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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第八話 グールの少年

 ドン!


 まず一発の砲弾が、先頭を走っていた一体の、腹に着弾した。これもあのロボット達同様に、人型で背が高いので、的が大きくて実に当てやすい。

 かつて自衛隊の最新式戦車は十式戦車であったが、この亀戦車の砲弾の威力は、十式など児戯に思えるほど強力である。

 その強力な砲弾が、巨人の硬質な身体を、食パンのように簡単に貫いた。奴の腹に大きな穴が開き、後ろから飛び出した砲弾が、大量の謎鉱石の欠片を、噴水のように撒き散らしながら通り抜けていく。

 巨人に開いた風穴には、衝撃の余波からか、周囲に大量のヒビが、蜘蛛の巣のように、無数に生えていた。


 ドン! ドン!


 亀戦車、更に続けて残りの二体にも砲弾を発射する。猛牛のように一直線に向かってくるそれらを、実に簡単に命中させた。見た目は圧倒的だが、動きが馬鹿正直すぎて、戦車からすれば恰好の的であった。

 一体は右肩に当たり、その部分の謎鉱石を抉り取った。肩の半分が砕け散ったせいで、腕と胴体を繋ぐ部分が細くなり、やがて脆くなった接合部が砕けて、右腕が地面に落ちる。

 もう一体は頭部に当たった。あの特徴的な大きな一つ目に、あの砲弾が着弾する。その赤い眼が、ガラス玉のように砲弾と一緒に砕けて、周囲に赤い結晶石のシャワーを降らせる。球状で体内に埋まっていた目玉は、質量の半分ぐらいが粉々になっており、残った部分もヒビだらけである。


(これは……)


 三者三様、それぞれ異なる部分に砲弾が当たった巨人達。彼らの攻撃命中後の様子は、それぞれ異なっていた。

 腹を貫通させられた巨人は、動きがかなり鈍くなりながらも、そのまま突進を続けている。

 これが人間であったならば、あのぐらいの穴と亀裂が身体に出来れば、普通死んでいる。即死には至らなくても、出血多量ですぐに倒れる。


 腕をとられた巨人は、一瞬動きが止まったものの、すぐに変わらず突撃を始める。あの時のロボットは、腕を壊されて、何故か痛みを感じて悲鳴を上げていた。だがこちらには、痛覚というものはないようだ。

 自分の一部であった、地面に倒木のように転がる、自分の腕など全く気にしない。残ったもう一本を振り上げて、亀戦車に襲いかかろうとしている。


 そして目玉を潰された一体。これはその時点で終わっていた。

 眼球が損壊された後、そこで全ての活動が停止。両肘が曲がって、地面に膝をつき、そのまま数回グラグラ揺れる。

 そして最後には、その巨大な謎鉱石の塊の身体を、大地を叩きつけるように倒れ込んだ。どうやらこの巨人は、あの一発で死んだらしい。


(弱点は目玉か!? ようし……)


 どうやらこの巨人達は、人間とは致命傷の概念が異なるらしい。それに気づいた亀戦車は、残り数百メートルにまで近づいた鉄鉱巨人達に、目玉に狙いを定めて、再び発砲した。


 ドン! ドン ドン!


 敵は、あのロボットより鈍重と言っても、時速百㎞にもなる、あの体格からすれば信じられない走行速度である。

 そのため距離を詰められる速度も速い。だがそれよりも、亀戦車の次弾の発射間隔が早かった。


 以前のロボット達は、どこを当てようと、十分戦闘不能に値するダメージを与えられた。だが今回は、正確に一カ所を狙わなければいけないため、難易度がかなり上がっているだろう。

 最もこの距離と、この戦車の命中性能からすれば、それは杞憂であった。


 先頭の巨人を追い越した、片腕の巨人は、一発目で眼球を破壊されて倒れた。

 腹に穴が開いた巨人は、一発目は外れて、丸太のように太い、巨人の首の部分に着弾。身体に二つ目の穴と、大きなひび割れを起こす。

 それによって更に身体が鈍くなり、しかも酔っ払いのように四肢が揺れている。揺れのせいで照準が定まらないためか、次に放たれた砲弾も外した。首に開いた穴の隣に、もう一つの穴ができる。それが隣と少し繋がっており、縦長の大きな穴になっていた。


 ガチャ! ガラガラガラ!


