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25:実技試験《模擬戦》

 魔法の実技試験で目立ち過ぎて模擬戦の試験会場へ入ると先程の試験会場より人がたくさんいた。


「人が多いねー」


 リリィは辺りの人を見ながら言った。


「これは騎士科の受験生です。騎士科の枠は魔法科の三倍はありますから受験生が多くなるのです。騎士は軍属になるので枠が多く設定されているのと騎士は危険ですが収入が多く安定した職業なので人気が高いのです」


 サリさんが説明してくれた。

 冒険者は強くないと収入が安定しないから騎士と言う選択肢は魅力的なんだろう。

 国に仕える気が無い私には無い選択肢だが。


「あちらが受付の様ですね」


 サリさんの指した方向に模擬戦受付と書いた立て札を持った人が立っていた。

 私とリリィはそこで受付をしている男の人に受験票を出す。


「おや、魔法科志望で模擬戦を受けるとは珍しいねぇ。まして女の子とは。この受験票を持って試験官のいる所の列に並んでくれ。出番になったら受験票を試験官に渡せば良い」


 私とリリィは受付近くの列が出来ている場所に並んだ。

 正直、何処に並んでも変わらないと思ったからだ。

 ミーシャは模擬戦は受けないので模擬戦が見える位置でサリさんと一緒に待っている。

 模擬戦の試験を見ていると使う武器は傍に置いてある訓練用の武器を使う様だ。

 相手は試験官で私達が並んでいる所はかなり体格の良い騎士の様な人だ。

 受験生相手なのでかなり手加減しているのが分かる。

 学院の受験だから相手を倒すのが目的では無く素質、実力を見るのが目的なのだから相手のレベルに合わせているからだろう。


 冒険者になる時にガードナーさんと戦ったあの時とは違い、自分の身体の使い方が分かっているので充分に実力を発揮出来るだろう。


「次の者入れ!」


 先にリリィの出番だ。

 私が先でも良かったんだけど、リリィがジャンヌが先にやると精神的に辛いから先にやると譲らなかったからだ。

 私としてはどっちでも良いので構わないんだけど。


 リリィはいつも通り自分の身長より少し長いロングスピアを手に取り、試験官に受験票を渡す。


「魔法科で槍を使うのは珍しいな。勝つのではなく実力見せる場だから全力で来い」


 試験官はリリィから受け取った受験票を近くの試験官に渡してリリィと対峙する。

 リリィは槍を構える。


「それでは模擬戦、開始!」


「やぁぁ!」


 別の試験官の号令と共にリリィが試験官へ槍を突き出すが、試験官は剣で軽くリリィの槍を流して間合いへ入り込もうとする。

 リリィは焦らず槍を回転させ石突で試験官の顔を狙う。


「お!?危ない」


 試験官は虚を突かれた様で少し驚いた顔をしたが、少し後ろへ下がり難なく躱す。

 躱される事を想定していたのかリリィは肩を入れて伸びる突きを繰り出す。


「はっ!」


 試験官が槍を弾こうとするのを狙って槍を引き、逆にその剣を弾く。

 体勢が崩れそうになる試験官へそのまま間合いの外から横へ一閃。

 試験官も甘くなく崩れた体勢で無理矢理槍を弾いて距離を取る。


「中々やるな。もしかして冒険者か?」


「はい」


「ランクは?」


「Dランクです」


「納得した。もう少し付き合ってもらうぞ」


 試験官は納得したのか先程とは雰囲気が変わった。

 リリィもそれに気付いたのか警戒しているのがこっちまで伝わってくる。

 リリィが動こうとした瞬間、試験官が一気に間合いを詰めてくる。

 これは明らかにリリィの虚を突く為に、動作の起こりに合わせて狙ったものだ。

 リリィは両手で槍を盾にして一撃を防ぐ。


 これは悪手だ。

 あの受け方をすれば完全に防戦に回ってしまうし、剣が有利な間合いになってしまう。

 私なら体勢が崩れても距離を取りに行く。

 槍なのだから無理して剣の間合いで戦う必要は無いのだから。


 リリィは試験官の攻撃を受け止めるが試験官の連撃に防戦一方だ。

 多分、試験官もこれを狙ったのだろう。

 対格差のあるリリィにとってこの状況は不利だ。

 一撃を防ぐ度に体力を容赦なく奪っていく

 何度か攻撃を防いだリリィに動きがあった。

 試験官の上段の攻撃に合わせて突きを繰り出した。

 あのタイミングだと試験官の攻撃の方が速い。


「なっ!?」


 リリィに攻撃が当たると思った瞬間、槍を手放して両手で試験官の剣を握っている手を止めたのだ。

 いや、違う。

 そのまま手を掴み、攻撃の力を利用して投げ飛ばした。


「ぐぁっ!」


 いつの間にこんな技を覚えたのだろうか?

