第十三話 初めての町
鉄実とビービは、大地魔達を撃退した後、再び線路沿いの道を進む。そして僅か数分後に、集落を発見した。
「もう着いたのか? 流石最新型戦車は、速さが違うな」
『ていうかあれって街なの? でかい塀が囲ってあるけど? しかも上に白い変なのがあるし』
亀戦車のカメラで、映像を拡大すると、そこにはまるで城壁のような壁で覆われた区画が、広範囲に渡って続いていた。
高さは3メートルほど。自衛隊駐屯地の近くにあった集落よりも、ずっと低い。もしこれが城壁なら、簡単に敵の侵入を許してしまうだろう。
しかもその上に、木の骨組みを基盤にした、布の壁がその城壁の上に、長く掲げられている。刑事ドラマなどで見る、遺体を外から見えなくするブルーシートに似た感じである。それによって、この城壁の高さが、本来の倍ぐらいの高さになっている。
最も、こんな布では、敵の侵入を防ぐことはできないだろうが。
線路はその壁を通っているようだ。線路の通る先だけ、城壁が途切れている。
しかしその線路の通り抜ける、壁のない部分にも、大きな布が張られており、外から内部の様子が見えなくなっている。
「あれは外から街が見えないようにするためのもんだ。布は壁を少しでも高くするために張ってる」
『あんなもんが役に立つの?』
「意外と役に立つもんだ。外から大地魔共に、人の姿が見えなきゃ良いんだからな」
『ああ、成る程……』
それで鉄実も納得した。どうやら大地魔達は、人間を形と声だけでしか認識できない上に、人間の集まる集落という概念も判らない存在であるらしい。
「見た感じ、ここの方角に門はないな。ちょっと迂回してくれ」
『判ったわ。でもいきなり戦車が来て、変に警戒されない?』
鉄実は今気づいた不安要素を告げる。こんな重武装兵器が、いきなり街の中に入り込んだりしたら、少なくとも地元だったら、かなりびびるだろう。
そうでなくても、自分は自衛隊から、逃走車扱いなのである。
「大丈夫じゃないのか? どこの街でも、大概自衛隊が武器持って出入りしてるし。大地魔なんかが彷徨いてる世界だぜ。兵器をすぐに追い出すようじゃ、誰も生き残れないっての」
『そういうもんなの? 今時の自衛隊は随分信頼されてるのね?』
「ああ、少なくとも石人共の間ではな」
とりあえず鉄実は進行方向を、線路から外れる方向にそれながら、その風変わりな壁に囲まれた街に近づく。
やがてわずか数十メートル先にまで、その壁が見えてくる。上に布のカバーがあるだけの、低いコンクリート製の壁は、このまま直進しても、簡単に破れそうである。
勿論そんなことするわけにはいかないので、その塀を沿いながら、門を目指す。
この塀と布きれの向こうには、どんな光景があるのかは不明だ。ただこの亀戦車は、エンジン音が小さく、静かに動く。そのため壁の向こうのすぐ近くに人がいても、この巨大な機械車両に気づかないだろう。
やがて鉄実達は、外と街の中を繋ぐ門を発見した。木の板でできた、大型でありながらも、安物っぽい門。縦長で、この亀戦車なら、余裕で通れそうである。
そしてその門には、小銃を持った黒いジャージ姿の門番が二人いた。
「あっ、これはどうもお疲れ様です! どうぞっ!」
「討伐任務ですか? さっきも向こうで砲声っぽい音がしましたけど?」
いきなり戦車が出てきて警戒されるかと思ったら、何故か友好的に話しかけて、こちらから何も言わないうちに、彼らは門を開けてくれた。ビービの言うとおりであった。
牧場の囲いの門のような簡素な木の扉が開かれ、鉄実達の前に道が開かれた。
『本当だ……警戒されないどころか、あっさり通門許可が……』
「俺たちのこと、自衛官だと思ってるんじゃないのか? それにこの辺りで、危ない奴と言ったら、大地魔ぐらいしかいないしな」
丁寧に挨拶されながら、亀戦車はあっさりとその門を潜り、街の中へと侵入する。見送る門番達の顔を見て、鉄実はもう一つ気になることに気がついた。
『そういえばあの人達……見た感じ人間じゃないわよね? 何か肌が、磨いた石みたいにてかってるし……』
ジャージから見える、彼らの顔や手などの肌は、鉄実が表したとおりに、まるで石で人形を作ったような、光沢のある石のような質感の肌色であった。青みがかっているので、青石人とでもいいのか?
