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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第二十一話 過去の日本4

 時は再び十年前に遡る。日本が謎の転移をしてから、一月が経過しようとしていた。季節は7月、大分熱くなり始める時期だ。

 最初は荒滑稽な発表に、誰も事態を信じようとしていなかったが、あのタンタンメンという怪獣が日本中に顔を見せてから、一気に話しに信憑性が増した。

 そしてそのことは、人々に多くの不安を撒き散らすのであった。


『現在、日本の食糧問題・エネルギー問題の懸念が浮き彫りになっています。統計では、日本の食糧自給率は、カロリーベースで40%。生産額ベースで65%と言われています。どちらが信用に足る数値なのか不明ですが、どちらにせよ、食糧廃棄量をゼロにした数値を加えても、日本がいずれ食糧不足に陥るのは確実と思われます。これに関してどう対応するのか、各所より追及が始まっていますが……』


 学校の制服に着替えた鉄子が、そんなニュースを聞きながら、呆けた顔でテレビのニュース番組を聴いていた。


(食糧問題ね……私の予測は大当たりってことね。ちょっといい気分)


 都市部などでは、食糧に関する不安から、市民の買い占めが始まっている。どこの店でも、大勢の人が、大祭りのように行列を造っているのだ。中には食品泥棒まで現れている。

 結構深刻な問題を聞いていたが、彼女は事前に、大量の保存食料を買い込んでいたので、結構な余裕がある。

 それにここは農家が多くある町。たまに余り物の食べ物を、親戚や友人の家から貰っているので、彼女はかなり楽観視しているようであった。

 店の準備を始めている両親に挨拶を済ませ、彼女はそのままいつも通りに登校することになる。






「日本が異世界に飛んだってマジだったんだな。ていうことは、外の方では、やっぱりエルフとか精霊とかいるかな?」

「そりゃあ、いるんじゃないの? あんな怪獣だっていたんだし。自衛隊はもう、ドラゴンと一戦やったかな?」

「そんなことより魔法でしょ! もし魔法ができるようになったら、絶対私習いに行くわ!」

「そういやタンタンメンが、魔法ぽいので人を変な生き物に変えてたけど……あれって人間に使えるのか?」

「でも獣人になれるのは確かだろ? 猫耳獣人とか見てみてぇな。勿論女の子限定でな」


 全校生徒46人の中学校にて。決して生徒が多くないにも関わらず、クラス内では若者達の会話で賑わっていた。もっと大きな学校では、どれほど賑やかになっていることか。

 海外にまだ縁が少なく、そして異世界という未知の世界に踏み入れた時代の若者達は、実に多くの想像を膨らませていた。


「おはよう」

「「!!!!」」


 だがそんな生徒達も、一人のクラスメイトが入ってきた時に一斉に静かになる。そのクラスメイト=鉄子が無表情で席に着くのとは対称的に、他のクラスメイトはバツが悪そうな様子である。


 彼女の姉が、海上で怪獣に食べられたという話し。当初は誰もが何かの冗談だろうと思い、クラスメイトの中には、それを口実に彼女をからかう者がいた。

 だが今この状況では、その話に信憑性が出てしまい、誰もがいたたまれない気持ちであった。


 あの日本各地に現れた謎の生物に関しては、未だ謎である。勿論、何故日本が転移したのかということも。

 もしかしたら政府は既に、何か掴んでいるのかもしれないが、それはまだ非公表である。

 現時点判ってるのは、特地と呼ばれた日本以外の地域には、極端に生物が少なく、原住民も日本の人口の一割も満たないということ。


 その原住民の多くが獣人で、日本の支配下になることを受け入れていると言うことである。この件に関して、あまりに日本に都合が良すぎる話しに、多くの疑問の声が上がっている。


「ああ……鉄子、おはよう」


 普段から仲が良かったクラスメイトも、何やら硬い口調で挨拶を交わすのみであり、それ以上何も言わない。何か言いたげな感じであるが、それが鉄子には何なのか判っていた。


(まあいいけどね。お姉ちゃんのことで、急に慰められても、何かやな感じだし)


 昨日登校したときも、これと似たような感じで、すっかり馴れ感じの鉄子。彼女にとっては、しばらくの間、静かな学校生活を送ることになりそうだ。






「待てぇ、泥棒がーーー!」

「!?」


 息苦しい学校での時間を終えて、下校途中の鉄子の耳に、突如そんな声が聞こえてきた。勿論彼女が盗みを働いたわけではない。

 いくつかの店舗が並んでいる町の中の道路にて。その叫び声と共に、その道路を走る者がいた。その男は、片手にバッグを持ちながら、もの凄い勢いで走る。

 後ろの方では、一人の老人が叫び声を上げて追っているが、老齢のためか追いつけない様子。同じく下校中だった同校の生徒が、慌てて歩道から逃げだし、そこをそのひったくりと思われる男が走り抜ける。