 教えたのは間違いなくガードナーさんなんだろうけど、リリィってここまで強くなっていたとは知らなかった。

 最近はリリィをほとんど手合わせとかはしてなかったから全然気が付かなかった。


 リリィはそのまま首に足を添えて終わらせようと足を上げた瞬間、試験官が強引にリリィの両手を持って引き摺り込み、地面に叩き付けて腕を捻り上げて押さえつけた。


「そこまで!」


 模擬戦終了の号令が掛かると試験官はリリィの手を離して立ち上がらせる。


「流石、Dランク冒険者だ。最後のは正直言って危なかった。魔法科なのが勿体無いな」


「ありがとうございます!」


「頑張れよ」


 リリィは対戦した試験官に肩を叩かれて激励された。

 Aランクのガードナーさんにみっちり鍛えられていたからね。


「次の者入れ!」


 次は私の出番だ。

 いつも通りロングソードとショートスピアを選んで試験官の所へ向い、受験票を渡す。


「宜しくお願いします」


「君も彼女と一緒で冒険者か?」


「はい。今はDランクで彼女と一緒にパーティーを組んでます」



「そうか。分かった」


 試験官の人はリリィと一緒にいるのを見て気になったのだろう。

 私の答えに納得した様で剣を取り構えた。

 リリィと対峙した時とは違い隙が全く無い。

 最初から手加減しないと言う事なんだと思った。

 試験官の胸を借りて私も精一杯力を出そう。


 私は一足で試験官との距離を詰める。

 試験官は私の移動速度に驚きの表情を浮かべる。

 ガードナーさんと鍛錬して手合わせをして分かった事だが、単純な身体能力勝負だとガードナーさんより私の方が圧倒的に高い。

 それが分かった時のガードナーさんがちょっと可愛そうになるぐらい落ち込んでいたけど。


「ハァァッ!!」


 ショートスピアを横に一薙ぎ、それは試験官の剣に防がれるが、そのままショートスピアで剣を押さえつけて、左手のロングソードを上から思い切り叩き付ける様に切り付ける。

 試験官は体制を崩しながら避けるが、そこに私は鳩尾に蹴りを入れる。


「ごはっ!」


 試験官は痛みに耐えながら体勢を持ち直して私と距離を取る。


「中々足癖が悪いんだな。もっとお行儀の良い戦い方をすると思っていた」


「お行儀の良い戦い方で戦に勝てれば苦労しませんよ」


「その年で戦を知っているとは末恐ろしいな……」


 知っているとは言っても前世なので何ともあれなのだが。

 戦争になれば行儀良く戦ってなんかいられない。

 どんなに無様だろうが、勝って生き残る事しか考えない。

 私は所詮、誇り高い騎士や貴族では無く農民の娘だ。

 そんな者が戦いを生き残るのにそんな事を気にしてはいられない。

 自分に命を預けてくれた者の為に負けられないのだから。


 試験官が動き出そうとした瞬間、私はそのタイミングのほんの刹那手前に攻撃を繰り出す。

 これは試験官がさっきリリィがやった事と同じ事だ。

 本人も気付いたのか顔が歪む。

 試験官は剣で私の一撃を弾くが、すぐ反対の手からの攻撃により防戦を強いられる。


 試験官も気付いていると思うが、試験官の両手の膂力と私の片手の膂力がほとんど変わらない所か、私の片手の方が上回る。

 それもあり私の連撃に対して全力で防御に回らざるを得ない。

 私の連撃は試験官からすれば暴力の嵐を前にした様な気分になるだろう。

 ガードナーさんでも私のこのパターンに嵌るとかなり苦戦をする。

 寧ろ私の勝ちパターンとも言える。


 結論、力によるゴリ押しだ。

 技術も無い訳じゃないけど、これがかなり安定しているのだ。

 そう言う意味では昔の方が色々と小細工を弄したと思う。

 私の連撃を受け続ける試験官の顔に疲労の色が浮かんできた。

 自分の力より重い攻撃をずっと防いできたのだから当然だ。

 さっきの鳩尾の蹴りも地味に効いているだろう。


 そろそろ決着と思いショートスピアを握る力を更に強める。

 試験官はその一撃を歯を食い縛って受け止めようとするが、既に握力が限界に来ていた様で私は剣と弾き飛ばす。

 そして私のロングソードが試験官の眉間の一寸手前で止める。


「そこまで!」


 私は号令を聞き、剣を引く。


「本当にDランクかよ。試験官を倒す受験生なんて前代未聞だぞ。魔法科じゃなくて騎士科に来ないか?」


 そう言われて周りを見渡すとざわついて私の方を見ている。

 これはやり過ぎたかも。

 試験官のお誘いは嬉しいけど、魔法の勉強がしたいからお断りだ。


「すみません。魔法をしっかり習いたいので騎士科への転向は無いです。一応、もうすぐCランクへ上がれそうなのですが、最近は試験勉強が忙しくて……」


 Cランクまでは後少しなのだ。

 後、二、三回仕事を請けて昇格試験に受かればCランクになれる。


「一応、俺はBランクなんだがな……。近接戦闘でその強さを持っていて魔法科とか洒落にならんな。俺は学院で騎士科の教師をしているジョン・ハリストンだ。入学して何かあれば相談に乗るぞ」


 騎士科の先生だったんだ。

 この人の中では私は入学する事が確定しているのか。


「その時は宜しくお願いします」


「あぁ、またな」


 ハリストン先生と別れの挨拶をしてリリィの所に戻るとミーシャとサリさんも一緒だった。


「ジャンヌって、凄く強いのですね……」


「入学試験で試験官を倒してしまう方なんて初めて聞きました」


 二人とも私の戦いに驚いていた。


「てっきりスマートな戦い方かと思えばまるでバーサーカーの様な戦い方なのに驚きました」


「人は見かけに因りませんね」


 驚いていたのそっち!?

 と言うかバーサーカーはあんまりだ!


「ジャンヌだから仕様無いよー」


 リリィまで!?


「酷い……私も頑張ったのに……」


 頑張ったのにそこまで言う事は無いと思う。


「ごめんなさい。つい余りの戦いっぷりに……」


「ごめん、ごめん」


 ミーシャとリリィも謝ってくるが何処か腑に落ちない。

 必要以上に注目を集めながら入学試験は無事に終わった。

 合格していると良いな……。



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