11:リリィ絡まれる
「ぷぅー!二人共酷いです」
リリィは口を尖らせながら朝御飯を食べる。
何故、リリィが拗ねたているかは私とカリーナさんの原因だ。
リリィがお泊りした朝は私とカリーナさんの悪戯から始まった。
悪戯を提案したのはカリーナさんなので私は情状酌量の余地があると思う。
ほぼ同じ様なタイミングで起きたカリーナさんと私は寝ているリリィを置いて自分の布団を片付けをしたりしていたが、思いの外リリィが起きない為、悪戯しようと言う事になった。
まぁ、リリィが布団で簀巻きにされているだけなんだけど。
簀巻きにされて動けないリリィに足の裏をくすぐると言う悪戯を二人で敢行。
ぐっすり寝ていたリリィも流石に起きたが、簀巻きにされて身動きが取れず抵抗も出来ない。
そんな状態から解放され、顔を膨れながら朝御飯を食べている。
これがリリィの拗ねている原因である。
まぁ、平たく言えば調子に乗って悪戯をした私とカリーナさんが悪いのだ。
「カリーナさんもジャンヌも私が寝てるからって……」
皿に多めに盛られたソーセージに齧り付くリリィ。
カリーナさんの粋な計らいでソーセージが倍の本数にになっている。
「リリィ、ごめんなさい」
「ごめんね。リリィちゃん」
ここは素直に謝ろう。
流石に簀巻きにして足の裏をくすぐるのはやり過ぎだった。
「全くもー。それにしてもこのソーセージ美味しいですねー」
ソーセージ大盛りご機嫌取り作戦は成功した様だ。
「西通りの裏にあるお肉屋さんのソーセージなのよ。小さくて目立たないお店なんだけど、ここのソーセージはスパイスが効いていて好きなのよね」
美味しいお店情報ゲット。
でもこのソーセージは本当に美味しいのだ。
塩っ気やジューシーさもさる事ながら香りがとても良い。
「今日は二人はどうするの?」
「午前中はギルドで昨日のホーンベアを解体してもらうつもりです。午後はリリィと鍛錬にしようと思ってます」
昨日のリリィを見ているとしっかり鍛錬をやるのが大事だと感じた。
「分かったわ。後、魔法の基礎理論が書かれている本を渡すから手が空いた時に読んでおいて」
あ、不味い……私、読み書きが出来ない……。
「済みません、あの……カリーナさん?」
「どうかしたの?」
「……私、実は……読み書きが出来なくて……」
私が住んでいた様な田舎の村では読み書きとか教わる機会が無い。
家族の中で父と一番上の兄は自警団もやっていたから読み書きは出来るが、何とか読み書きが出来るレベルで女性だと貴族か裕福な商人ぐらいだ。
「ごめんなさい。うっかりしていたわ。それなら当面、魔法より読み書きね。リリィちゃん、お願い出来る?」
「私なら問題無いですよー。お母さんからバッチリ教えてもらったから!」
「鍛錬はジャンヌ、読み書きはリリィで当面、良いんじゃないかしら」
そう言う風に言われると、まるで私が脳筋みたいな感じだ。
決して脳筋では無いと言いたい。
「でも読み書きが出来ないと受注とか困るからリリィと組んで良かったと思うわ」
確かに依頼票が読めない事にはどうしようもない。
後で聞いたら読み書きが出来ない人には受付でランクにあった依頼を探してくれるらしい。
「ジャンヌが読み書き出来ないのは意外かなー。私に任せてね」
リリィは胸を叩いて応える。
でもソーセージの刺さったフォークを持ちながらなのが残念だ。
「ジャンヌは来年どうするの?」
「来年?」
来年に何があるのだろうか?
「あー、そう言えば二人共、来年十五歳になるんだっけ」
「十五になったら三年間、学校に通えるんだよー。私は頑張って王都の上級学校に行くつもり」
「学校?」
「この国の大きい都市には大抵学校が設置されていて、十五歳になったら無償で通えるのよ。アングレナにも学校はあるし、平民でも通えるわ。人気のある王都の上級学校になると入学試験があったりするんだけどね」
学校なんてお金持ちか貴族が通うイメージしか無かったけど、平民でも通えるなら行ってみたいな。
田舎に学校なんて無かったし。
「普通に語学、数学、歴史、作法、選択で魔法、武術、戦術とか学べるわ。ジャンヌは寿命が長いから学校に行っておいて損は無いと思うわ」
この世界で生きていくならしっかりと学んだ方が良いかな。
ん、でも寿命が長い?