 穴ぼこだらけになった首が完全にちぎれた。巨人の頭部が胴体から切り離されて、人形のように落ち、大地にボールのように転がっていく。それと同時に、巨人の身体が完全に停止した。どうやら目玉だけでなく、首に当てても致命傷を与えられるようだ。

 ヒビが入った腹の穴を中心に、ビルの発破解体のように、その胴体がバラバラに崩れる。大量の謎鉱石の欠片が、土砂崩れのようにバラバラに地面に散らばってくる。


 頭部の表皮も転がりながら完全に崩れて、蜜柑のように内部が露わになる。地面にボールのように転がるのは、あの赤い眼の眼球だ。身体に埋まっている目玉は、人間の眼と同じような構造・形状で、あの鉄鉱石の身体に埋まっていたらしい。

 眼球を包んでいた鉱石は全て剝がれ、もはや何も出来ないようで、赤い光を微かに放ちながら沈黙している。


『とりあえず……こいつも潰すか?』


 亀戦車の砲口が下降し、眼球が転がっている地面に向けられる。そしてそこに一発放たれる。


 ドウン!


 地雷が爆発したかのように、大地が砕け、クレーターと言ってもよい大型の穴が開き、大量の土埃が暗雲のように舞った。

 その土埃には、あの赤い眼球の、水晶のような欠片も一緒に飛び散り、太陽光に反射して星々のように輝いていた。


『てえ……まだいるし?』


 目の前に来ていた、三体を倒した亀戦車。だが大地を地鳴りのように響かせる足音の群れは消えない。見ると、ここから数キロ離れた先に、二十程の数の、あの巨人達が、こちらに向かって突進してくる。

 どうやらあれが本隊の群れで、今のは群れから外れた者達だったようだ。


『要領は大体掴めたわ……全部ぶっ殺してやるわ!』


 その後三十ほどの砲声が鳴り響く。巨人の群れは、亀戦車に辿り着く前に、ほぼ全てが目玉を撃ち抜かれて、倒されることとなった。





『さてと……』


 謎の敵を撃退した亀戦車。数㎞先の草原一帯には、目玉を潰されて倒れた巨人達の残骸が、合戦場の跡のように、無惨に転がっている。

 草原に砂利のように散乱する、砕けた敵の欠片を、更に細かく粉砕して踏みつぶしながら、ある方向に向かう。


 そこには先程話しかけた、あの木箱に入った謎の人がいた。

 木箱の人は、さっきからずっと、覗き穴からその戦いの様子を見ていた。だが亀戦車がこちらに近寄ってくると、今まで隠れ蓑にしていた木箱を段ボールのように持ち上げて、その中から姿を現す。

 そして亀戦車と、その木箱の主が、数十メートルの距離で対面した。


『あら可愛い坊やね。タイプかも? メイド服着せてあげたい感じ』

「……はっ? 何言ってやがる?」


 その木箱の主は、人間の子供のようであった。歳は10~12歳ぐらいで、まだ小学校に通っていそうな少年だ。顔つきは日本人と同じ黄色系の平らな容貌だ。髪や目の色も黒である。

 そして声を上げなければ、すぐには性別の判別が尽きづらいような、女性のような中性的な顔立ち。成長すればまちがいなくイケメンになるだろう感じだ。


 服装は白いTシャツの上に、青いフード付きのチャック式パーカーを羽織っている。下は短パンで、黒いシューズを履いていた。

 そして背中には、遠足にでも行くような、リュックサックを背負っている。背負っている物を除けば、これはあまりハイキングに適した服装ではない。


 現代日本の街中で、普通に見かけそうな外見の少年だ。ただ一点普通じゃないのは、この少年、血色がかなり悪い。

 顔や半袖のパーカーから見える腕などは、まるで死体のように青白いのである。これは彼の健康上の問題なのか、人種的な違いなのかは、現段階では見当がつかない。


「……まあ、いいや。この場合礼を言うべきなのか? しかしお前……こんな人がすぐ近くにいるところで、大砲なんて撃つなよな……」

『そう言えばそうね。でもあんた、全然怖がらないのね』


 先程の行動と今の発言、その両方に向けて、少年は随分呆れた様子だ。

 先程はあの巨大な怪物の目の前を通り、今し方死闘を行った戦車が目の前にいるというのに、全く怯える様子がない。何と肝の据わった少年であろう。


「まあ、俺は見た目ほど若くないからな。これ見りゃグールだって判るだろうに。しかし本当に危なっかしいな。もし流れ弾がこっちに当たったらどうすんだよ? グールだからって、頭が砕けたら死ぬぞ……」

『……? 言ってることがよくわかんないだけど? さっきのあの化け物、あれに襲われかけてたんじゃないの?』

「何言ってんだ? この通り、人の形をちゃんと隠してたんだ。あのまま通り過ぎることだって出来たんだし、やるならその後でも良かっただろ?」

『通り過ぎる? そんな下手くそな隠れ方で、できるもんなの?』


 少年の言葉に、亀戦車は何とも不思議そうだ。確かに言うとおり、あの下手くそな隠れ方をした少年に、巨人達は全く気づいていない様子であった。

 不思議そうな亀戦車の言葉に、少年の方もまた、不思議そうな顔をしていた。

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