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04:城塞都市アングレナ

 ---城塞都市アングレナ

 北西にある沿岸国家ラグナ公国、西の大国オーゼン帝国、大陸南部の水の国ウトルーア王国の街道が交わる要衝であり、カラル王国の王都アルンハムに次ぐ大都市。

 周辺国からの交易も盛んであり、多種多様な種族、文化が混じりカラル王国の中でも特異な街らしい。

 周辺国の国境にも近い為、街には高い城壁で囲まれているのもあり、城塞都市と呼ばれている。

 街には商人、冒険者等の都市外からの者が多く、非常に活気に溢れている。

 南に大きな森があり、その先にはカラル峰からなるルーエン山脈を有し、魔物が跋扈するので冒険者の活動も盛んの様だ。

 私が居たのは南の森の浅い所らしく、深い所は魔物の住処になっており冒険者でも余り近づかないらしい。

 アングレナに着く迄は魔物に遭遇する事も無く、夕暮れ時には城塞都市の南門に着く事が出来た。

 南門は街道に繋がっていないので

他の門より門が小さく、通る人も南の森、山岳部に用がある者ぐらいしか通らないので門の周りは閑散としている。

 夜は門が閉まるので、王都に繋がる東門は城塞都市入りを待つ人で混雑するらしい。

 西門、北門は頑強な高い石壁が連なり、門も大きくこの街の見所だそうだ。

 機会があれば見に行こう。

 観光も悪く無いかもしれない。


 南門に着いた私はカリーナさんに案内され門の詰所で街への入場手続きを行う。

 ギルドのカードがあれば見せるだけで入場出来るが、無い場合は他の身分証、或いはお金を払って仮入門証を発行して貰う必要がある。

 当然、身分証を持って無い私は仮入門証を発行して貰うしかない。

 仮入門証も滞在期間で金額が違い、一週間で銀貨五枚、一ヶ月は銀貨二十五枚、それ以上は一ヶ月毎に更新が必要になる。

 私の場合は冒険者の活動も行うし、明日にはギルドで登録するので期間は一週間で十分だ。


「仮入門証の発行か。一週間だと銀貨五枚になるが払えるか?」


 仮入門証の申請をすると受付の衛兵から発行料の支払い可能か聞かれる。

 基本は先払いなのだが、支払いの保証先があれば後払いも可能らしい。

 まぁ、当然な事だが保証先の証明は必要だが。


「はい。これでお願いします」


 そう言って腰の小袋から銀貨五枚を取り出し、受付の衛兵に渡す。

 最初に貰ったお金の殆どは指輪の収納に入れてあるが、銀貨三十枚程、腰の小袋に移し替えたのだ。

 カリーナさんから指輪の収納を持っている人はかなり珍しく目立つらしいのでそうする事にした。


「おう。銀貨五枚、間違いないな。これが仮入門証だ。これが仮の身分証にもなるからな。紛失の再発行は面倒だから失くすなよ」


 受付の衛兵から一枚の書状を受け取る。


「ありがとうございます」


 受付の衛兵にお礼を言い、詰所の入り口にいるカリーナの元へ向かい、声を掛ける。


「カリーナさん、仮入門証の発行出来ました」


「それは良かった。もう日が沈みかけているからギルドに行くのは明日かな。取り敢えず、私の店に行きましょう。お腹も空いたし」


「はい!」


 南門を潜ると思いの外、静かだった。

 どうやら南門付近は住宅が中心で賑やかなのは東門から西門を結ぶ通りの方らしい。

 大きな区分けとして街の中心が行政区、東西が商業区、南北が住宅区となっている。

 行政区に近い北側の住宅街は貴族や富豪が住む高級住宅街なので近づかない方が良いそうだ。

 南西のスラム街と城壁の外にある外民街は治安が悪いので近づかない様にキツく注意された。

 カリーナさんのお店は中央寄りの南東にある。

 中央から南門に続く通りは人の往来は少ないが石畳でしっかり整備されており、街灯が一定間隔にあり夜でも安心して通れる様になっている。

 一体どうやってあんなに沢山の街灯に光を灯しているのかがきになって聞いてみると、詳しい原理は分からないが、魔力の宿った鉱物、魔石を加工して魔法で制御しいるらしい。

 道行く人を見ながら種族の多様さに驚く。

 あんまり見られている感じは無いが、自分が目立っていない気になった。


「私、目立ちませんか?」


 カリーナさんに聞いてみる。


「意外と目立たないと思うわよ。見た目だけなら竜人族に近いし、尻尾が無ければ夢魔族に似てるから大丈夫じゃないかしら」


 竜人族は私と同様に角、羽根、尾があるみたいで、悪目立ちしなくて済みそうである。

 今の姿形で前世にいたら悪魔扱いされるのは間違いない。


「目立つと言う意味だったらゴブリンやオークみたいな獣鬼族の方が目立つし、気にする事は無いわ」


 言われて通り行く人を見ていると六割ぐらいは亜人種で、普通の人の方が少し少ないと思える。


「もう少ししたら店に着くわ」


 少し細い通りに入って行き、暫く歩くと一軒の建物の前でカリーナさんが足を止めた。


「ここが私の店よ」


 お店?