「私の寿命って、そんなに長いんですか?」
「長いわよ。エルフなんかより遥かに。千年以上生きれるわよ。でも魔皇族は不明な事も多いから分からない事も多いんだけど……。ご両親から聞いていたりしない」
首を横に振る。
もっと自分の身体について聞いておけば良かった、と思った。
既に遅いけど。
「分からないなら仕様が無いわね。話を戻すけど、まぁ、学校に行くけどうかはゆっくり考えたら良いんじゃない。まだ夏前だし希望を出すのは秋だから。もし学校に行くなら読み書きはしっかり勉強しないとダメね」
学校は行ってみたいから頑張って読み書きを覚えないと。
出来ればリリィと一緒が良いな。
「まず読み書きの勉強を頑張ります……」
「それが良いわ」
特に目標とかは無かったけど、まずは学校に行ける様に頑張ろう。
今まで学校とは無縁だったが、友達と遊んだり、勉強したり、色んな事したりするのを想像すると期待に胸が膨らむ。
少し将来の事を考えながらこそっと、リリィの皿から拝借したソーセージに齧り付く。
私とリリィは朝食を食べ終え、仕度を済ましてギルドへ向かう。
昨日のホーンベアを解体、買取してもらいに行く。
これでどのぐらいのお金になるのか知っておきたい。
Dランクの魔物だから凄く安いなんて事は無いだろう。
今回はブレンダさんにリリィとの初めてのお仕事の報告の為、東門側のギルドに行く。
ギルドに入ると依頼を受けに来た冒険者が多く、受付も混雑している。
今日は受注では無いので買取カウンターへ向かう。
「済みません。素材の解体と買取をお願いします」
「はい。それではこちらの用紙に買取希望の素材を記入して下さい」
買取受付の人から用紙を貰う。
記入はリリィにお願いする。
「あの、素材の一部を自分で持って帰りたい場合、どうしたら良いですか?」
「その場合は備考欄に欲しい部位を記入して下さい。でもその場合は解体料として銅貨五枚を頂きますのでご了承下さい」
備考欄に胆嚢、肝臓、肉の一部を引き取る旨を記載してもらう。
読み書き出来ないのは不便だ。
本当に勉強しないとダメだと思った。
「これでお願いします」
記入して用紙を受付の人に渡す。
受付の人は用紙に幾つか記入する。
「それではカードを出して下さい。カードは素材の査定終了までお預かり致します。奥の解体コーナーの受付にこの番号札とこの用紙と買取希望の素材を提出して下さい」
番号札と用紙を受け取り解体コーナーへ向かう。
解体コーナーの受付にいたのは冒険者よりゴツいスキンヘッドのおじさんだ。
「これをお願いします」
解体コーナーのおじさんに番号札と用紙を渡す。
「こっちの台車に素材を乗せてくれ」
コーナーの脇にあるし台車を指す。
指輪の収納からホーンベアを台車の上に出す。
「お、ホーンベアじゃねぇか。お嬢ちゃん達で倒したのか?」
「はい」
「……ジャンヌが一人で仕留めたんだよー」
リリィが小さな声で呟く。
昨日、何も出来なかった事を気にしている様だ。
「おー、ブレンダの所のリリィじゃねぇか。お前さんじゃホーンベアは無理だろ。こっちのお嬢ちゃん一人で仕留めるたぁ、驚きだな。因みにランクは?」
「Eランクです」
「Eランクでホーンベアをこれだけ綺麗に仕留めるたぁ、感心だ。解体は一時間ぐらいで終わるから向こうで待ってな。終わったら呼びに行かせるから。ほれ」
そう言って酒場の方を指し、番号札を渡され、解体コーナーの奥に戻っていく。
酒場でのんびりジュースでも飲みながら待つ事にする。
リリィとのんびりと喋っていると若い男女四人組の冒険者が声を掛けてきた。
「やぁ、リリィ」
「……ケイン君、おはよう」
リリィの挨拶は何処となく元気が無い。
金髪に整った顔立ちの彼はケインと言う様だ。
ケインは私の方を見る。
「僕はケイン。後ろの三人とパーティーを組んでいるんだ」
「リリィとパーティーを組む事になったジャンヌです」
彼等が現れてからリリィの表情が暗いので、リリィとパーティーを組んでいる事を含めて自己紹介をする。
後ろにいるメンバーは挨拶をする気は無さそうだ。
「さっき解体コーナーでホーンベアを解体に出していたが、本当に君達が倒したのかい?」
いきなり人の倒した獲物に対して文句を言ってくるなんて失礼な人だ。
「何故、その様な事を聞かれるのですか?」
リリィが俯いたまま固まっている。
もしかして過去にもこうやって彼等に絡まれたのだろうか。
「Fランクの魔物すらまともに倒せないリリィの腕でDランクのホーンベアなんて倒せる筈が無い。リリィとパーティーを組むレベルなら尚更だ」
この感じだとリリィに絡んでるのは間違いない。
そこまで言う必要があるだろうか?
