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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第六話 過去の日本1

 時は十年ぐらい前に遡る。日本のとある山の近くにある町。田畑が多くあり、町の人口は数千人程度。テレビなどでよく取り上げられる限界集落ほどではないが、人々の高齢化が進んでいる町だ。

 近年の政府の農業政策のおかげで、都会から移住する者が徐々に現れ、人口減少はかなり抑えられ始めている。

 だが今だに農地に休耕地が多く、充分田舎と呼べる程度の町。その町の住宅街にある理髪店。その店の民家にて。

 それは黒い屋根に、茶色い壁に窓が張り付いた、何の変哲もないごく普通の民家。暮らしている住民も、なんてこない普通の家族であった。


「おはよう~~」

「……おはよう」


 民家の二階から、一人の寝間着姿の少女=鉄子が降りてくる。時刻は朝。目覚ましの力を借りながらも、規則正しく定刻通りに起きてきた。

 これから顔洗いと制服に着替えた後で、朝食をとってから、しばらく時間を潰してから学校へ行く。それが彼女の、いつもの朝の生活である。

 本来ならば、今日この日も、そんないつもの日常が訪れるはずだった。

 姉が帰航中に行方不明になるという出来事もあって、かなり慌ただしくなったが、それも大分落ち着いてきている。葬式をするかどうかは、まだ決まっていない。


「おはよう一鉄。今日も静かで良い子ね」


 両親に朝の挨拶を済ませ、制服に着替えた鉄子が、ベビーベッドに寝かされている赤ん坊に向かって、気楽に声をかける。

 赤ん坊は泣いたりせずに、静かに鉄子を見上げて、嬉しそうに手を振るような動作をしていた。

 そして朝食が置かれた今のテーブルの椅子に腰掛けて、持ち出したリモコンをテレビに向けてスイッチを押す。


『さて今日の天気です。といっても今日も気象衛星からのデータがないので、またこちらの推測での表示になりますが……』


 朝食を食べながら、テレビを何となく見る鉄子。今放送されている番組は、朝の天気予報であるが、女性キャスターはなにやらすまなそうな表情で、そんな解説をしている。

 さてそんな全く当てにならない週間天気予報が、画面に表示されようとしたときだった。突如その番組が、急に切り替わったのだ。


「うん?」


 美人の女性キャスターの顔が、急に中年の背広を着た男性に変わって、ちょっと驚く鉄子。

 その人物の顔は、日本中で知られている顔だ。現時点での日本の総理大臣である。

 特に番組内容を気にして見ていたわけではないので、鉄子は黙ってその総理大臣の会見らしき様子を見続けることになった。


『本日、日本全国の皆さんに、お伝えすべき重大な事がございます。どうかどのような荒唐無稽に思われる発言をすることになっても、皆さん決して疑わずに、真面目に聞いて頂きたいのです……』


 何やら険しい顔で、そう前置きする総理大臣。そして一息ついた後で、恐らく彼の前にいるのであろう多数の記者に向けて、彼は意を決して言い放つ。


『ここ最近、日本全国で起きている不可解な現象は、皆様もおそらく既に知っていると思います。十日前の全国各地に出現し、そして直後に消えた多数の未確認生命体。そしてそれ以降の、全国のあらゆる危機のGPSの不通。そして突如、日本各地に瞬間移動のような、謎の経路で帰ってきた、海外渡航中の日本人。そして同時に日本に飛んできた、同じく渡航経路不明の多数の外国人。それらは未だに謎が多く、現時点も我々を悩ましている事態は進行しています。ですがその内の一つ、GPS不通の原因が判明いたしました!』

「!!」


 今まで興味なさげにテレビを見ていた鉄子の顔が、その総理の言葉を聞いて、一気に険しくなった。確かにここ最近、全国でおかしな事が起きまくっているのである。


(ていうか判明したのってそれ? 一番どうでもいい情報じゃないの……)


 少女はテレビの放送を聞いて、少し落胆しながらも、しかと聞き届けようと画面に釘付けになる。

 近くで音声を聞いていた、赤ん坊以外の彼女の家族も、大慌てでテレビの前に駆けつけてきた。


 GPSの件は、普通にネットワークの不備で片付けられそうな話しであるし、少女は感心が薄かった。

 だが同時期に起きた、未確認生命体の件は、大いに興味のある話しである。何しろ彼女の姉が、十日前に海外からの帰航中に、フェリーが未確認に襲撃されて、行方不明になっているのだ。

