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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第七話 巨人の大地

 所変わって時代は現代。恐らく日本ではない世界のどこか。あの亀戦車が格納されていて、ついさっき脱走された、あの自衛隊駐屯地での医務室にて。

 青と白の縞々のカーテンによって区切られた、幾つかある白いベッドの一つに、一人の女性が眠っていた。短く切り揃えられた黒髪で、獣的な特徴のない、純人の普通の日本人女性である。

 年齢は二十代半ばほどであろうか? その人物は、亀戦車脱走時に何故か皆の注目を浴びた女性自衛官であり、あのロボット部隊の隊長である金山である。ただし今は、自衛官の制服姿ではないが。



「んあ? ふぁあああああ~~~」


 その女性が目を覚ます。寝ぼけ眼で盛大な欠伸をした後で、ゆっくりと身体を起こし始める。布団が捲られ、和装のような白い病衣を露わにするが……


「いてっ!? つううううっ……」


 だがすぐに身体の各部に強い痛みが走り、彼女は小さな悲鳴を上げて、身体を震わせた。外見ではさほど重傷には見えないが、どこか全体的に身体が痛んでいるらしい。


「何よこれ? どうしたんだっけ? ちょっと一鉄~~」

「ここはお前の家じゃない。さっさとちゃんと目を覚ませ」


 近くにいた看護官がかけた言葉に、彼女ははっきり目を覚ました。ここは自衛隊の駐屯地で、彼女の勤務先である。


「そうだった私あの戦車に……すぐに報告しないと……」

「それなら別の奴らが済ましてるよ。一部始終は全部映像に残ってるしな。お前はあれから半日ぐらい寝てたんだ。とりあえず安静にしておけ」

「何よそれ、じゃあ回復魔法かけてよ……」

「あれは健康に悪いから、頻繁に使うなと、何度も聞いてるだろ。それは心感機の感応による負傷だ。そのぐらいなら数日で直る」


 金山は何やら不服そうにしながらも、言われた通りにベッドに再び倒れる。


「今回の件、上でどう処理するって? 何か決まった?」

「そんなことまだ決まるわけないだろうが……そのうち小金井二佐から発表があるだろうが……何しろ前代未聞の事件だ。どんな対策がされるものか……」

「ふうん……それで私はいつ復帰できる? 数日で出れるんでしょ?」

「だからそんなこと俺に聞くなって! まあ、お前の特戦型心感機が、あれだけ派手に壊れたんだ。自己修復だけじゃ直しきれないだろうし、相当時間がかかるだろうがな……」


 そう言って、看護官はその場から離れていった。この場には、あの戦闘で倒れた他の自衛官も寝ているのだ。あまり大声で会話を続けるべきではないだろう。

 金山はベッドから天井から見上げながら、何やら悔しげな様子である。


(くそう……あの戦車、次はぶっ飛ばしてやる)


 先日の敗北で、金山はそう強く心に誓うのであった。そしてすぐに、別のことが思い浮かんで、何やら悩ましげな顔をする。随分ところころ表情が変わるものだ。


(……それにしてもあの時の声、何か聞き覚えがあるのよね? 誰だったかしら?)


 色々思い悩んだが、結局思い出すことはなく、彼女はそのまま二度寝に入ったのであった。






 さて駐屯地から数十キロ離れた、とある草原地帯。相変わらずここいらは草原か荒野といった、見渡しの良い場所ばかりである。

 ただし何もないというわけではない。遠方に高山が見えたり、そこかしこにおかしな小山が転がったりもしている。その小山は、駐屯地の周りにあった。何故か人のよう形や、手足のようなオブジェ的な形をしたものが、チラホラある。

 そこから無数の草花が、生命逞しく生えている。

 他にもかつて街の後と思われる場所まである。だがそこは建物が随分古くなっていて、半数近くが倒壊した危険な場所だ。当然人もいない。

 野山羊や野ウサギや、狐や狼といった動物が、そこかしこに見かける。草原を細かく見ると、バッタ・カマキリ・トカゲなどと言った、小動物の姿もある。


 さてそんな緑豊かな地に、すこしおかしな光景があった。おかしいというか、圧巻させられるとてつもない光景である。


 まず草原の中を、三体の巨人が歩いているのだ。この大草原の、本来あるべき生態系とは、あまりにかけ離れた姿だ。

 それは身長十二メートルほどで、あの自衛隊のロボットと、同じぐらいのサイズである。だが外見は大きく異なる。

 体型は少し太く、全身の装甲がかなり歪だ。光沢を放つ、ゴツゴツした石で全身が覆われている。その質感や形は鉄鉱石を適当に固めて貼り付けたようだ。いや、もしかしたらこの巨人は、全身が鉄鉱石で出来ているのかも知れない。

