですか?」


「基本的には中央がメインで東門側がサブみたいな感じかな。私達にはあんまり差は無いかな。特殊な案件が無い限りどっちでも変わらないわね。中央に行くのは単にここから近いだけだから」


「そうなんですね」


 冒険者ギルドの話をしながら歩いていくと、石造りの白一色の大きな建物の前で足を止めた。

 予想していたより綺麗な建物だ。

 冒険者ギルドと言うよりはお役所と言った方がしっくり来る。

 後でカリーナさんに聞いた話では元々は東門側だけだったらしいが、冒険者の増加の対応、業務の効率化も兼ねて新しいギルドを作り、行政対応、貴族対応、管理業務をまとめたのが行政区にあるギルドだそうだ。

 地上五階、地下二階の建物だが冒険者が普通に入れるのは各種受付窓口のある一階と修練場のある地下一階だけだ。

 他の階は管理業務用のオフィスだったり、王族や貴族の対応を行う応接室、会議室、倉庫になっている。


「さぁ、入りましょう」


 カリーナさんに促されて建物内に足を踏み入れると荒くれ者が集まる場所とは真逆で整然としていて静かだった。

 静かだが人が少ない訳ではない。

 日帰りで討伐や採取に出る冒険者は朝の早い時間に依頼を受け、夕方に精算する日帰り組は多いのだ。

 一見、地味なやり方だが日帰りで達成可能な依頼は難易度が低くリスクが低く、生活に自由が利く。

 難易度が低いので稼ぎが極端に多くなる事はないが、普通に生活をする分には充分なのだそうだ。

 受付に並んでいる冒険者を見るとあんまり荒くれ者っぽい人が少ない。

 荒くれ者は酒場併設の東門側のギルドに集まるらしい。

 こっちは貴族が来る事が多いから避けている冒険者も結構、多い様だ。

 中が静かなのもそれが要因だ。


「私は昨日、森で採ってきた素材を精算してくるわ。登録受付はあっちだから終わったらそっちに行くわ」


 そう言ってカリーナさんは奥の方の受付に行った。

 私は登録の受付へ向かうと受付の女性に声を掛けた。


「あの、冒険者の登録をしたいのですが……」


「はい。まずはこちらの用紙にお名前、年齢、特技、魔法の使用可否を記入して下さい。それと後程、地下の修練場で魔力適性診断と実技試験を行いますので、宜しくお願いします」


「……代筆お願いしても大丈夫ですか?」


「分かりました」


「名前は前世と一緒でジャンヌ・ダルク、年齢は十四歳、特技は槍と剣、魔法は……」


「あ、使った事が無いんですか?それだったら今は使えないと言う形にしておきますね。そこはまた言って頂ければ変更可能ですので」


「有難う御座います」


「ジャンヌ・ダルクさんですね。最初に冒険者ギルドについて説明を致しますーーー」


 まず冒険者にはその技量に応じてランク分けされている。

 ランクは一番下からF、E、D、C、B、A、Sと言う形となっている。

 依頼には対象ランクが設定されており、ランク外の冒険者は受注出来ない様になっている。

 理由は冒険者の死亡率を下げる事、上位ランクの冒険者が下位ランクの冒険者の仕事を奪わない為だそうだ。

 最初はFか実力がある場合、または一部の学校の冒険者課程を修めている場合はEがスタートとなる。

 依頼は基本的には冒険者はギルドで受発注を行う。

 ランクは依頼の達成によりギルドで判断され、試験に合格すると上がる。

 但し、依頼の失敗が続いたりした場合はランクダウンもあるとの事。

 犯罪を犯した場合は当然、資格剥奪となる。


 依頼には種類有り、が通常依頼、常設依頼、指定依頼、指名依頼の四つに分類される。

 通常依頼とは対象ランク内の冒険者であれば誰でも受注が可能な依頼を指す。

 常設依頼とはギルドで受注を行わなくても成果を持ってくればいつでも達成となる依頼で、主に数の多い魔物や食料になる魔物の討伐、一般的な傷薬や山菜等の採取、指名手配犯の確保等が対象となる。

