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27:予想外の再会

「へ?」


 驚きの余り腑抜けた返事をしてしまった。

 私が主席とか有り得ないと思うのだけれど……。


「はい!」


 リリィに突かれて返事をしなおして立ち上がる。

 周囲の視線が刺さって辛い。

 こう言う羞恥プレーは勘弁して欲しい。


「次はカトリーヌ・ロメ」


「はい」


 何処か懐かしい声に思わず声をした方向を振り返る。

 長い銀髪に赤い目をした私と同じ制服を着た私と同じ特徴をした顔を持った少女がそこにいた。

 髪型、髪の色、目の色は全く違うがその顔は覚えている。

 忘れる筈も無い。

 名前も私に縁のある名前。

 少女と目が合うと彼女は私に向って微笑んだ。

 私は咄嗟に前を向いた。

 心臓の鼓動が速い。

 動揺を隠そうと必死に抑える。

 考えてみれば私がいるのだから彼女がこの世界にいてもおかしくは無い。


「以上がAクラスね。教室に案内するから私に着いて来てね」


 気が付けばAクラスの生徒が全員呼ばれた後だった。

 ミーシャは名前を呼ばれた様で横に立っているが、リリィはまだ席に座っている所から見ると名前を呼ばれなかった様だ。

 一緒に帰る約束をして先生に続いて教室へ向った。


 私は適当に席へと座り、ミーシャも自然と私の横に座った。。

 メアリー先生は生徒が席に着くと簡単に授業の時間割や注意事項等の説明を始めた。

 説明中にカトリーヌの方を見ると笑顔で返してきた。

 私の予想が違ってなければ彼女に間違いない。


「今日は以上です。明日から授業が始まるから気を抜かず頑張りましょう」


 先生の言葉が終わると私は息を吐く。

 席を立ってカトリーヌの方へ向おうとすると私のすぐ傍にカトリーヌが立っていた。

 向こうも私と同じ考えなのだろうか?


