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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第二話 様々な騒ぎ

 金山一家の自家用車が、大急ぎでとある港に向かっていた。綺麗な海が見える、海岸線のそこそこ大規模な都市。

 そこには海外行きの旅客船が行き交う、最近改装したばかりの新しい港があった。


 先程彼らの元に届いた電話の内容は、帰航中だったフェリーで事故があって、金山 鉄実が行方不明になったという報せであった。

 具体的にどういうことが起きたのか説明しても、電話の向こうの警官は、何故か苦々しい感じの声で、とにかく来て下さいと言うだけであった。


(うわっ! 本当に騒ぎになってる……)


 港には野次馬なのか大勢の人だかりができており、あちこちにパトカーが停車している。警官達の姿も、野次馬達の次に多い。

 そして港には現在、一隻の大型フェリーが停泊していた。


(あれがお姉ちゃんが乗ってたフェリー? 何だか事故があったように見えないけど?)


 車に乗っているのは鉄子と彼女の父親。母親は甥のこともあって、家に残っている。父親は鉄子にも家に残るよう言っていたが、彼女自身が希望して、ここに同行していた。


 道路の脇の適当なところに車を置き、二人は急ぎ足で車から降りて、呼ばれていた港のビルがある方に走り出す。

 その時、鉄子が通り過ぎたところに、野次馬の群れとは少し外れたところで、携帯を耳に当てながら、騒いでいる男の側を通りかかった。


「いえ違うんです! 勝手に帰ってきたわけじゃないんです! さっきまでフィリピンの職場にいたんですけど……いきなり目の前が真っ白に光ったと思ったら、いつの間にか日本の港にいたんですよ! そうふわっと瞬間移動みたいに……。いえっ、ふざけてないんです! 本当なんですよ! 信じて下さい!」


 スーツ姿の男性が、携帯を片手に、上司らしき人物に、何やら叱責を受けている様子。

 だがその言い訳の内容に、鉄子は首を傾げた。思わず彼女が立ち止まったときに、別の方角からも、騒がしい声が聞こえてきた。


(あれは……外国人?)


 見ると大勢の野次馬がいる場の、すぐ近くで、何やら捕り物が行われていた。二人の警官が、一人の男を二人がかりで取り押さえている。

 手錠をかけられるその男は、どうやら日本人ではない容姿の、白人男性であった。しかも明らかに日本語ではない、鉄子には判らない言語で、しきりに叫んでいる。

 その男はそのまま、パトカーへと連れられていった。野次馬達も、フェリーの事故とは別の騒ぎに注目し、色々喋っている。


「何なんだあいつ? こんなところで急に暴れ出して?」

「さあ? 何だか“ここはどこなんだ~~”て叫んでたみたいだけど?」


 ここは海外行きの船が行き交う港。別に外国人がいても、何も不思議はない。だがそれとは別の、妙な違和感を覚える騒ぎであった。


「おいっ鉄子! 何止まってるんだ! 早く来なさい!」

「あっ……はい!」


 立ち止まっていたら、既にかなり距離が開けて、姿が小さくなった父親に叱られ、鉄子は大慌てで彼の元へと駆け寄っていった。






「怪獣だって!? ふざけてるのか!?」


 さて港のビルの待合室で、そこにいた警官から話しを聞いた、鉄子と父親。だがそこで聞かされた内容に、父親は鬼のような顔で、怒り狂う。

 内容はこう。突如海から怪獣が現れて、そいつがデッキにいた鉄実を食べてしまったというもの。どこの特撮映画かというような、あまりに突拍子のない内容に、身内が怒らないはずがない。


「ええ、確かに馬鹿げてるような話しですが……船員がどう聞いても、それを見たと言い張っていて。他の乗客にも見たと言う人が大勢いるようですが……」

「その話を、あんたらは本当だというのか!?」

「いえ……それは……どうでしょう? 通信室の記録だと、確かにフェリーのすぐ側に何か大きなものの反応があったそうですし。まだ見ていませんが、怪獣が船を襲う所が、海岸からのカメラにも映っていたそうですし……。何か大きなものが、海から出てくるのを見たという人も……」


 電話の時と同じ、歯切れの悪い口調で答える警官。この内容に、彼らも困惑しているようであった。


「それでその娘を食った怪獣はどこに行ったというんだ!?」

「それが……怒らないで下さいよ? 私は証言されたことを伝えるだけですからね? 何でもその怪獣、その後フェリーを壊して沈没させたようですよ」

「……何を言っている? フェリーならあそこにあるだろ?」


 待合室の窓から見える、見晴らしのよい綺麗な海の風景には、件のフェリーが無事な姿で停泊している。明らかに矛盾した話しだ。


「それが沈没して、乗客全員が海に投げ出されて……それからしばらくしたら、急に戻ったそうです。何だか時間が巻き戻ったみたいに、フェリーが元通りになっていて、乗客も皆無事で乗っていたとか。海に落ちた記憶があるのに、何故か服も濡れていなかったそうで……」

