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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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最終話

 万石市付近での戦闘から、数ヶ月ほどの時間が流れ……


 鉄実と鉄子が生まれ育った、日本本土のとある町。かつては過疎化が進んで、滅びの時間が近づいていた寂れた町であったそこは、今は大分様変わりしていた。

 人口は三万近くにまで増えている。人口の半分以上が、獣人であったが、特に治安が悪いところもなく、皆陽気に暮らしていた。


 多くの大型建造物が並び、部分的に都市化が進んでいる。また各地に、いくつもの立派な日本家屋が建ち並び、町を歩く人々にも、何故か着物姿の人達も多い。

 これはこの町だけでなく、日本本土全体に広がっている傾向だ。特地で和文化がブームになり、本土にもその風潮が逆輸入されているようだ。


 田畑は元と同じぐらいだが、かつて耕作放棄地であった場所も、今は働き手が見つかったのか、今はきっちりと使われている。

 季節は初秋。畑には多くの野菜が実り、周辺の森林の葉も、徐々に色づき紅葉へと向かい始めている。田舎と都市の中間ぐらいの、絶妙なバランスとなって、見事この町は、転移前から息を吹き返していた。


 そしてそんな賑やかな町の、とある家屋。転移前と変わらない床屋の一軒家でのこと。


「うん……こっちは大丈夫だよ。それで落ち着いたら、また今度そっちに行っても良いかな?」

『そっちってあんた……前あんなに怖い目にあったのに、また特地に来たいわけ?』


 その家で電話をしているのは、一鉄であった。学校帰りなのか、足下にランドセルが転がっている。そして彼の電話の向こうにいるのは、金山 鉄子である。

 あの戦いで、致命とも言える重傷を負った彼女。だが奇跡的にも助かっていた。彼女の専用機の特戦型機人は、修復不可能にまで大破し、彼女自身も既に機人部隊から外されている。

 だがそれでも、彼女は今でも自衛隊に在籍していた。負傷から現役復帰し、つい最近連絡ができるようになって、彼は颯爽と、誰よりも速く彼女に電話したのである。


「大丈夫だよ。もう幽霊は出てないんだろ? だったら今度こそ、ちゃんと見て回りたいなって」

『でもさあ……特地は今でも、前とあんまりかわんないわよ? 前来た時なんて、すげえ退屈そうにしてたじゃん?』

「いいよ別に。楽しめなくても、またルビーと叔母さんと遊びたいし……」

『!? ……おば!?』

「えっ? 本当はそっちが正しい言い方なんだよね?」

『ああ……うん、そうね……』


 動揺する鉄子に、少し意地悪そうに応え一鉄。以前は姉さんと呼んでいたが、今はある事情により、その呼び方を変えていた。その事情というのは、彼に母親ができたからである。


『そういえば雪はどうしてる? そっちの学校で虐められてない? 何かこういうのって、そっちが心配なのよね』

「うん、大丈夫だよ。……ていうかウチのクラス、半分ぐらいが外から来た人だし、今更特地から来たって話しが出ても、別に誰も気にしないよ。まあ何かあったら、俺が守って上げるし」

『そう……格好いいこと行ってくれるわねあんたも』


 両親が警察に捕まった雪は、色々あってこの家に預けられていた。同年代の男のいる家に、血の繋がらない少女が入ってくるという、今や「それどこのギャルゲ?」状態である。

 以前は在住外国人ということで、特地で色々言われていたが、元々異端者が多く流れているこの町では、さほど問題は起こっていないようだ。


『それで肝心な所なんだけどさ……お姉ちゃんは?』

「うん大丈夫だよ。今はちゃんと立派な仕事してるから。さっき雪も、そっちに通いにいったし♫」





 この町の山林に建立されていた、とある神社。宮司は出張で、ろくに管理もされておらず、日本転移直後には、白丸という鶏の幽霊に占拠されていた、

 あの名前さえ知られず、参拝者も殆どいなかった神社。だが今は、様子が違っていた。


 雑草だらけだった境内や参道は、今は綺麗に整備されていた。小汚かった鳥居や社殿も、今はリフォームされて別物のよう。規模こそ小さいが、そこはもう立派に運営されている神社である。

 そしてそこには、大勢の人が出入りしていた。今でも百人近くが、この境内にいる。彼らは参拝客というには妙で、社殿には殆ど誰も見向きもしていない。

 彼らが注目しているのは、この境内のど真ん中に置いてある、ある巨大な物体である。


『へいへい! 写真撮影でも何でも、賽銭二百円につき一枚ずつでOK! だけどあまり触らないでくれよ! これでもウチの立派なご神体の一つなんだからな!』


 大勢の客に声を上げるのは、一羽の喋る鶏=白丸であった。かつて神を名乗って神社に居ついていた、この幽霊ブロイラー。

 彼が今乗っていて、大勢の客の注目を浴びているもの。それは何と……あの時特地で砲塔が壊れて、起動不可能になった、あの亀戦車であった。


 雨避けのために、井戸屋形のような建物の中、四つの大きな柱に囲まれて、その姿がお目見えになっている。

 近くに置いてある看板には“特地を亡霊達から救った最強の兵器”などという、明らかに神社に祭るには不似合いな説明が書かれていた。


 大勢の人達が、今や町の名物となったそれを眺め、写真に撮ったりしている。そんな衆目に晒されている亀戦車。それは先程から一言も口にしていない。動かず喋らず、ただのガラクタのように今は佇んでいるのだ。

 そして観光客の見所は、この大型戦車だけでなく、社務所の方にもあった。正確にはその社務所に勤めている人物であるが。


「あの人が鉄実? 何か普通ね。アイドルみたいに可愛いかと思った」

「すいませ~ん、ここってサインとか受け付けてますか!?」

「ここで絵馬書けば、戦車のご加護とかってありますか~?」


 人々がそう口にしているその社務所には、二人の子供がいた。恐らくは一鉄と同年代と思われる、小学生ぐらいの少年少女。その二人はバイト巫女なのか、巫女装束と神職服を着ている。