「それで貴方は何を言いたいのですか?」
徐々に腹が立ってきた。
「誰かが倒したのを横取りしたのではないかと言いたいのだよ。横取りは規則違反だからな」
この人は何がしたいのか分からない。
「人の獲物を横取りとは言い掛かりも甚だしいですね。確かにホーンベアはリリィの実力では厳しいのは間違いありません。このホーンベアは私が一人で仕留めました」
ケインは顔を顰める。
「ハッ、それこそ何を言っているんだい?Eランクの僕らでもパーティーで挑む様な獲物だぞ」
私と同じEランクか。
それにしても人を侮り過ぎではなかろうか。
「Eランクなら私と一緒ですね」
「リリィと一緒にいる様な奴がEランクな訳がないだろ」
何かやたらとリリィを目の敵にしているのか理解に苦しむ。
これ以上、リリィを馬鹿にされるのはいい加減に我慢が出来なくなりそうだ。
ケインのパーティーの人達は困った顔をしている。
「リリィの実力と付き合っている人は関係ありませんよ。いくら実力があっても貴方の様な方とはお付き合いしたくはありません」
「何だと!」
掴み掛かって来そうな勢いで食いかかってくる。
「おい!?ケイン!」
パーティーの黒髪の人が止めようとする。
しかし、別の人に肩を掴まれて止められたみたいだ。
「いい加減にしろ。ケイン」
「ガ、ガードナーさん!?」
ケインを止めたのはガードナーさんだった。
ガードナーさんには感謝。
「女の子二人に何を絡んでるんだ?それにお前さんが倒した獲物を横取りされた訳ないだろ?」
「い、いや……でも……」
流石にAランクのガードナーさんに言い返すのは厳しい様だ。
「ジャンヌの実力が不満なら模擬戦でもやってみろ。ジャンヌは大丈夫だよな?」
何かガードナーさんの言い方だと私がOKする前提で言ってそうな気がする。
苛々としていたので憂さ晴らしには調度良いかな。
「私は大丈夫ですよ。言い掛かり付けられっ放しなのもあれなので」
「ふん!大口叩いていられるのも今の内だからな!」
ケインは一人、地下に降りて行く。
残りのパーティーの地下人達は行かないのかな?
取り敢えず、リリィのフォローをしよう。
「リリィ、大丈夫?」
「う、うん……ゴメンね……私の所為で文句付けられちゃって……更に模擬戦なんて……」
「気にしてないので大丈夫ですよ。調度良い運動です」
私とケインではかなり力の差があるから模擬戦は大丈夫だろう。
寧ろ手加減しないと危ない。
「二人共済まない」
ケインの仲間の弓を背負った黒髪の若者が私とリリィに頭を下げる。
「俺はルークだ。こっちがシーナとイセルだ」
赤毛のポニーテールの長いローブを着た女の子がシーナ、茶髪でまだ幼さが残る顔の狼の獣人の少年がイセル。
ルークの挨拶に合わせて軽く会釈をする。
「前からリリィには何故か強く当たるんだ。俺達がやめる様に言っても聞かなくてな」
ケインの話になるとリリィの表情が沈む。
間違いなくケインと何かある様な雰囲気だ。
「まぁ、取り敢えず下に行こうぜ。アイツもジャンヌより実力が上と分かれば、不用意にリリィに絡まなくなるだろう」
リリィが話してくれるまで待とう。
「俺達も下に行くか」
ケインとの模擬戦の為、私達も修練場へ向かった。
しれっと、後ろから付いてくる人がいるが、間違いなく野次馬だ。