「それで娘だけが、姿を消したと?」

「ええ、まあ……通信室の記録でも、それは急に反応が消えたとか……」


 またまた出た突拍子のない回答に、待合室に二度目の怒号が鳴り響いていた。それを横で黙って聞いていた鉄子。


(一体何なわけ? 何かやばいこと起きてる雰囲気なんだけど……)


 今の話しを全面的に信じたわけではないが、先程のテレビの件といい、何かただならぬ事が起きているように、彼女には思えた。

 ふともう一度窓を見ると、港に件のフェリーとは別の、もう一隻のコンテナ船が港に入っているのが見えた。


「ねえ……あの船も怪獣に襲われたの?」


 何となしに鉄子は、今父親に胸ぐらを掴まれている警官に、そう質問してみた。

 その言葉に、父親は若干落ち着きを取り戻し、手を離す。少し安心した警官が、助けを感謝するように鉄子を見ながら、質問に答えた。


「ああ……あれは何か、故障でこっちに緊急で来た船だそうですよ。何でも聞いた話しだと、急にGPS針路が故障して、行き先が判らなくなったとか……。行き先の港への国際電話も通じないらしくて。まあ、こっちは只の故障でしょうけど」


 その時に、急に警官の懐の携帯電話が鳴る。ただでさえ、話しが混乱している中で、急な電話に警官は眉を潜めながらも、自分の携帯をとる。


『大変だ! 今都心部に、不法入国者が大量に現れて騒ぎが起こってる! 至急人員を回せと言ってきてるぞ!』

「はあっ!?」


 一難が去らないうちに、また一難。胃に穴が開きそうな事案は、実はこれからも、しばらく続くことになる……






 この日、日本中でおかしな事件が、連続して大規模に発生した。


 全国各地に謎の生物が出現した。まるで怪獣映画かゲームのモンスターのような、奇怪な生物が何の前触れもなく出現したのである。

 空間に穴のような物が開いて、そこから未確認生命体が出現する現象は、実に多くの人に目撃されており、監視カメラなどにも映像が残っている。

 中には既に人が襲われたり、建物が壊される、明確な被害が出ている件もあった。鉄子が見ていた、生放送の番組もそれである。


 そしてそれらの生命体は、出現した間もなく、全て消え去ったのだ。まるでお化けのように、一瞬で掻き消えた生命体。

 出現から消滅までの時間は個体差があり、中には出てきて数秒で消えた者もいた。判明したのは、それは皆、同時刻の正確な時間に、同時に消え去ったということだ。

 そして同時に、その怪物に壊された建物や、死んだと思われた人々は、消滅後に、まるで時間を巻き戻したかのように、元通りになっていた。これは怪物の出現より、不可解な現象である。

 目撃した人々も、あの一瞬が夢だったかのような体験だったと困惑している。

 これらの映像や証言が報道されたときは、当初映画の宣伝か何かだと、真面目に受け取る者は少なかった。何しろその瞬間の映像や目撃証言以外では、怪物の死体も損壊した建物も、何一つ物証がないのである。


 この日の夜に放送された、とある番組にて……


『それではあの映像は、トリックではなく本物だという言うのですか?』

『ええ、そうです。確かに私も他のスタッフも、あの狼男を確かにこの目で見ました』


 それはあの日に、鉄子が見たテレビの生放送番組に出ていた、あの女性リポーターである。

 テレビの前の座談会のような取材風景に、彼女はかなり真剣な様子で、キャスターの質問に答えている。


『でもあの映像だと、あなたは怪物に殺されてますよね? どうして生きてるんですか?』

『そんなの知らないわよ! 何だか気がついたら、皆いつのまにか生き返ってたの! 何だか夢みたいな体験だったけど、あれは確かに本物だったわ!』

『はあ~~それは確かに不思議ですね~~』


 かなり本気な様子で、自分の見たことを語るリポーター。だがその内容を、キャスターは真面目に受け取っておらず、何かトーク番組のように、軽く笑いながら、受け答えするだけであった。



 それとは別に二つ目の奇怪な現象。何とその未確認生命体の後で、当時海外に出ていた日本人が、一斉に帰国していたのだ。日本人だけではなく、何故か身元不明の外国人も大勢いる。

 船や飛行機を使って、普通に帰ったのではない。まるで空間を飛び越えたかのように、一瞬でその場に現れたのである。

 帰国地点は、各地の公園などの広間や、人里近くの山の中。当人達も、何故自分たちがここにいるのか判らないらしい。

 それとこれはまだ正確に確認されたわけではないが、日本に転送(?)されて来た外国人は、その多くが旅行などで日本に在来中だった外国人の、親族や配偶者であるらしい。


 そして最後にGPSの不通。全国でのGPSが、その頃を境に全く繋がらなくなった。そのせいで各空港は、未だに欠航していて、全く仕事が出来ていない。

 海外との通信も入らず、現在日本以外の国が、どうなっているのか、全く判らないのである。まさに日本は孤立無援状態となっていた。


 この日、日本は歴史上例のない奇怪な現象を体験した。だが自分たちの身に起きた、本当に驚くべき事態に気づくのは、もう少し先の話になる……



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