26:王立シーウェルト=アルンハム学院入学
私とリリィは無事、合格して王立シーウェルト=アルンハム学院へ通う事になった。
ミーシャも合格した旨の手紙を送ってくれたのでちょっと安心。
アングレナに戻ってからはギルドの依頼をたくさん請けて無事Bランクに上がる事が出来た。
本当はCランクに上がる予定だったが、昇級試験の森の中域に住むCランクのリュカオンを討伐の筈が、偶然出くわしたBランクのワイバーンを一人で倒してしまった事からギルドマスターのライルさんの判断で一気にBランクになってしまったのだ。
ガードナーさんは早くAランクに来いとしつこいがそれはスルーしている。
後はリリィのペースもあるのでそんなに急いでランクを上げる必要は無いと思っている。
寮に関しては最初は私とリリィがルームメイトになる形で平民向けの部屋に入る予定だったが、ミーシャが貴族向けの大きい部屋に一人は嫌だと駄々を捏ねた結果、私とリリィもミーシャの部屋に一緒に入る事になった。
先日、寮の引越しで部屋を見たが、驚く程広くて豪華な部屋だ。
純粋な平民のリリィは余りにも豪華な部屋に呆然として立ち尽くしてしまった。
ミーシャは普通の顔をしていたけど、平民には中々のプレッシャーだと思う。
因みに寮には主に平民や下級貴族が入る一般棟と上級貴族や他国の留学生が入る貴族棟に分かれている。
ミーシャは侯爵家なので当然、貴族棟だ。
上の階へ行く程身分が高い様で私達の部屋は五階建ての最上階に位置する。
リリィが困るのは無理も無い。
私もリリィもモートス侯爵家の推薦なので仕方が無いとも言えなくもない。
カリーナさんは使える物は使えば良いんじゃない、と割と気楽に言われた。
実際に荷物と言える程の物はほとんど無い。
私の私物は基本的にアルスメリア様から頂いた空間収納の指輪の中に入っているから部屋に物がほとんど無いのだ。
リリィの荷物も私の空間収納に入れて持ってきたので嵩張る事も無く楽な引越しだった。
荷物が多かったのはミーシャだった。
普段着がドレスばかりで数も十着以上あるのだ。
夜会用の宝飾品もあったり、家具も家から持ってきていたので寮の部屋にある荷物のほとんどがミーシャの物だ。
ミーシャ付きの侍女のサリさんは私達と一緒の部屋に寝泊りする事になっている。
上級貴族用の部屋には従者用の部屋が備え付けられており、サリさんはそっちの部屋で寝泊りする事になっている。
サリさんがお休みの日はモートス侯爵家で働いているリンダさんがこっちに来る事になっているらしい。
カリーナさんは誰も行かなくて良いんじゃない、と投げやりだった。
元々貴族では無いから自分で何でもするのが当たり前の人だから仕方が無い。
この寮の部屋には風呂、トイレ、台所も完備されている。
ここで簡潔する様になっている。
一般棟の寮は風呂、トイレは共同で食事は食堂で取る形だ。
食堂は一般棟の一階にあり、建物がすぐ隣なので割と行きやすい。
それに寮に入る者には朝昼晩無料で食事が食べられるのでこれはありがたい。
今日からこの寮での生活が始まる。
と言っても私とリリィとミーシャとサリさんなのでそう大きな変化は無い。
ミーシャの生活習慣はモートス侯爵家にいる時に大分慣れたから問題無いだろう。
今日は入学式でモートス侯爵家から馬車で学院へ向っている最中だ。
馬車は二台に分けて移動だ。
ミーシャとエルクさんにビアンカさん、サリさんが乗った侯爵家組と私にリリィ、カリーナさん、リンダさんに分かれている。
一応、カリーナさんが私とリリィの保護者と言う形になっている。
私とリリィとミーシャは学院の魔法科の制服を着ている。
制服は袖と前立てにフリルがあしらわれた白のシャツに白が基調の白で縁取りされたブレザー、ワインレッドと明るい赤のチェックのプリーツスカート、首元にはリボンとなっている。
魔法科はそれに加えてローブを渡されている。
因みに学院の制服には防汚機能が付いているので私の服と一緒で便利だ。
正直、言って可愛くてついはしゃいで姿見の前でくるっと回ってしまった
私の場合は最寸時に羽根を通せる様にちゃんと加工済みだ。
カリーナさんは珍しくドレスを着ている。
本当は手持ちのドレスを着る予定だったのだが、周囲からの猛反対を受けて新しくドレスを作る事になった。
後で必要になるからと言われて私とリリィもドレスを作る事になってしまった。
どうやら学院の行事でドレスが必要らしい。
入学式と言う事もあり学院の前は馬車で渋滞になっている。
これは毎年の光景らしい。
モートス侯爵家から学院はそんなに遠くない……と言うかかなり近いので渋滞の列のかなり前にいる。
個人的には歩いていけば良いと思ったけど、カリーナさん曰く、貴族は見栄を張らないと行けないから公式行事は距離が短くても馬車を使うらしい。
