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31:王女との対面

 何か不味い事でも言ったかな?


「ジャンヌ、ヴァネッサ様はこの国の王女様ですよ」


 小声で何処か窘める様な口調でミーシャは言った。

 そう言えば忘れていた。

 ふとリリィを見ると目を逸らした。

 間違いなく私と一緒で忘れていたに違いない。

 目ざとくリリィの事にも気付いたらしい。

 よくよく考えれば宰相を担う侯爵家の娘と王女が同い年なら知り合いなのは自明の理だ。


「殿下を知らないとは何処の家の者なのですか!?」


 ヴァネッサ様の向かいに座る同じ狼の獣人の女子が声を上げた。


「アグネス、ここは食堂なのでそんな声を荒げてはいけませんよ」


 王女様はやんわりと注意する。


「ですが……」


 アグネスは不満げだが、王女様に言われるとそれ以上は何も言えなかった。


「初めまして、私は官吏科のヴァネッサ・フェメーレンと申します。形だけの王女なので気軽に接して頂けたら嬉しいですわ」


 本当に王女様なんだ。

 出来れば接触したくは無かった人物ではあったけど、出会ってしまったのなら仕方が無い。


「魔法科のジャンヌ・ダルクです。アングレナで冒険者をやっていました」


「魔法科のリリノア・セネアです。ジャンヌと一緒のパーティーで冒険者をやってるよー」


 私とリリィの自己紹介にヴァネッサ様達は驚いていた。


「私も魔法科でカトリーヌ・ロメ。世界中を旅していたからここの事は詳しく無いけど、よろしくね」


 カティはいつもの調子で挨拶をする。

 その言葉にヴァネッサ様は僅かに眉を動かした。


「こちらこそよろしくお願いしますわ」


 そう言ってヴァネッサ様は一緒にいる女子にも促す。


「官吏科のアグネス・ナイルズです。アートネリル領を収めるナイルズ侯爵家の長女です」


 家名を強調するアグネス。

 あんまり良い感じがしないし、苦手なタイプかも。


「科は同じでディアンナ・リリエンザールと言います。ジャンヌさんとは羽仲間で是非、仲良くして下さいね」


 羽仲間と言う新しい括りにされてしまった。

 ディアンナさんはハーピーで手と翼が一体となっている種族で制服も特殊な加工がされていた。


「こちらこそよろしくお願いします。羽仲間ですか?」


「はい。翼を持つ種族はあんまり多く無いので……」


 言われて見ればそうかもしれない。

 翼を持つ種族はハーピー、竜人族が代表的で後は少数の種族だけだ。

 魔皇族はそもそも現存している人数が物凄く少ないので私以外の人は知らない。

 種族で一番人数が多いのは獣人でその次はほとんど一緒ぐらいでエルフ、ドワーフ、魔族、オーガと言う種族が占める。

 翼を持つ種族はそう言う意味では割と珍しいのだ。


 私とディアンナさんは無言で視線をがっつり交わした。

 ディアンナさんとは仲良くなれそうな気がする。


「あら、気が付けばジャンヌさんとディアが意気投合しているみたいですね」


「殿下、申し訳ありません。つい……翼を持つ者が学院に多く無いので……」


 ディアンナさんが王女であるヴァネッサ様を置いていってしまった事に申し訳無さそうに言った。


「いいえ、友好が広がるのは良い事だとは思いますわ。私も普段は王宮から出られないのでこの学院生活が凄く楽しみだったのです」


 ヴァネッサ様は目を輝かせながら語った。

 王女だと行動にはどうしても制限が付くのは仕方が無い。


「王宮では出ない様な料理も楽しみですし」


 そう言って彼女は自分の更に盛られた山盛りの薄切り肉を口に運ぶ。

 どうやら彼女は王宮にいて出来なかった事を学院にいる内に色々とやりたい様だ。


「だからと言って王女殿下とあろう御方が平民の様にお肉をガツガツと頬張るのは如何な物かと……」


 アグネスは溜息を吐きながら全く気にしないヴァネッサ様の事をぼやく。


「なのでこうして昼食を楽しんでいるのです」


 さらっとアグネスのぼやきをスルーするヴァネッサ様。

 少しアグネスが可哀相に見えた。


「ミーシャは先程、さらっと私から視線を逸らしましたよね?」


 ちゃっかりミーシャの事は覚えていた様だ。


「いえ、そんな事はありません。食べている物を落としそうになって慌てていただけです」


 ミーシャはしれっと嘘を吐く。

 あれは明らかにヴァネッサ様を見ての行動だ。


「昔はよくお庭で駆けっこをした仲ではありませんか?」


 大人しそうなイメージのミーシャだったけど、実はお転婆だったのかな?