 そしてその男が、鉄子の脇を通り過ぎようとしたときだった。


「うおりゃあっ!」


 およそ年頃の女性らしくない声を上げる鉄子。何をしたのかというと、実に軽快な動きで足を振り上げて、そのひったくりらしき男を蹴り飛ばしたのである。

 弁慶の泣き所と呼ばれる肘を、シューズの着いた足で勢いよく蹴りつけられる。そのキックの勢いは、この小柄な少女からすれば、驚くべき力であった。


「ぐあっ!?」


 犯人は膝を痛め、そのまま自分の走力の勢いのままに、盛大にこける。顔面に歩道のコンクリートが激突し、昏倒する犯人。


「うおっ! あの子すげえっ!」

「早く捕まえろ!」


 犯人が昏倒している間に、近くにいた住人達が一斉に飛びかかる。真昼に行われた、突然の盗難事件は、事件直後に即座に解決したのであった。


(あれ? この人……)


 先程勇敢にも犯人に蹴りを喰らわせた少女は、取り押さえられる犯人の声を聞いて、ある既視感を覚えていた。

 このひったくり犯は、取り押さえられながら、何かを叫んでいる。容貌は日本人と同じ黄色系であるが、喋っている言葉は明らかに日本語ではない言語であった。





 その場にパトカーが駆けつけて、その犯人は手錠をかけられて連れて行かれる。この騒ぎに、近隣の住人達が、何やかんやで集まって少々騒いでいた。

 ちなみに鉄子は、あの後、自分がした危険な行動に関して、たっぷりお説教されて、たった今解放されたところだ。


「まさか外人の犯罪騒ぎとはね……。都会じゃかなり起きてるらしいけど、まさかここでも起きてるなんてね……」

「つうか……はるばるこんな田舎まで来て盗みとか、何考えてんだあいつ?」

「こんな田舎なら、真っ昼間に堂々やっても、捕まらないとでも舐めてたんじゃないのかい? それとも都会の方でやばいことやらかして、ここまで逃げてきたとか? まあ、まさか女の子に蹴られるなんて、思いもしないだろうけど」

「全く迷惑な奴らだ! いっそあいつらも、化け物と一緒に消えてくれれば良かったんだよ!」

「ああ、外人の品性なんてたかが知れてるよ。日本人だけが残れば良かったんだ!」


 ようやく帰宅の途に戻った鉄子の耳に、そんな町の人達の騒がしい世間話が飛び込んでくる。最初はこんな所で犯罪が起きて怖いという内容から、次第に残留外国人達への悪口の連呼に変わっていく。


 一月前の日本転移によって、観光や仕事で訪日中で、この国に取り残された外国人達。そして不思議な現象によって、この日本国内に転移させられた、残留外国人の親族達。彼らの人数は二百万人に及ぶという。


 彼らは当初から、混乱して暴動を頻繁に起こしていたが、日本転移の話しを聞いて、更に油が注がれた状態である。

 また彼らの多くは、この国に財産も居住地も持っていない。住む場所も仕事も無い、途方に暮れる不憫な者達。

 政府も彼らの保護に全力を注いでいるが、全てに手が回っていない。ホームレス同然の生活をさせられて、盗みや恐喝といった行動に出る者も多い。


 そんな彼らに、同情する者もいれば、ただの迷惑者と忌み嫌う者もいる。全体的に後者が多いようだ。

 特に以前から嫌韓派だったものは、大喜びで彼らに、国籍関係なく中傷を言いまくっている。

 どうにもこの世界には、国家が日本しかいないという事実に、少し曲がった愛国心で優越感に浸っているようだ。

 世界的に見て、品格が優れていると評価されている日本人だが、これを見るとどうもそんな風には見えない。


(好き勝手言ってるし……日本人だって、同じ状況になれば、同じようなことするかもしれないのに……)


 口々に悪口を言い合う者達。それに同意できない気持ちであるが、表だって言い出せない状況で黙っている人達。

 そんな大人達の姿を見て、鉄子は内心で悪態をついていた。だが自分が犯罪被害に遭ったらどういう気持ちになるのか?

 それを考えると、やはり他の大人達と同様に、声を上げることができなかった。



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