 顔の形も歪であり、もしこれがロボットならば、デザイナーに文句を言ってやりたいぐらい不細工である。

 その素材不明の岩で硬められた頭部には、大きな単眼の目玉がついていた。妖怪一つ目小僧のように、顔の部分の半分ぐらいを占める、大きな瞳。色は赤い水晶のような質感で、人間の黒目に当たる部分が、少し濃くなっている。

 手には指がなく、大きな鉄鉱石の塊が、まるでグローブを履いているようについている。


 ロボットと言うより、ファンタジーのゴーレムのような、謎の巨人が、この草原の中を我が物顔で歩いているのだ。

 この草原の各地に、謎の人の形のような岩石が転がっているが、これは転がってるどころか動いているのである。

 あちこちに奴らがつけた足跡があり、草原の美観が壊されている。彼らを恐れているのか、動物達の姿もない。まるで怪獣映画のような、何とも恐ろしい光景である。

 ファンタジーRPGのような、フィールドを歩き回ると勝手にモンスターが出現するような、物騒な世界は、もしかしたらこんな光景なのかも知れない。


 そして彼らが歩いている近くには、電車の線路があった。遙か彼方から延びる、一筋の河のような一本の人工的な長き流線。

 その線路は、淵に雑草こそ生えていたものの、まだ真新しいようで錆び付いてもいない。それどころかまだ工事途中であったのか、途中で途切れている。

 そして酷いことに、線路の一部が上から何かを押しつぶしたかのように壊れている。

 犯人はすぐに判った。不規則に徘徊している巨人が、たった今線路を踏みつぶしたのである。巨大な岩の固まりといえ大きな足が、線路の上に降ろされる。

 そして歩行と共に、足が離れたときは、レールは紙のようにくしゃくしゃになっていた。


 なにやら見るからに迷惑そうな彼らの近くを、これまた奇妙な者が動いている。それは箱であった。

 高さ一メートルぐらいの正方形の木箱が、ガタガタと揺れながら、ゆっくりとその場を進んでいるのだ。何ともシュールな光景である。

 箱は地面から数㎝ほど浮いており、その浮いた辺りから、人の足が見える。そして木箱の前面には、ちいさな覗き穴があり、そこから人の眼が、前方を向けて見えていた。

 どうやらこの謎の箱、中に人が入っていて、内側から少し持ち上げながら、歩いて進んでいるようである。箱の大きさからして子供であろうか?

 箱の中に殆ど姿を隠しており、見えるのは覗き穴の両目だけなので、当然その人物の全体像は不明だ。


 そんな箱に入った謎の人が、巨人が歩き回ってる場所から、そう遠く離れていないところを進んでいる。

 もしかしてこの巨人から隠れているのだろうか? もしそうだとしたら、何ともお粗末な隠れ方だ。

 だが巨人の方は、この謎の箱が見えているはずなのに、全く気にする様子がなく、徘徊を続けていた。

 この謎の箱の人と、巨人達が、徐々に離れ始めてきたときに、そこから巨人の足音とは違う、盛大な声が発せられた。


『ちょっと~~そこにいる奴! もしかしてあんた襲われてるの!?』

「!!??」


 コンサートや演説の会場のような、盛大な拡声音で発せられた女性の声。これに箱の人は驚き、危うく足を踏み外しそうになって箱が揺れる。

 それが自分に呼びかけていると気づき、慌てて箱の覗き穴のある面を、その声の出た方角に変える。


「何だよあれ……戦車?」


 大分低い声で、そう小さく呟く。彼が箱の覗き穴から見たのは、二キロぐらい先から見える、一両の戦車であった。

 こちらに向かってゆっくり進んできている。彼は視界がほとんど木箱に隠れていたため、この戦車の接近に気づかなかったようだ。


 その声に反応したのは、箱の人だけではなかった。あの鉄鋼巨人達も、声に反応して一時動きを静止し、そしてその戦車の方角に、その大きな一つ目を向けている。


『それロボットっぽくないけど、もしかしてあんたの友達か!?』


 続けて発せられる質問の声。箱の人は、どう対応すべきか考えあぐねたときに、先に動き出す者が現れた。あの三体の巨人である。

 その呼びかけた声の主=亀戦車の、二回目の声が発せられたときに、三体の巨人達が走り出した。

 勢いよく足を動かしているために、地面に走る足音は半端ではない。そしてホラー映画のゾンビのように、両手を前に出しながら、亀戦車目掛けて、あまり友好的に見えない様子で接近してきている。

 その走行速度は、あのロボットと比べると、大分鈍重である。それでも高速道路の一般自動車よりも速い。


『何のつもりよ! 止まりなさい!』


 亀戦車の警告も無視して、巨人達は突撃を続ける。そして先頭の距離が、亀戦車から一㎞を切ったときに、亀戦車の砲口が、それらの巨人目掛けて、容赦なく火を噴いた。


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