「で、殿下!?それは昔の話で……」


 ミーシャはあたふたしながら話を止めようとする。


「転んでドレスを泥だらけにしてビアンカ様に一緒に怒られたと言うのに、今や一人淑女らしく野菜ばかりのご飯を食べて、私を無視するなんて酷いですわ」


 少し芝居掛かった様な動きをする。

 次にビアンカさんに会ったら昔のミーシャの事を聞いてみよう。


「ミーシャは昔はお転婆でしたからね」


 アグネスも昔を思い出す様に言う。


「ちょ、ちょっとアグネス!あなたも人の事は言えないじゃないですか!私の家に泊まりに来た時の事は忘れていませんよ」


「ミ、ミーシャ!?その事は既に時効です!私もまだ五歳で幼かったから……」


 先程のアグネスらしくない萎らしい感じで何処か恥ずかしげに言った。

 と言うかさっきから幼少時の恥晒し大会になっている気がする。

 それにしても皆仲良しだと言うのが分かる。


「その話は初めて聞きますわ」


 アグネスの恥ずかしい話はヴァネッサ様は知らなかった様で興味津々だ。


「殿下、後生ですからご容赦を……」


 これ以上聞かないで欲しいと懇願するアグネス。

 その内容を知っているミーシャは喋る気は無い様だ。


「むぅ……私だけ知らないのは切ないですわ……」


 ヴァネッサ様は少し拗ねた様に口を尖らす。


「うーん……」


 ふと横から唸る様な声を出していたカティ。


「カティ、どうしたの?」


「いやー、彼女と会った事が無いのに顔に見覚えがあるんだよね」


 それは不思議な話だ。

 でも八百年も生きていれば似た様な人の一人や二人ぐらいはいそうな気がしないでも無い。


「私と似た様な方ですか?どの様な方なのですか?」


 カティの言葉にヴァネッサ様は気になった様だ。


「名前は覚えて無いんだけど、確かラグナの王女で添い寝した時にお漏らしをされたのははっきり覚えているんだけど……」


 カティの一言にヴァネッサ様の顔が凍りついたかの様に固まった。


「あの……その方のお名前はリリネッタと言いませんか?」


「そう!そんな名前だった!思い出した!偶々、寄っただけなんだけど、王城に呼ばれた時に遊び相手がいないって、駄々を捏ねるから一緒に遊んであげたんだった。懐かしいなぁ……」


 それにしてもカティは色んな所に行っていると思ったし、隣国の王城にも入れるコネクションがあるのに驚きだ。

 カティの思い出に私とカティ、リリィ以外の人が固まる。


「大変申し上げにくいのですが、リリネッタは私の母なのですが……」


 とんでもない地雷だった。

 ヴァネッサ様のお母さんとなると王妃様になる。

 つまり、本人のいない所で王妃様の恥ずかしい幼少時の話を暴露され聞いてしまった事になる。


「カトリーヌ様はお母様とお知り合いなのですか?」


 ヴァネッサ様はカティが年上なのと王妃様の知り合いと言う事に気が付き様付けになった。


「私に様なんていらないよ。気軽にカティって呼んでくれたら良いかな。同級生だし。そんな偉くも無いし。向こうは覚えているかな?かなり小さい時の事だし、それ以来会った覚えが無いから」


「そうですか。私も母と同様によろしくお願いしますね」


「よろしく~」


 丁寧なヴァネッサ様と対照的に軽い感じのカティ。

 お供のアグネスはカティの態度が気に食わない感じを醸し出しているが、王妃様の知り合いとなると迂闊に口に出す事は出来ない様だ。


「それにしてもカティは色んな所に行っているんですね」


「お姉ちゃんを探すのに色んな所を回っていたからね」


 私とカティの言葉にディアンナさんが反応した。


「二人は姉妹なんですか?」


「はい」


「血は繋がっていないんだけどね」


 カティは少し悲しそうな顔をした。

 本当は前世の姉妹で本当の事は言えないのだから仕方が無い。

 後、私が姉だと年齢的な所に齟齬が出るが、それは適当に誤魔化すしかない。

 ディアンナさんは空気が読める人の様でカティの表情を見てそれ以上聞く事は無かった。




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