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23:入学試験

 王立シーウェルト=アルンハム学院の入試を受ける為、私とリリィ、そしてミーシャと一緒に同じ馬車に乗って学院へと向っていた。

 ミーシャとはあれから色々お話をしている内に打ち解けてお友達となった。

 挨拶の時は大人しい子かと思ったら私とリリィの三人でお茶をした時は物凄くはっきり喋る子だった。

 どうやらカリーナさんがいたので少し緊張していたそうだ。

 会うのはまだ二度目らしく、それに加えてカリーナさんはミーシャの憧れらしい。


 ミーシャから聞いて初めて知ったのは薬師以外の面でもカリーナさんはかなり有名らしい。

 二つ名がいくつも存在している。

 その一つが【神弓】だ。

 これはカリーナさんの冒険者時代の逸話から来た名で、ガードナーさんも同じ事を言っていた。

 話によれば魔物の大群をその弓の腕で殲滅したらしい。

 魔物大群をどうやって弓で殲滅するのか全く想像出来ないが事実ならとんでもない事だ。


 もう一つはどちらかと言えば悪口に近い。

 【冷血の王蹴り】と言う名だ。

 経緯は分からないが王に夜会で王に対して蹴りを入れたらしく、それが周囲に広まってこんな名前が広がっている様だ。

 普通に考えたら不敬で処刑されそうなのにお咎めも無いので王族を脅したとの噂だ。

 カリーナさんは一体、何をしたのかと思ってしまった。

 興味本位で聞くと面倒なので聞くのはやめておこうと思った。


 ミーシャが憧れるのは当然、【神弓】の方だ。

 弓は得意では無いが、魔法を修行してそれだけ強い存在になりたいそうだ。

 そんな風に話している内に仲良くなった。

 最初はさん付けで呼んでいたけど友達なのにさん付け嫌だと言うので呼び捨てになった。

 三人共、魔法科を受験するのでミーシャを送る馬車に一緒させてもらう事になった。


 学院の試験は午前中が座学の試験で午後が実技試験だ。

 座学は言語、計算、歴史の三つだ。

 実技は魔法科なので当然、魔法の実践だ。

 魔法の実技に関しては風の適正持ちであるリリィの方が有利だ。

 虚無属性の私は無属性の魔法で挑むが少し不安。


 これはカリーナさんに教えてもらったのだが、基本属性優位の考え方が割と浸透していて無属性の魔法は無能が使う魔法と言う風潮があるらしい。

 冒険者や騎士は実戦主義なのでそう言う偏見は無いのだが、魔術師の集まりや特に貴族はその傾向が強いそうだ。

 私も役に立てば属性なんて関係無いと思うし、カリーナさんも同じ事を言っていたけど、そうでは無いらしい。


 一昨日、話に出ていた杖に関してカリーナさんに聞いたら二人にはいらないとはっきり言われてしまった。

 理由は二人とも戦闘で使わないからだそうだ。

 私とリリィはメインで使う武器が決まっている。

 私はロングソードとショートスピア、リリィはロングスピア。

 今更杖を持つ意味が無く、戦闘で使わない物で魔法の使い方を覚えても戦闘で役に立たないとの事だった。


 カリーナさん曰く、私の使っている二つの武器は魔法の触媒にしても良い武器らしく、材質は分からないが素材もとんでもなく良い物らしい。

 アルスメリア様からこの世界に来る時に貰った物と言ったら納得していた。

 結論として杖はいらない様だ。


 杖を持っていないと難癖付ける輩がいるかもしれないから槍でも持っておけば良いと言われたが、何処か投げやりだった。

 リリィの槍は普通の槍なのでカリーナさんが持ち手の近くに魔力効率化の魔法陣を刻んだ魔石を組み込んで杖の代わりになる様にしてもらった。

 私の槍は宝具(アーティファクト)だから下手な事をしなくても充分との事だった。


 因みに宝具(アーティファクト)とは簡単に言ってしまえば伝説の武器みたいな物だ。

 アルスメリア様の頑丈はカリーナさんが言うには有り得ない程頑丈で、世界で一番硬度と高い魔力伝導率を誇るオリハルコンを超える素材が私の武器に使われているらしい。

 私が着ている服も宝具(アーティファクト)らしい。

 装備一式が宝具(アーティファクト)と言う大変な事実だった。

 自分の持ち物に関して細かい事は気にしない方が良さそうだ。


 馬車でのんびりしながら揺られていると一瞬、お城とも思えなくも無い様な大きな建物の前で馬車が停まった。

 敷地はは高い城壁で囲まれており入口の門には衛兵らしき人が何人もおり、警備も厳重そうだ。

 どうやらここが王立シーウェルト=アルンハム学院の様だ。

 私とリリィとミーシャは入口の受付でエルクさんから渡された書面を見せるとあっさり試験会場へと案内された。


 エルクさんから渡された書面はモートス侯爵の推薦状だ。

 私もリリィもモートス侯爵推薦扱いになった。

 これはカリーナさんがエルクさんににこやかな笑顔で「私と一緒にパーティーを組んでいる子だから当然、推薦くれるわよね?」と推薦状を強引に書かせたのだ。

 あれは半分脅しにも見えたが、そんな事を言うと後が怖いので黙っておく。

 実は推薦するつもりと言うのがあんな強引な手段とは思ってもいなかったので、エルクさんには少し申し訳ない事をしたと思う。

 エルクさんは「母上は昔から強引だから」と溜息混じりに言っていた。


