29:説明出来ない事が多い
私が部屋へ戻るとリリィとミーシャはリビングでお茶をしていた。
「ただいま」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
ふとサリさんがいない事に気付く。
「ミーシャ、サリさんは?」
「サリなら家からの呼び出しで寮から出ています。そちらは……一緒のクラスの方ですよね?」
カティは私の前に出る。
「カトリーヌ・ロメと申します。ジャンヌお姉ちゃんの妹です。宜しくお願いします」
カティの自己紹介にリリィとミーシャは訝しげな顔をする。
そう言えばどう説明するか全く考えていなかった。
「カティは事情があってずっと離れて生活していて偶然、再会したんです。なので出来れば仲良くして貰えると助かります」
うーん、説明が苦しい。
「分かりました。私はモートス侯爵家の長女のミーシャ・モートスです。一応、エルフでは無くてハーフエルフです。クラスも一緒なので宜しくお願いします」
「私はジャンヌと一緒のパーティーで冒険者をやっているリリノア・セネアだよー。私は普通の人間かな。クラスは違うけど気軽にリリィって呼んでね」
二人とも無理そうな説明を気にせず仲良くしてくれそうで良かった。
「カトリーヌさん、折角なので一緒にお茶でもどうですか?」
「じゃ、喜んで。私の事は気軽にカティって、呼んで」
カティはミーシャに促された席に座り、ミーシャは棚からカップを取り出し、カティにお茶を淹れる。
私にもお茶を淹れてもらい一息吐く。
「それにしてもジャンヌに妹がいるなんて知らなかったよー」
こっちに転生しているなんても思いもしなかったから。
基本的に自分の過去に関しては濁して説明しかしていない。
「ごめんなさい、リリィ。ちょっと私にも事情があったから……」
笑いながら曖昧にする。
私の転生の事情を話しても良いのか判断出来ない。
「でも種族が違いますよね?カティは魔族っぽいですし、ジャンヌは……そう言えば種族は何でしたか?」
あまり自分の種族については言わないようにしていたけど、どう答えようか?
私がどう答えようか困っているとカティが助け舟を出してくれた。
「お姉ちゃんと私は……親が違うの。でも種族が違っても家族には変わりないよ」
本当は一緒なんだけど、そう言うしか無さそうだ。
「私自身も余り自分の事は詳しく無いの。生きるのに必死だったので……」
嘘を吐くのは偲びないけど、もう割り切ろう。
申し訳無さそうに話す私にリリィとミーシャは聞いては行けない話題だと思ったのか、少し申し訳無さそうな顔をする。
「あんまり聞かれたくない事もあるよね……」
「ごめんなさい。私も浅慮だったわ」
謝る二人を見ながら少し罪悪感が。
「そう言えばみんな魔法科だよね?」
場の空気は暗くなっているのをカティが話題を切り替える。
「そうだよー」
「野外の実戦実習とかある時は一緒にチーム作らない?」
そんな実習があるんだ。
普段、森に行って狩るのと違いは何だろう?
「それは良いですね。折角、お友達になったのですからみんな一緒が良いです」
ミーシャは諸手を挙げて賛成の様だ。
「野外の実習って、何をするんですか?」
気になったので聞いてみる。
「私が聞いた話だと、近場の冒険者達がよく行く狩場で実際に魔物を討伐しに行くんだったかな。一応、冒険者の護衛も付くらしいよ」
それなら大した事は無いのかな?
「それだとジャンヌとリリィには物足りないかもしれませんね」
「確かにそうかも」
ミーシャの言葉にカティはうんうんと頷いていた。
カティは私の戦っている所は見ていないと思うんだけど。
「実際、守りに付く冒険者のランクが平均Cランクですからね。そうすると実際にCランクのジャンヌだと引率側に近いですよね」
そう言われるとそうなのかな?
「ジャンヌはBランクのワイバーンを一人で倒しちゃうもんね」
「そうするとお姉ちゃんの実力はAランクに近いよね?」
それと同じ事をガードナーさんに言われた。
ワイバーンの素材を買い取りに出した時にギルドで根掘り葉掘り聞かれた挙句、そう言われたのだ。
ワイバーンはBランクの魔物だが、Bランクの冒険者が単独で倒せる程、優しい魔物では無い。
「そんなに凄く無いですよ」
「そんな事ありませんよ。実技試験の試験管の先生って、確かBランクと聞きましたよ」
ミーシャにはあの時の会話は聞こえてないと思ったけど、別口で調べたのかな?
「ジャンヌは虚無属性持ちだからねー」
さらっと色々と自分の事が暴露されていく。
「お姉ちゃん、虚無属性なの!?」
カティは驚いた顔で私の方を見た。
「そうだけど……何かあったの?」
「因みにどのぐらい使えるの?」
「ほとんど使えないですよ。アングレナの図書館で文献を調べたりしたんだけど、虚無属性の魔法について乗っている物が碌に無くて……」
折角、適正があるのに何も使えないのだ。
そして文献の少なさには頭を抱えざるを得ない。
「なるほどね。空間収納が使えると便利だから早く覚えられた方が良いよね?」
「空間収納はこの指輪があるからそんなに困らないかな。ホーンベア何匹でも入りますし、あんまり困ってはないですよ」
私はそう言って嵌めている指輪を見せる。
この指輪があると必ず空間収納の魔法が必要とは思えなかったりする。
「お姉ちゃん、その指輪って空間収納が付与されてるの?」
「はい。便利ですよ」
カティは私の耳元に顔を寄せて小声で聞いてきた。
「お姉ちゃん、もしかしてアルスメリア様から貰ったの?」
カティは何故、分かったのだろう?
「そうですよ。武器も服も」
「それ、他の人に絶対、言ったらダメだよ」
カティは小声で厳しめの口調で言った。
事情を話せる人がいないので基本的に話すつもりは無い。
「私も言うつもりは無いよ」
そう言うとカティは私から離れる。
「どうしたのですか?」
内緒話をする私とカティに訝しげに感じたのかミーシャが気になって聞いてきた。
「ううん、何も無いですよ。ね、カティ?」
「うん。それよりも三人はルームメイトなの?」
カティは話題を逸らす。
「そうだよー。部屋が豪華過ぎてびっくりしちゃうよ。私の家が入りそうなぐらい広いんだもん」
この部屋は本当に広い。
リリィの家は一度、行った事があるけど、ごく普通の平民の家なのでそんなに広くは無いのだ。
「本当はミーシャが一人で住む予定だったのですが、この広い部屋で一人は寂しくて嫌だと駄々を捏ねたので」
ここぞと言わんばかりに私から暴露してみる。
そうするとミーシャは顔を真っ赤にする。
「だ、だって……仲良くなったのなら良いじゃないですか……」
あ、拗ねた。
「羨ましいな。私は一人部屋だから」
カティも貴族棟の部屋だけど、一人部屋だった。
「毎日は問題があるかもしれませんが、休みの日はこちらに泊まりますか?幸いベッドは四つありますから」
確かにベッドは四つあるからカティが来る分には問題は無い。
「良いの!?」
「えぇ、学校生活は賑やかな方が楽しいですから」
何だか賑やかな学院生活な予感がしてきた。
それでも初体験の事なので明日からが楽しみになってきた。