 あのフェリーでの件。両親は未だに警察をふざけたことを言っていると怒りまくっている。


 あの後鉄子は、姉と一緒にフェリーに乗っていて、現場を見たという人にも会っていた。

 彼らはかなり真剣な様子で、自分たちは怪物を見て、船と一緒に海に沈められる体験をしたと言い張っている。その様子は、鉄子には彼らが嘘を言っているように見えなかった。


『各国がある方向に、空路で調査隊を送り、各国の様子を調査いたしました。許可を得ずに、自衛隊機を海外の領空に侵入させるのは問題ですが、今は緊急事態であるために、特別にこちらから許可を出しました。結果として、各国の領土は座標通りに発見できたのですが……そこに人がいた痕跡は、全く見受けられませんでした……』


 総理のその言葉に、更にざわめき出す記者団。その後の総理の説明はこう。調査した近隣国の都市には、全く人がおらずゴーストタウンになっていた。

 しかもその都市の建築物も、もう何十年も放置されているかのように老朽化しており、既に倒壊している建物も多数あったという。

 しかもその都市内には、各地にかなりの年期がいったと思われる、人骨が大量に発見されていた。別の調査チームも、同じような報告をしている。

 中には都市内で爆発があったかのように、道路や建物の破片が散らばっていたり、直径何十メートルもありそうなクレーターまで発見されたという。


『これらの情報から、異変が起きたのは日本国内ではなく、世界全土だと思われます。この日本という国が、まったく異なる世界に飛んだのか、未来へとタイムスリップしたのか、現時点では判りません。天体の位置が変わっていないことから、後者の可能性が高いと踏んでいますが。とにかく現時点で確認される限り、この日本周辺の領土には、人は完全に消え去っているのです』


 総理のこの言葉は、真実であるならば、今後の日本の命運を狂わせる大事態である。だがその場で、その言葉を真実と受け取る者はいなかった。


『何馬鹿なことを言ってるんだ! 総理も漫画の見過ぎでおかしくなったか!?』

『これは新手のジョークですか? もうエイプリルフールは過ぎてますよ?』

『我々は真面目な話を聞きに、ここに来たんだ! こんな人を馬鹿にした話をして、どういうつもりだ!』


 テレビの前で繰り広げられる罵詈雑言の嵐。

 最初に総理が言ったとおりに、まるで漫画の世界のような、荒唐無稽な話しを、誰一人信じようとはしなかったのだ。


「ちょっと……これって何かの映画?」

「あの総理は役者じゃなさそうだが……とうとう国会の奴らも、気が触れたか?」

「…………」


 テレビの前に出て、話しを聞いていた少女の両親も、既に話しを真剣に聞いてはいなかった。早い内に興味を失い、テレビの前から立ち去っていく。

 だが少女の方は、ただ罵声ばかりが続くテレビを、黙って見続けていた。






 それから少し時間が流れて、夕方頃の時間。その日、学校から帰宅し、別様で家を出ていた少女が、家に帰ってきた。


「ただいま~~」

「おかえ……ちょっと何よそれ!?」


 玄関から家に上がり込んできた少女の姿に、母親は絶叫していた。

 この日、珍しく買い物を手伝いたいと言って、お金とカードを持ってスーパーに出かけた少女。一応買い物という役目は果たしたが、その量は明らかに頼まれた物より多かった。

 バケツのように両手で持ち上げられた、あまりに大きな二つのポリ袋。それにこれでもかと言うぐらいに、大量の物が詰め込まれている。今にも袋がはち切れそうな量であった。

 この荷物を、両手で抱えて、スーパーから帰ってきた少女の体力も相当な物だが、その買い物の行為に、母親は訳が分からず叫ぶ。


「ちょっと何よこれ!? 何を買ってきたわけ!?」

「カップ麺とかインスタント諸々……とりあえず保存の利きそうな物をありったけ買ってきた……」


 怒られるのを予想していた少女は、実に冷静に淡々と質問に回答する。その言葉に、母や親は当然怒り出す。


「何を考えてるの鉄子! そんなもの買い込んで、これから旅にでも出る気!?」

「そんなんじゃないわよ! 何か嫌な予感がすんのよ!」


 互いに激しく言い争う親子。日本中が、総理の妄言に激怒し、各地で混乱が起きていたこの時代。そう遠くないうちに、この少女=鉄子の行動は、実は的確な判断・行動であったことを知るのであった……



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