 学院の中は石造りの城と変わらない感じで違いと言えば城ほど華美では無い所だろうか。

 試験会場に入ると既に何人もの受験生が集まっていた。

 種族問わず平等に学ぶ権利があると言う精神の言う通り、受験生も多様な種族の受験生がいる。

 人間、エルフ、獣人は珍しくは無いがオーク、ラミア、ハーピー、魔族と本当に色んな種族が集まっている。


 最初は座学の試験なので今まで勉強した事を思い出しながら挑んだ。

 読み書きが出来なかった私がこう言う試験を受けているのは少し不思議な気分だが、思いの外楽しい。

 結果から言えばいくつか分からない問題はあったけど、概ね解答出来たしそんなに間違えは無いと思う。


 午前の座学が終わった私達はお昼ご飯を食べに食堂に集まって昼食を食べる事にした。

 食堂で注文すれば良いが今日はカリーナさん特性のお弁当があるので、何かを注文する事は無い。

 ミーシャの専属の侍女である竜人族のサリさんが手早くテーブルの上にお弁当を広げる。

 サリさんは私と一緒で角と羽と尻尾があるのでちょっと親近感が湧く。

 種族は違っても特徴が似ていると嬉しい物がある。

 それはサリさんも同じ様で二人で話が盛り上がっているとミーシャとリリィが拗ねたので気を付けないと行けない。


「ジャンヌとリリィは試験どうでした?」


 お弁当に夢中になっているとミーシャがテストの調子を聞いてきた。


「ちょっと難しい問題もあったけど、思っている以上に解けました」


「うーん、多分大丈夫だと思うよー」


 リリィはいつも通りの軽い調子なので余裕っぽい感じかな。

 座学はリリィの優秀だからね。


「ミーシャは?」


「私はバッチリでした。それより実技ですね」


 不安しか無い実技試験だ。


「ミーシャは適正あるのですか?」


「私は火と光の適正がありますね」


 火と光の二属性あれば大丈夫そうだ。


「そう言えばお二人の属性は?」


「私は風だねー」


「お婆様と一緒の属性ですか。羨ましいです」


 リリィの属性を聞いて目を輝かせるミーシャ。

 カリーナさんが好きなのが伝わってくる。


「私は虚無ですね」


 私の属性を聞いてミーシャだけではなくサリさんも驚いていた。


「そんな特殊属性の適正をお持ちになるなんて凄いです」


「ジャンヌ様、素晴らしいです。虚無属性が扱える魔術師は現在、王国にはいないので引っ張り蛸ですよ」


 褒められるのは良いけど、まだ何も使えないのが難点……。


「そう言ってくれるのは嬉しいのですが、まだ虚無属性の魔法が使えなくて……。こっちに来れば虚無属性の事について書かれた魔法書があると思って来たんです」


 王都や学院の図書館なら虚無属性の魔法について書かれた魔法書がある可能性は高い。

 何とか適正の魔法が使える様になりたい。


「確かに虚無属性は有名ですが、使い手は少ないので鍛錬が難しそうですね……。出来れば見てみたかったと申しますか……」


 サリさんが少し残念そうな顔をした。


「私もちょっと期待してしまいました」


 それは申し訳ない。

 使えない物はどうしようもない。


「そう言えばジャンヌとリリィは模擬戦の試験は受けられるのですか?」


 そんな試験あったかな?


「何それ?」


 リリィは聞いてないのか私と一緒に首を傾げている。


「あれ?知らないのですか?」


 ミーシャもサリも不思議そうな顔をしている。


「ジャンヌ様、リリィ様、模擬戦の試験は基本参加自由の試験です。簡単に言えば実力のある平民向けの救済措置です。座学が苦手な人は模擬戦の点数の加点を重視している方もいらっしゃいます」


 模擬戦の試験で加点があるんだ!?


「私はあんまり実戦は自身が無いので受けない予定です。魔法科の生徒はあんまり受けない方が多いので」


 ミーシャは受けないのか……貴族のご令嬢向けの試験ではないから当然か。


「それなら私は受けようかなー。ジャンヌはどうするの?」


「私も受けようかと思います。座学は頑張ったつもりですが、魔法の実技試験が不安なので……」


 無属性魔法で万が一、評価が低かったら困る。


「お二方ともお強いと聞きましたが……」


「ジャンヌは私よりも強いよー。Dランクのホーンベアを一人で何頭も狩って来るんだから」


 何頭と言っても多くても三頭程だからそんなに凄くは無いと思うけど。


「それにAランク相当のモーラスロッククラブキングをAランクのガードナーさんと前衛で張り合っていたよー。ガードナーさんからも早くランク上げろって言われてるし」


 ガードナーさんは事ある毎にランクを早く上げろとしつこいのだ。

 最近は試験勉強で手一杯だったからギルドの仕事はあんまり出来なかった。


「それは凄まじいです」


「実質、Cランクは余裕そうですね」


 ミーシャもサリさんも私の実力を買い被り過ぎである。

 まだまだ経験値が足りない。


「そんな事無いですよ」


 他愛無い会話で昼は盛り上がりながら次は実技試験だ。

 模擬戦は聞いてなかったけど、点数が稼げるのなら稼いでおきたい。




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