「は~い、すいません、サインは受け付けてません。でも写真ならいいですよ。どうぞこんなちびっ子の写真でいいなら、賽銭百円で一枚分ですけど~」


 神社と言うより、観光用の物産館のような場所で、そこで人々が特地ゆかりの土産を買いながら、賑やかにしていた。






 夕方頃になり、客足が大分なくなった頃。二人の幼い神職が、社務所で菓子を頬張りながら、休憩中である。


「なあ、鉄実……こんな商売、いつまでも続くと思うか? そのうち飽きられて、客なんて来なくなるぞ?」

「そん時は、真面目に神社仕事をするわよ。元々ここ宮司いなかったんだし。私も子供の頃から、なんでこんな神社あるんだろうって思ってたけど。でもこれからは私達で盛り上げいきましょうよ」

「真面目にって……お前に信仰心とかあんのかよ?」

「勿論あるわよ。ここに可愛い神様を、世話して上げてるしね♫」

『おおとも、こいつの冷たい妹と違って、鉄実はおいらたちのこと、とっても可愛がってくれてるし、ここの宮司には大歓迎だぜ!』


 一緒に菓子を食っていた白丸が、そんな風に嬉しそうに口にする。実はこの二人の子供……鉄実とビービであった。


 あの事件以降、二人はこの日本に帰国し、そしてどんなコネを使ったのか、試験をパスしてここの宮司なんぞをしているのである。そして二人の姿は、あの事件以降から、大きく変わっていた。


 まずビービが、グールではなくなった。今の彼の素肌は、あの青白い死者の肌ではない。しっかりとした血色のある、生きた身体である。

 そして外見ではまだ判らないが、この数ヶ月の間に、ほんの僅かであるが、彼の身長は以前より伸びていた。つまり今彼の身体は、成長しているのである。

 霊的能力は以前よりずっと下がり、そして不死身でもない。以前のように、心臓を刺されたり、血を流しすぎたりしたら当然死ぬであろう。

 だが以前言われていた、グールの寿命はなくなった。彼の故郷にいる、同胞のグール達も、同じようにどんどん人間に戻っている。


 そして鉄子は、もうそれは見れば判るとおりに、元の人間に、生身の身体である。今境内に置いてある亀戦車には、彼女の精神は入っていない。

 それも当然、今彼女はここに肉体を持った人間として存在しているのである。そして何故か彼女の肉体は……子供になっていた。

 顔つきに生前の面影はあるが、肉体年齢は明らかに以前より若くなっている。ここの一鉄が来たら、誰も彼らを親子だとは思わないであろう。


「それは信仰と言えるのか?」

「ははははっ、これからの時代、信仰なんてそんなもんじゃん? もうあちこちに幽霊とか神様とかが、ウロウロしてて、神秘性なんて欠片もないし。……まあ、こんな風に進路が決まって、紺には感謝ね」

「そうだな……しかし何故鉄実が子供の姿なんだ? お前本当二十六だろ?」

「そりゃあ勿論、私とビービの仲を判ってくれたからじゃん? ほらこんなにお似合いだし♫」

「だから引っ付くのはやめてくれ……」


 あの戦いの後、もはや死亡確定とも言える損傷を負った彼ら。だが自衛隊が現場に駆けつけたとき、何故か彼らはこの姿で、草原の上に眠っていたのである。

 その時居合わせていたルビーが言うには「いきなり光が見えて、真っ白になったと思ったら、こんなことになってた」とのこと。

 あの時ルビーは、自分以外は皆死んでしまったのではないかと、興奮して泣き叫んでいたが、皆がこのような形で復活すると、今度はうれし泣きで騒いでいた。

 このようなことをできる人物は、現時点では一人しか思い浮かばない。


「いやぁ~礼を言おうにも、紺の奴、あの屋敷ごとどっかに消えちゃったしね。今頃どこにいるんだろ?」

「さあな。誰にも騒がれない静かなところじゃないのか?」

「ええ、あいつのおかげで皆生き返ってハッピーENDだったのにね……謙虚なこと」


 一呼吸置いたところで、ビービが何かを決心したかのように語り始める。


「……実の所、俺は生き返って、ハッピーだったのか微妙だな。あのでかい幽霊と戦ったとき、何故か死ぬかもしれない状況に、全然恐怖心がなかったからな……。むしろあのままあそこで、派手に死んだ方が、悔いなかったかも……」

「はいはい……そういう根暗な事言わない! 長いゾンビ生活で疲れたのよ! これからは明るく楽しく生きる方法を見つけましょうよ! この私と一緒にね♫ ……でも戦車はもう御免ね。あんな痛い思いはもう御免だし……」

「心配しなくても、いつのまにか身体が戦車になって、化け物と戦うなんて数奇な運命、そうそう体験する奴なんていねえよ」

「はははははっ、それもそうね! まあ、あんな魔王気取りの女王みたいにならなくて良かったし。今は生きているって事に、思いっきり感謝しましょうよ! そういえば……さっき一鉄が言ってたんだけど、何でもルビーとルーナがこっちに……」


 軽く笑い合いながら話す二人。世界の滅亡と日本転移。これは日本という国家において、様々な大きな変容を招いた。彼女たちが体験した、この精神が宿る戦車という存在も、その一つである。

 そして今彼女たちは、その変容の運命から、無事脱出した。これから彼女たちと、彼女たちが住まう国が、どうなるか。多くの悲運な魂が転生する世界で、全てが幸せな運命を辿ること願うとしよう。


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