貴族はやっぱ面倒だ。
私達はカリーナさん達と別れて新入生用の魔法科の席に並んで座る。
学院の一番大きい講堂の後ろに保護者用の席と在校生の席があって、私達のいる新入生の席は一番前に準備されている。
学校に通うなんて経験が無いから座っているだけで少し緊張してくる。
「お静かにお願いします。それでは第三百五十七期王立シーウェルト=アルンハム学院の入学入学式を始めます」
斜め前方の立つ司会を務める男性教師が入学式の開催を告げると先程まで賑やかだった講堂が一気に静かになった。
「学院長から挨拶をお願いします」
司会に促され壇上に一人の女性が登っていった。
凛々しい佇まいに美しい銀髪に全てを魅了してしまいそうな赤い瞳、その顔には若干幼さが残る。
見た目こそ若いが漂う威厳からきっと年齢は百は優に超えていそうだ。
「新入生の諸君、入学おめでとう。私が王立シーウェルト=アルンハム学院の学院長であり、この学院の創立者であるシーウェルト・グラハムだ」
まさかの創立者だった。
と言う事は三百年前の国王と言う事になる。
この国はあまり男女差別が無いのかもしれない。
カリーナさんが侯爵家当主になっているし、学院長も女性で国王になっているから。
「もう既に王の座を退き三百年、この国の教育の発展に尽力してきた。この国は多様な種族が混在する国だ。私も魔族で幼い頃は人間が治める国にいたが、種族が違うと言うだけで差別されてきた。しかし、この国はどんな種族だろうと受け入れる。だから私はどんな種族にも教育を与えられるべきだと思い、この学院を創った。私の意志を継いだ者達が各都市に学校を設立し、種族だけでは無く身分を越えて教育を受けられる様になり、この国は大陸で最も大陸で学問が発達した国と言われるまでになった」
学院長の声に熱が入る。
これだけ立派な人が学院のトップと言うのは純粋に凄いと思った。
アングレナの学校は半分以上が平民だと言う。
「この学院に入ったからにはしっかり色んな事を学んで行って欲しいと思う。ここにはその環境が充分整っている。是非とも活用して卒業する時には立派な人材として巣立って欲しい。最後に如何なる理由があろうとも種族で差別する事は許されない。それだけは覚えていて欲しい」
学院長の言葉が終わると行動は拍手に包まれ、学院長は壇上から降りる。
「続いては新入生代表挨拶です。新入生代表ヴァネッサ・フェメーレン前へ」
呼ばれて壇上へ上がった新入生は白銀の長い髪に特徴的な狼の様な立派な獣人の少女だ。
ミーシャが小声で説明してくれたのだが、現国王ベナルディノ・フェメーレン・カラル陛下の一人娘らしい。
つまりこの国の王女になる人だ。
この国の仕組みは少し変わっていて国王には五十年と言う任期があり、同じ種族の者が連続して王になる事が出来ないと言う仕組みがあり、彼女には王位継承権が無い。
その代わり各種族を代表する種族長の子息、子女が王位継承権のある王子、王女として扱われる事になっている。
彼女は王女らしい気品と威厳を漂わせながら入学の喜びと学院生活への抱負を述べた。
真っ直ぐ前を見つめ語る姿は非常に立派な物で流石、王族と思ってしまった。
私個人としては極力、関わり合いは避けたい。
彼女の挨拶が終わり拍手に包まれる。
壇上から降りる姿も凛としている。
新入生の席へ戻る途中、彼女と一瞬、目が合った気がした。
気のせいだろうか?
「在校生代表挨拶。生徒会長オーギュスト・ソルディーニ前へ」
教頭に促され壇上へ上がったのは金髪碧眼の如何にも王子様と言った風貌の男子生徒だ。
これもミーシャの小声情報なのだが、人族の種族長の息子で本物の王子らしい。
ミーシャの彼を見る目が少し熱を帯びている気がしないでもない。
夜会でも大人気で次期国王へと推す者も多いとか。
実際に挨拶を聞いていても穏やかながら要所で熱を入れながら新入生へ言葉を送っている。
まるでその挨拶の立ち振る舞いは立派な物で次期国王と言われると納得してしまいそうな程だ。
彼の挨拶が終わり、入学式はこれで終わりだ。
私達は講堂に残りクラス分けが発表されてから担任の教師に案内されて教室へ行く流れだ。
一人の教師が私達の前に立った。
かなり特徴的な先生で下半身が蛇、つまりラミアだ。
「私はメアリー・カイラス、魔法科のAクラスの担任です。Aクラス以外の子も魔法理論の授業では会う事になるから宜しくね」
メアリー先生がウィンクすると男子生徒から感嘆の声が上がった。
全く男子はだらしない。
「名前を呼ばれた人は返事をして立ってね。一応、入試の成績順だから」
それを言われると辛い。
因みに魔法科は成績順にA、B、Cを二十人ずつのクラスに分かれている。
出来れば三人で一緒のクラスになれると良いな。
「一番最初は成績主席ね。ジャンヌ・ダルク」




