24:実技試験《魔法》
午前中は座学の試験だったので教室での試験だったけど、実技の試験は屋外の訓練場だった。
パッと見で分かるのは的がいくつも準備されている事だ。
恐らくこの的に魔法を当てるのだろう。
眼鏡を掛けローブを着た大人が受験生の前に現れた。
「これから魔法の実技試験を行う。名前を呼ばれた者から順番に的に魔法を当ててもらう。一応、周囲には結界が張ってあるから遠慮なくやってくれ」
試験官の人の言葉が気になって辺りを見回すと周囲に薄く魔力の壁があった。
これが結界の事なのだろう。
「まずはマイル・ダンソンからだ」
「はい!」
身なりの良い少年が良い返事をして前に出てくる。
実際に他の受験生がどの様な魔法を使うかしっかり見ておこう。
「我に宿りし炎の力よ。今、我が前に立ちふさがりし者へ鉄槌を下さん。マイル・ダンソンの名を持って命ずる。顕現せよ!火炎矢!」
少年の持った杖から普通の矢程の炎が放たれて的に当たる。
私はその光景に少し唖然としてしまった。
隣にいるリリィも私と一緒の反応だ。
「ねぇ、ジャンヌ?」
「何リリィ?」
「何か魔法を発動させる前に仰々しい言葉が並んでたけど何だろう?」
「私も初めて見ました」
あの謎の前置きが仰々し過ぎてビックリしてしまった。
あんな前置きがあったら先に敵に切られてしまう。
無駄にしか思えない。
「あれは詠唱ですよ」
「詠唱?」
「詠唱をする事によって魔法の発動をしやすくすると言う役割があるのです。多分、お婆様はそう言う煩わしいのが嫌いなので最初から詠唱なんて教えなかったのではないのかと思います」
ミーシャの説明に納得が行った。
カリーナさんは実戦で鍛えられた人だから役に立たない事を態々教える様な事はしない。
私でも実戦で役に立たない様な事を態々教えたりはしないと思う。
「悲しいですが、貴族の間ではあれが普通なんですよね。あの文言がカッコいいとかで……無駄の極みだと思うのですが……」
モートス家はカリーナさんの家らしくしっかり教えは受け継がれているらしい。
暫く他の受験生を見ているとほとんどが立派な詠唱をしてから魔法を放っている。
威力はまだ若いから仕方が無いけどあれはなぁ……。
あれはカッコいいと言うよりは恥ずかしい。
絶対、詠唱はいらないと思った。
「次、ミーシャ・モートス」
「はい」
ミーシャの出番だ。
カリーナさんから貰った杖を持って前へ出る。
今までに無い真剣な表情だ。
ここでしっかりと成績を出してカリーナさんに良い報告をしたいのだから当然だ。
それにカリーナさんから貰った杖もある。
ミーシャが張り切る気持ちも分かる。
ミーシャは杖を前に突き出す。
「火炎矢、乱炸裂!」
使った魔法は最初の少年と同じ魔法。
しかし、ミーシャのにはアレンジが加わっている。
魔法名の後ろにアレンジ内容を示す言葉を追加する事によって色んなアレンジが出来る。
カリーナさんはこのアレンジ幅が非常に広い。
風の弾を弾けさせたり、着弾後に突風を起こしたりと色んなバリエーションを持っている。
小技が多いけどいざと言う時の切り札になる時もあるからアレンジは工夫しなさい、と言われた。
アレンジに大切なのはどうしたいかと言うイメージらしい。
それがはっきりしていないとアレンジ側の中途半端なイメージに引き摺られて威力やコントロールが低下したり、最悪は発動しない事もあるとの事だった。
ミーシャの前方の虚空に軽く百を超える無数の炎の矢が出現すると的に目掛けて一気に放たれる。
的に当たると爆発と衝撃は撒き散らし轟音が鳴り響く。
結界で守られているとは言え爆発の連続で眩しい。
受験生の一部は余りの衝撃に腰を抜かしてしまっている子もいる。
これはやり過ぎでは無かろうか?
試験官も唖然としてしまっている。
それはそうだろう。
みんな普通に火炎矢を唱えても矢が一本と言うのがほとんどだ。
試験官の反応からしてミーシャは群を抜いてレベルが高い。
ミーシャは試験官へ軽くお辞儀をして戻ってくる。
「新しい杖を使ったら威力が出すぎてしまいました……てへっ」
可愛い素振りをしてもダメです。
と言うか原因はカリーナさんだった。
それを抜きにしてもミーシャの魔法のレベルが高いのは間違いない。
「……とんでもない新入生がいたもんだ。次、リリノア・セネア」
さらっと受験生ではなく新入生扱いに変わっている。
きっとあの試験官の中では合格なのだろう。
「はい」
リリィは呼ばれると杖では無くカリーナさんに改造された槍を手に持ち前へ出る。
カリーナさんの改造武器がちょっと怖くなってきた。
確かミーシャの杖にも似た様な魔力効率化の術式が刻まれていると言っていたからリリィの魔法も結構、ヤバイ気がしてきた。
リリィはそんなのを気にせず魔力を練って魔法を放つ体勢に入った。
「風撃!」
リリィから放たれた風は物凄い轟音と周囲に風を撒き散らしながら的へと直撃した。
魔法を放ったリリィが驚いた様な顔をしている。
それはそうだろう。
練習ではこんな強い魔法では無かった。
当たっても痛いだろうなと思う程度で遠くに吹き飛ばされそうな威力はしていなかった。
これは事前に言わなかったカリーナさんの所為だ。
「……今年は凄いな……次はジャンヌ・ダルク」
ミーシャ程では無いがリリィの魔法に試験官が驚いている。
「はい」
返事をして前に出る。
私はいつも使っているロングソードとショートスピアを杖代わりにするので手に持つロングソードを突き出す。
いつも通り魔力を身体に循環させて剣先へ集める。
ふと思ったけど武器を杖の様にしているのって、私とリリィしかいない事に気が付いた。
凄く目立ってるのでは無いかと思うと色んな人の視線が私に集中していた。
集中が乱れそうになったが、意識を的に向けて集中する。
使う魔法は無属性の攻撃魔法だ。
「魔砲!」
魔法を発動させるといつもと違う感覚が私を襲う。
大量の魔力が剣先に集中する感覚だ。
その瞬間、魔力の奔流と言うべきだろうか。
物凄い魔力が的に向って射出されるとミーシャの時と同じぐらいの轟音が鳴り響き、的を貫通した魔法が結界を震わせた。
軋む様な音が聞こえたが魔法が消えると的が跡形も無く消えていた。
試験官の人は腰を抜かして地面にへたり込んでいた。
よくよく考えたら武器を持って魔法を使った事が無い!?
確か私の武器は宝具と言う事を考えると……カリーナさんの作った杖や改造した杖より遥かに危険物!?
神様の作った武器だから普通に考えたら危ない。
無難に魔力矢ぐらいにしておけばと後悔した。
私はいそいそとリリィ達の所へ戻った。
「ジャンヌ、何あれ?」
「無属性魔法であの馬鹿げた威力は何ですか?」
リリィとミーシャが二人して聞いてきた。
「いや、私だけじゃないからね。二人とも人の事は言えませんからね」
私だけおかしい様な扱いをされるのは誠に遺憾である。
リリィとミーシャも充分おかしい威力の魔法を使っていたから。
「……今年は魔法科が荒れるな……はぁ……」
試験官が私達に呆れた溜息を吐いていた。
予想以上に注目を集めてしまったのでそそくさと模擬戦の試験会場へ私達は移動した。
目立ち過ぎて辛い……。