 指定依頼とはランクより特定の技術や条件が課せられている依頼の事。

 薬の調合、鉱物の目利き、多種多様である。

 指名依頼とは特定個人の冒険者に依頼する場合となる。


 討伐した魔物や採取した薬草に関しては原則、ギルドが買い取る事となる。

 個人的に商人と直接、売買しても罰則は無い。

 当然だがそれで損しても保証はされない。

 ギルドに付帯業務として預金業務がある。

 ギルドにお金を預けると他の街のギルドでもお金が卸す事が出来る。

 護衛や各地を回る冒険者には重宝される。

 他にも冒険者向けの技能セミナーもやっていたりする様だ。


「---説明は以上となります。それでは地下の修練場で魔力適性診断と実技試験を行いますので着いて来て下さい」


 受付の女性に案内され地下の修練場に入るとそこにはカリーナさんと大柄な男が待っていた。

 大柄の男は皮の軽鎧に背中にはバスタードソードを背中に携えており、如何にも冒険者と言う風体だ。


「ジャンヌ、覗きに来たわ」


 軽く手を振るカリーナさん。


「試験を受けるのはこのお嬢ちゃんか?」


「はい。ガードナーさん。冒険者登録に来たジャンヌさんです」


 紹介されたので私からも。


「ジャンヌ・ダルクです」


 軽く一礼をする。


「実技試験を担当するガードナー・ヴァッシュだ。宜しくな」


「ガードナーさんはアングレナで数少ないAランクの冒険者なんですよ。一応……」


 受付の女性は何処と無く彼がAランクなのが不満気な感じだ。


「一応とか言うなよ。ミアータ。これでも頑張ってるんだぜ」


 受付の女性はミアータと言う名前の様だ。

 ここに来る機会も多いから覚えておこう。


「取り敢えず、こちらで魔力適性をみましょう。これに手を触れて下さい」


 さらっとガードナーさんの抗議をスルー。

 ミアータさんが指したのは水晶玉、それに触れる事によって適性は光の色、魔力量は光の明るさで分かるみたいだ。

 そっと水晶玉に手を置く。

 その瞬間ーーー修練場は眩い閃光に包まれる。

 水晶玉が鈍い音を発すると同時に光が収まる。

 余りの眩しさに光が収まってもすぐ視界が戻って来なかったが、暫くして視界が回復すると目の前の水晶玉を見て冷や汗が背中を伝う。


「おい……マジか……?」


 私より視力が早く回復していたガードナーさんが目の前の光景に唖然とした様に呟く。

 水晶玉は見事に砕け散っていたのだ。


「え⁉︎」


 状況が全く分からない私は間抜けな声を出す。

 触っただけで砕け散るなんて誰が思うだろうか?


「ミアータ……診断機って、普通壊れないよな?」


「……えぇ……あの極北の魔王でも診断出来てる筈ですが……」


 目の前の状況に二人も思考が追い着いてない。


「多分……魔力が強過ぎて耐え切れなかったんじゃないかしら……?」


 カリーナさんもこの状況に困惑しながら意見を述べる。

 早い時間だったからか修練場には私達しか居なかったのは幸いだった。

 他の冒険者が居たら騒ぎになりそうだし。


「コイツが壊れるって、何だよ?そんな馬鹿げた魔力なんて有り得ないだろう?調子が悪かっただけじゃねぇか?」


「そんな事ありませんよ。昨日も冒険者の魔力適性診断を行ったじゃないですか?」


「そ、そうだよな……」


 二人の感じからすると、どうやら昨日も新しい冒険者が来ていた様だ。

 自分の魔力がどうなのか凄く気になる。


「取り敢えず、どうするの?」


「えー……」


 ミアータさんは物凄く困った顔をした。

 私にはどうする事も出来ないのでミアータさんをじっと、見つめる。


「う〜ん……診断機が壊れたのもありますから、実技試験が終わった後でギルドマスターに指示を仰ごうと思います」


「ま、それが無難だな」


 そう言ってミアータさんは診断機のある机から布を取り出し、診断機に被せる。


「ジャンヌさん、実技試験を行いますのでこちらにお願いします。今からガードナーさんと模擬戦をして頂きます。武器はそちらに並んでいる物を使用して下さい」


「はい」


 修練場の端に練習用の武器が並んでいる。

 剣、槍、メイス、斧、杖、どの冒険者でも使える様に凡ゆる武器がある。

 私はその中からショートスピア---自分の背丈より短い槍を右手に取り、手に馴染ませる様に軽く振る。

 同じ様にして左手にロングソードを手に取り馴染ませる。

 どちらの武器も訓練用なので刃が潰されていた。

 今の自分の身体で何処まで動かせるか分からないの不安がある。

 チラッと見るとガードナーさんは訓練用のバスタードソードを手にしてミアータさんと何か喋っている。

 さっきの診断機の件だろうか?

 弁償とか言われたらどうしようか?