「ジャンヌ、どうしたの?」


「ミーシャ、ごめんなさい。少しこの子と話をしたいの。先に寮に戻ってもらっていい」


「良いですけど……お知り合いですか?」


 ミーシャは不思議そうに聞いてきた。


「そう……かな」


「分かりました。それでは先に部屋に戻っていますね」


 ミーシャはそう言って教室を出て行った。

 私はカトリーヌを見た。


「ここじゃ困るよね?」


「寮の私の部屋じゃダメかな?」


 話し方もそっくりだ。

 そっくりではなくて一緒だ。

 私が首を縦に振ると貴族棟の二階にあるカトリーヌの部屋へと向った。

 移動中は二人とも会話は無くただ静かに歩いていた。

 きっと彼女も我慢をしている。

 彼女の部屋は私達の部屋に比べて狭い部屋だった。

 ベッドと勉強用の机、応接用のテーブルが置いてあるだけの部屋だ。

 一応、設備も一通り揃っている。


 部屋に入って扉を閉めた瞬間、彼女が抱きついてきた。

 我慢が出来ず嗚咽を漏らしながら私の胸に顔を埋めている。

 寂しい時はよくこうやってあやしたな、と思いながらカトリーヌの髪を優しく撫でる。

 その瞬間、嗚咽から大声で泣き始めた。

 きっと物凄く彼女を心配させた事だろう。

 誰よりも私を心配してくれたのでは無いかと思う。


 泣き続けて暫くすると大分すっきりしたのか嗚咽も収まってきた。


「カティだよね?」


 私の言葉に彼女は頷いた。

 死んでも自分の大切な妹の顔を忘れる事は出来ない。

 彼女は前世の私の妹、カトリーヌ・ダルク。

 今、カティが名乗っているロメと言う家名は母親であるイザベル・ロメから取ったのだろう。

 昔から甘えん坊で寂しくなると私の布団に潜り込んできてよく一緒に寝ていた。


 私はカティをベッドに座らせて私はその横に座った。

 ハンカチを取り出して泣いてくしゃくしゃになったカティの顔を拭いてあげる。

 こうやっていると昔に戻ったみたいだ。


「……お姉ちゃん?」


「どうしたの?」


「すぐ私と分かった?」


「当たり前じゃない。だって昔と変わらないんだもん」


 大切な家族を忘れるなんて有り得ない。


「カティは私を見てすぐ分かったの?」


「実はちょっと迷った……立派な角があって羽と尻尾があったから……」


 うーん、それは仕方が無いかな。


「カティも死んでからこっちの世界に転生したの?」


「お姉ちゃんも?」


「そうだよ。アルスメリア様から魂が大きすぎるから人の器じゃ器が小さすぎるみたいでこの体になったの?驚いた?」


「うん。私は魔族だけどお姉ちゃんは魔皇族なんだね。アルスメリア様はグッジョブだね」


「カティは魔族なんだ。種族が違っても姉妹だからね」


「うん、そう言えばいつこっちに来たの?」


「一年ぐらい前かな。カティは?」


「私はもう八百年も生きてるよ。ずっとお姉ちゃんが転生してこっちに来ると思って世界を放浪していたの」


 八百年……そんな長く生きて私を探していたと思うと胸が苦しくなった。


「お姉ちゃんが処刑された時、凄く悲しかった……。あ、一応、お姉ちゃんの冤罪は晴らされたんだよ」


「知っているよ」


「何で?」


 私の答えにカティは驚く。

 普通は自分の死んだ後の事なんか知らないからね。


「お世話になっているカリーナさんって言うエルフの人なんだけど、その人もこっちの世界に転生してきた人で私が死んだ後に生きていた人みたいなの。事の顛末は全部教えてもらったの」


「あー、あのオバサンエルフでしょ!?お姉ちゃんの事を聞いた時知らないって言ったし。後で仕返ししてやる!」


 カティは頬を膨らませて憤慨する。

 カリーナさんと面識があったんだ。


「カティ、ダメだよ。カリーナさんのお陰で学院に入学出来てカティに会う事が出来たんだから」


 私はカティを宥める。


「お姉ちゃんがそう言うなら我慢する」


「私が学院に入るのにもカリーナさんが推薦してくれたのが大きいしね。そう言えばカリーナさんを知っているの?」


「知ってるよ。昔、王都でちょっと色々あって……」


 カティの言葉が徐々に小さくなっていく。


「カティ、カリーナさんに会った時に喧嘩なんてしたらお姉ちゃん怒るからね。お姉ちゃんがお世話になっている人なんだから」


「そんな事はしないよ!うん、そんな事しないから!」


 カティは必死に首を横に振る。

 このパターンはかなりカリーナさんと喧嘩っぽい事をしている可能性が高い。


「本当?」


「うん」


 声を低くして聞くと勢い良く首を縦に振った。


「でもカティはどうしてこの学院に来たの?八百年生きていたら学院に通う必要は無いよね?」


「お姉ちゃんが学院に入るって聞いたから無理して入学したの」


 無理して?

 もしかして誰かに無理にお願いしたとか?


「カティ、もしかして迷惑を掛けたんじゃないの?それだったらお姉ちゃん怒るよ」


「そんな事無いよ!無理は言ったけど、ちゃんと本人が欲しい報酬をたっぷり上げたから!」


「じゃあ、今度お姉ちゃんがお礼をしたいからお願いしても良い?」


「うん。週末で良い?」


 週末は予定が無いから問題無いかな。


「週末なら良いよ。折角だからこの後、私の部屋に来る?私の友達に紹介したいし、もしあれだったらご飯も一緒に食べない?」


「良いよ!侯爵家の人でしょ?」


「それともう一人いるの。じゃあ、行こっか?」


「うん」


 予想外の再会だったけど、もう会えないと思っていた家族と会えて嬉しさで胸が一杯だった。

 姉として寂しい思いをさせた分、たくさん構ってあげたい。



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