10:お泊まり会
お風呂を上がってリビングに向かうとカリーナさんが晩御飯の準備をしていた。
「カリーナさん、何か手伝える事はありますか?」
「向こうの棚から大きい皿と人数分の取り皿を出してもらえる?」
「はい」
食器棚から大皿を取り、カリーナさんに渡す。
取り皿はテーブルに並べる。
カリーナさんの指示を聞きながら晩御飯の準備をしていく。
こうやって食卓の準備をするのも随分、久しい気がした。
調度、晩御飯の支度が終わりそうな所でリリィがお風呂から上がった様だ。
「お風呂有難うございました!」
「もう御飯が出来るから先に座ってて」
リリィ、私の順に席に着き、カリーナさんも出来た料理を持って席に着く。
「それじゃあ、頂きましょうか」
「「頂きます!」」
今日の晩御飯は豚肉と野菜の香草炒め、サラダ、野菜と干し肉のスープ、固めの黒パンだ。
こっちの世界にも豚は家畜として育てられていて庶民には一般的なお肉だ。
カリーナさんは健康を意識して料理は野菜を多めにして、効果に合わせたハーブを上手く使っている様だ。
ただ食卓に置いてある黒い液体はまだ試していない。
豆を発酵して作るソースみたいだけど、かなり独特な匂いがするのだ。
カリーナさんの故郷の調味料らしくこちらでは手に入らず自家製だとか。
もう少し慣れたら試してみよう。
料理はいつも美味しいから幸せ。
カリーナさんとリリィと食事をしていると母と妹と食事している様な錯覚に陥りそうになる。
妹はよく私に着いてきて、よく遊んでいた。
美味しい御飯を食べ終えて食器を片付ける。
「カリーナさん、私が洗い物をするのでお風呂に入って下さい」
「任せたわ」
居候なので手伝える所は手伝わないと。
「リリィ、洗い物が終わるまで少し待っていて下さい」
「うん、分かったー」
ささっと洗い物を片付けてしまう。
洗浄の魔法でやると早いみたいだけど、カリーナさん曰く、食器は水と洗剤で洗わないと落ち着かないらしい。
まだ魔法は使えないから問題無いけど。
カリーナさんのお風呂は長いのでリリィと二階に上がる。
今日はリリィと一緒に寝るからリリィの泊まる部屋に私の布団を持っていく。
床に布団を敷いて寝るのは初めて。
カリーナさんも一緒に寝るみたい。
私とリリィはカリーナさんが来るまで布団の上で転がって、色んな話をしながら待つ。
「ジャンヌは何かやりたい事あるのー?」
「唐突にどうしたのですか?」
「いやー、楽しみや趣味は何かなー、と」
趣味は今の所は無いかな。
強いて挙げるなら食べる事?
「屋台の食べ歩きはやりたいです。この街は美味しい物がたくさんありますから」
悲しいかな、頭に思い浮かぶのは食べ物の事ばかり。
「食べ過ぎるとお肉付いちゃうよー」
ちゃんと身体を動かしているし、量も適正だ。
食べ過ぎてはいない。
「そんな事を言う口はこれですか!」
私はリリィ背中に跨り、両頬をむにっと、引っ張る。
お肉が付くなんて言う悪い口にはお仕置きである。
「えへへー」
お仕置きなのに嬉しそうなのは何故。
「二人共、仲が良いわね」
リリィと戯れている間にカリーナさんが来た。
湯上がりのカリーナさんは何処か艶っぽい。
「ここはジャンヌを弄るべきかしら?」
不穏な一言を放つと同時に私の尻尾の付け根近くに指を優しく這わせる。
「ひぃゃっ!?」
カリーナさんの優しい触り方に変な声が出た。
リリィが触った時は先っぽだったから大丈夫だったが、付け根付近はかなり敏感で駄目だった。
「な、何をするんですか!」
「いやー、私もジャンヌの尻尾が触りたかったのよね。もふもふも良いけど、スベスベも良いわ」
そう言って私の尻尾を撫でるカリーナさん。
付け根付近じゃなければ少しくすぐったいだけだから耐えられる。
「カリーナさん、ズルイですよー。私も撫でたい!」
リリィまで私の尻尾を撫で始めた。
「む、私だけ撫でる物が無いです」
少し口を尖らせながら拗ねた感じで言ってみる。
「良いじゃない」
「そうだよー」
二人だけ満足なのは頂けない。
と言う事で布団に転がって脱出する。
翼が邪魔で転がりにくいのは気にしない。
そのまま一番端にある自分の布団に入って就寝体勢に。
「あ、逃げたー」
「先に寝ますよ。お休みなさーい」
先に寝て逃げる。
「仕様がないわね。明かり消すわよ」
「お休みなさい」
カリーナさんが部屋の明かりを消して床に着く。
さっきは私だけ弄られたので少し仕返しをしよう。
身体はリリィの反対を向きながら尻尾の先でリリィの足の裏を優しく撫でる。
「ひゃっ!?」
リリィがくすぐったさに声を上げる。
寝たふりをしながら尻尾はバレない様に布団の中に収める。
私とカリーナさんを交互に見るリリィ。
犯人がどっちか分かってなさそう?
カリーナさんがリリィの声に無反応なのが気になる。
結局、犯人の目星は付かなかった様で布団を掛け直している。
次はもう片方の足でやろうかな。
様子を見て足の裏をくすぐってあげよう。
「ひぃっ!?」
今のは私じゃない。
カリーナさんも人を揶揄うのが好きっぽい。
流石に今のはカリーナさんがやった事に気付いた様でカリーナさんをじっと、見ている。
私に対して無防備になった足の裏をまた尻尾の先で優しく撫でる。
「ひぃゃっ!?」
リリィは良い反応するなー。
「ふっふっふっ……」
ヤバい。
リリィが変な笑いを始めた。
布団に包まりながらガードを固める。
尻尾で背中を向けて寝たふりをしているカリーナさんを指す。
カリーナさんが無防備なのを無言でリリィに伝える。
リリィも気付いたのかカリーナさんの方に静かに近づく。
そして背後から一気に布団に潜り込み、胸を鷲掴みにする。
「キャッ!?ちょ、ちょっと何処触ってるのよ!」
流石にそこを攻める勇気は私には無い。
「あんまり無い?」
リリィが爆弾を投下。
私はさっと、背を向けて寝たふりをする。
「良い加減にしなさい!」
リリィの頭に鉄拳が落ちた。
あれは禁句だと思う。
頭を押さえながらリリィは自分の布団に潜っていく。
「……寝るわよ」
これ以上、悪戯をすると私も怒られそうなので大人しく寝る事にする。
昔、妹と戯れあって、よく兄に怒られていた。
またこんな風に寝たいと思ってしまう。
怒られるのも良い思い出だ。
ただ朝になって二人の寝相の悪さには呆れるしかなかった。
リリィは布団の外、カリーナさんは何故か頭を逆さにして私の尻尾を枕にしていたのだ。
リリィは分かるが、カリーナさんの寝相の悪さは予想外だった。