 見た感じは普通の石造りの一軒家だ。

 お店の看板も無く、これと言った特徴も無い。


「まぁ、個人でのんびりやっている店だからね?相手は商人や医者だからそんなに構えなくていいのよ。中に入って」


 カリーナさんに案内されてお店に入る。

 店内はシンプルに一組の四人掛けのテーブルがあるだけで飾り物も無く、かなり殺風景だ。

 本当にお店なのか怪しいぐらいに何も無い。


「何も置かないんですか?」


 疑問を口にする。


「作り置きの薬は無いからね。オーダーを受けてから調合してるからここは客と話が出来れば十分なの。薬の材料は温度と湿度が管理された地下室だからこっちに置く必要は無いわ」


 そこで疑問が浮かんだ。


「お店の中を見てると、手伝える事が無い気がするのですが……」


 私は薬の知識が無いから調合はまず無理。

 作り置きの薬が無いから知識の無い私が接客をしても意味が無い。

 材料の見分けも出来ない。

 ここでやれる事が無いのだ。


「手伝ってもらうのは中より外の仕事かな。詳しい説明は明日するから上がって、上がって」


 カリーナさんに促されて店の奥に進むと調合部屋だろうか。

 部屋の机の上にはすり鉢や計量器具、片隅には本棚が置いてある。

 部屋に入り右側の部屋はリビングとキッチンになっていた。

 リビングと言っても四人掛けのテーブルと食器棚があるぐらいでそんなに広くはない。

 リビング横に階段があり、地下室と二階に繋がっている。

 私が借りるのは二階の一室になる。

 ここが当面、私の居場所になる。

 部屋にはベッド、簡素な机に衣装掛けがあるので充分だ。

 荷物は指輪の収納があれば嵩張らないし。

 見ず知らずの私に寝床から仕事まで用意して貰って感謝しかない。

 取り敢えず、コートを脱いでリビングへ戻る。 


「狭い部屋でゴメンね。二階の広い部屋は物置になってて散らかってるから……」


 少し恥ずかしそうな顔で言うカリーナ。


「今の部屋でも充分、助かります。後、指輪の収納もありますから」


「それ便利よね。一部の大商人や貴族ぐらいじゃないかしら。持ってるの。輸送系の依頼があればかなりかなり稼げそうね」


 ギルドによくある依頼は魔物討伐、護衛、素材採取が多いみたいだが、冒険者に私の様な収納手段を持っている人を見越して物資の輸送の依頼も少なからずある様だ。

 一度、指輪の収納に入る量は確認した方が良いのかな。

 今は授かった物しか入れてないけど、今後は沢山入れる機会もあるかもしれないし。


「ちなみにその指輪は何処で手に入れたの?」


 え⁉!?

 アルスメリア様から授かったと言って良いのだろうか……?


「……両親の形見の一つです」


 取り敢えず、誤魔化す事にした。

 前世で神の声の事で異端扱いされた事が過った。

 迂闊に神の事を口にする気にはなれなかった。


「あ、ゴメンね……辛い事を聞いちゃったわね……。今、ご飯にするからちょっと待っててね!」


 カリーナさんは申し訳なさそうにキッチンで晩御飯の準備を始めた。


 ……カリーナさん、嘘を吐いてごめんなさい……。


 キッチンで手際良く料理をするカリーナさんを見ながら故郷を出立する前の事を思い出す。

 父、母、兄、妹と囲んだ温かい食卓を。

 そんな過去に思いを馳せている内に出来上がった料理が食卓に並んでいく。

 鶏肉のソテーに野菜のスープ、柔らかそうな白いパン。


「あんまり大した物は作れないけど、我慢してね。頂きましょう」


 カリーナさんに促されてスープを一口。


「美味しい!」


 パン、鶏肉のソテーも順番に口に運ぶ。

 どっちもとても美味しい。

 これで大した料理ではない⁉︎

 私が今迄に食べてきた料理はなんだったのだろうか?

 野菜のスープは良く食卓に並んだがこんなに香りが良く、味がしっかりした物は殆ど無かった。

 鶏肉のソテーにしてもハーブ、スパイスの香りと絶妙な塩加減、お肉もジューシーで柔らかい。

 お肉の塊をただ焼くのは料理と呼べない様な気がしてきた。

 パンはふわふわでほんのり甘い。

 柔らかいパンは貴族階級じゃないと食べれないのに、ここでは普通に食べれる事に驚きを隠せない。


「それは良かったわ」


 カリーナさんの料理が美味しくて夢中で食べていた。

 ここで色んな料理を食べ歩くのも悪く無いかもしれない。


 美味しい御飯を食べた後はお風呂に入らせてもらった。

 以前は水浴びぐらいしかしていなかったが、こっちではお湯で身体を洗い、お湯に浸かるらしい。

 正直、水浴びよりお湯にに浸かる方が疲れが取れるし、寒い冬は身体の芯から温まるから良い。

 お風呂、キッチンで驚いたのが、生活の至る箇所で魔法が使われている事だ。

 お風呂では水の魔石で湯船に水を張り、火の魔石で水を温めて湯にしたている。

 キッチンに釜戸は無く、鍋を加熱の魔方陣の上に置いて使ったり、食材は氷の魔石を利用した入れ物、冷蔵庫に入れて保管し、食材が長持ちする様にしていて、かなり便利で凄い。

 冷蔵庫は魔石の魔力を一杯にすれば一週間冷やし続ける事が可能な様だ。

 魔石を利用した道具を魔道具と言い、ここ100年で一気に開発が進んでいる。

 魔石に魔法を付与する技術が確立された事が一番の要因らしい。

 ただ魔道具は値段が高い為、全てが普及している訳では無かった。


 世界が変わると色んな事が違ってくるのを実感しながら新しい世界の一日目が終わった。




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