「準備出来ました」


 右手にショートスピア、左手にロングソードを携え、ガードナーさんの向かいに立つ。


「ほぅ……」


 ガードナーさんは私を見て感嘆の声を漏らした。

 私の武器の使い方は割と我流なので珍しいのかもしれない。

 前線に出る時はこの組み合わせが戦いやすかった。


「実技試験は冒険者の実力を測る為なので負けたから不合格になる訳ではないので勝敗を気にせず戦って下さい。それでは始めて下さい」


 ミアータさんに促され構えを取る。

 ガードナーさんは剣を下げたまま構えを取らない。


「先手はお嬢ちゃんだ。遠慮せずに来い!」


 ガードナーさんの言葉が終わると同時に大地を蹴る。

 間合いを詰めてショートスピアを一閃。


「ハッ!」


 ガードナーさんは手にしたバスタードソードでショートスピアを弾く。

 槍が弾かれた勢いを左手に持った

ロングソードに乗せ、更に踏み込む。


「チッ!」


 体勢を崩さず踏み込んできたのが予想外だったのか舌打ちを打つ。

 一歩、後ろに引き、私の剣を躱すと同時にバスタードソードを振りかぶる。

 もう一閃、突きを打とうとしたがそう簡単に問屋は卸してくれない。

 バスタードソードの一閃を躱し、間合いから離脱。

 一旦、仕切り直す。


「ふぅ……」


 Aランクの冒険者がどのぐらいの実力かは分からないが、相対して分かるのは、はっきり言って強い。

 正直、下手な将軍等より遥かに強い。

 自分自身の試運転が今日なのが辛い所。

 思いの外、隙が無い。


「中々、堂に入った攻撃だったな。今度はこっちから行くぜ!」


 速い!

 ガードナーさんは一瞬で私の間合いまで踏み込んできた。

 ショートスピアとロングソードを合わせて咄嗟にバスタードソードの一撃を受け止める。


「ぐっ……」


 その一撃の重さに一瞬、足が止まる。

 受け止めるだけで手一杯だった。

 力比べは武が悪い。

 ガードナーさんのバスタードソードに更に力が入った瞬間を狙ってショートスピアを外す。

 全力でバスタードソードを反対側に逃がす様にし、間合いを少し取る。

 バスタードソードの振りから体勢が戻る前に間合いギリギリからのショートスピアでの一突き。

 ガードナーさんは間合いギリギリと判断し後方に僅かだけ下がり突きを躱す---

 ---突きが間合いより伸びる。


「なっ!?」 


 突きと同時にショートスピアの柄を手の中で滑らせた。

 ショートスピアが当たる瞬間、更に踏み込み横薙ぎ一閃。

 

「ぐっ……」


 しかし、その一撃はバスタードソードに阻まれる。

 体勢が整う前に攻める!


「ハァァァァッ!」


 号と共にロングソードを一閃。

 バスタードソードに阻まれても間髪入れずにショートスピアの突き。

 一気に連撃で畳み掛ける。

 流石、Aランク冒険者。

 連撃を上手く捌きながら体勢を立て直す。

 防戦に回っていたガードナーさんが攻めに転じる。

 ショートスピアの一撃を弾くのでは無く、外から内側に滑らせる様に流す。

 力の方向が悪くショートスピアに身体が共に流される。

 体勢を崩しきらない様に踏ん張る。

 が、その隙を見逃す筈も無くバスタードソードの一撃---


 ---私の首、ギリギリの所で止まっていた。

 私の負けだ。


「そこまでです!」


 ミアータさんの声と共にバスタードソードが離れる。


「良い戦いっぷりだったぜ。お嬢ちゃん」


「こちらこそ有難うございました」


 ガードナーさんに一礼して握手を交わす。


「槍と剣での二刀流とは恐れ入ったぜ。Bランクぐらいの奴等なら遅れは取らなさそうだな」


 自分の腕を褒められるのは嬉しい。


「ジャンヌ、凄いじゃない!ガードナー相手に打ち合うなんて中々よ」


 カリーナさんの喜びから察するに負けはしたがかなり善戦していた様だ。


「カリーナ。そのお嬢ちゃんは大したもんだぜ。この腕なら魔力適性診断の結果なんか関係無くEランクスタートは確実だ」


「ガードナーさん。判定を下す前に勝手にそう言う事は言わないで下さい」

 

「良いじゃねぇか、ミアータ。俺が実力充分で合格だと思ってるんだから」


「はぁ……全く困った人です……」


 ミアータさんはガードナーさんを諦め、私の方を向く。


「ジャンヌさん。実技試験は以上で終了です。先程の戦い方を見る限り実力は問題ありません。ガードナーさんも仰る通り、実力充分でEランクスタートになると思います」


 良い結果で良かった。

 でも暫くは身体を慣らす為に鍛錬が必要だと感じた。

 自分の想定している動きと実際の動きにズレがある。

 実戦では致命傷にもなり得る。


「診断機の件でギルドマスターに相談しますので三階の第二応接室でお待ち下さい。ガードナーさん、ジャンヌさんを応接室に案内してもらって良いですか?」


「あぁ、構わねぇぜ。俺は案内したらお暇しても良いのか?」


「駄目ですよ。ガードナーさんは実技試験官なので一緒にお待ち下さい」


「チッ、しゃあねぇか。ん、カリーナはどうするんだ?」


「私は一応、ジャンヌの保護者的な位置付けだから一緒に行くわよ」


「分かりました。それでは暫くお待ち下さい」


 ミアータさんは駆け足で修練場を出て行く。

 私達もガードナーさんに連れられて応接室へ向かう。

 修練場に残された魔力適性診断機の残骸に後ろ髪を引かれながら。

 弁償と言われたらどうしよう?



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