「ああ、あれは石人だ。身体が鉱石みたいな成分でできてる亜人だよ」
『亜人って……それってゴーレムとかとは違うの?』
「さあな。どういう理屈か知らんが、人間との生殖もできるし、自衛隊の奴らも、普通に人間として扱ってるぞ……」
『さすがは異世界、変なのがいるのね』
「そうだな。言っとくが、あまり変なこと言うなよ。こいつら子供並みに純粋で、変な話しも信じちまうからな」
車内でそんな会話をしながら、二人は門の内側の道を進む。外と違って、人の住む地域で高速走行はできないので、時速は二十キロ程度に抑えている。
戦車一両分、普通の車なら、往復二台分通れるぐらいの道幅。その道は、広い農場を横断する形で伸びている。キャベツやキュウリなど、日本で見たことがあるような野菜が、この広大な農地に植えられている。
手入れをしているのはさっきも見た石人達。ホースのシャワーで水をやったり、鎌で雑草取りをしたりと、ごく普通な農作業をしていた。石人達は、人間と同じように野菜を食べるのであろうか?
そんな彼らは、こちらを見て一度振り向くが、すぐに興味を失って作業に戻る。どうやらビービの言うとおり、ここでは自衛隊の乗り物を見るのは珍しくないようだ。
やがて農道を抜けて、二人は待ちに近づく。立派な農地と農道とは違って、町並みは簡素なものだ。
まるで被災者の仮住宅のような、プレハブ作りの建物や、祭りの屋台のような店が建ち並ぶ街。何だか急ごしらえで、居住地を作ったという感じである。
そしてそこの住人は全員石人だった。門番は二人とも青水晶ぽい肌色だったが、街中には複数種類いて、主にルビーのような赤い肌と、アメジストのような紫色の肌とで、計3種類いる。
そして彼らの殆どは、日本で見かける夏服のような、現代的な服を着ていた。もしかしてこれも、ビービと同じく自衛隊の支給品だろうか?
そして彼らは全て、十代二十代の若者ばかりで、年輩の姿が見えなかった。元の世界の少子高齢化と違って、ここは若者の多い集落なのであろうか?
(石人ばっかりで、人間がいないわね。てっきりあの牛とか鶏みたいな獣人が、いっぱいいる世界だと思ったけど)
自衛官達の、人間と獣人が混ざり合った様子とは、どうも違う感じの町の様子。これはどういうことなのか?
街中に入ってくる戦車に、皆少し驚いて、その場の道を空け始める。街に入って、数十メートル進んだ後、停車させてビービが外に顔を出した。
「あれ? 子供?」
「レイン帝国のグールだな。何でだ?」
ハッチを開けて顔を出したのが、明らかに自衛官でない人物だったことに、街の人々は困惑しているようだ。
「なあ、あんた自衛隊か? 今だとグールでも自衛隊には入れるの? 俺ら石人はまだ入れないけど……」
『いんや、私らは自衛隊じゃない。遥か宇宙の彼方の、第77星雲からやってきた、ポンコツロボットを蹴散らしに来た正義の戦車よ!』
とある石人の青年の質問を、鉄実がスピーカーで、そう茶化すように言ってみる。普通なら、軽く言った冗談と判る台詞。
だが観衆達から、今までにないざわめきが起こり始める。
「えっ、嘘!? 宇宙人!?」
「すごい! 日本のアニメとかで、いっぱいみたけど、本当にいるの!?」
「そうなのか!? じゃあ宇宙船とかって何処かにあるの!?」
何故か今の冗談を信じて、様々な反応を見せる石人の観衆達。そんな光景に、ビービは一瞬呆れ、すぐに鉄実に向かって怒り出した。
「嘘に決まってんだろ! 宇宙人なんているか! 鉄実、お前さっきの俺の言葉聞いてたよな!? こいつらに変なこと吹き込むな!」
『悪い悪い……まさか本当に信じるなんてね……』
観衆が静まった後、ビービは車体から降りて、近くにいた町民に質問してきた。
「悪い、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ。この町に、こういう戦車の整備とかできそうな人っていないか?」
これが彼らのとりあえずの目的。元の身体に戻ろうにも、そもそも彼女の身体がどうなっているのか、それが判らなければ元も子もないわけだ。
この言葉に、聞かれた町民も、周りの人々も、少し困った様子である。
「そんな事言われてもね……戦車の整備とかって、自衛隊の人達が自分でやってるし……こんな田舎で、そんなこと聞かれてもね……」
「自衛隊の人に聞けないのか? ていうかそれって、自衛隊の乗り物じゃないの?」
尤もな常識と疑問を口にする人々。だがそれは彼らには選択できないものである。
「これは一応自衛隊の持ち物だったが……ちょっと訳ありでな。色々あって俺たちゃ自衛隊に頼めないんだわ」
「うん? ああ、そう?」
すぐに盗品を疑われそうな返答であったが、町民達はあまり疑う様子がなく、真剣に考え込んでくれている。町民皆、結構気のいい人達である。
「だったら森銅の旦那に聞いてみたらどうだ?」
「あの人、戦車直せんの?」
「知らないわ。とりあえずあの人しか、機械いじれる人いないし」
何やら町民達の会話に、一人の人名が出て、話題が上がり始めている。勿論ビービは、その人物のことを知らないので、再度質問することになった。
「何だその森銅って? 技師なのか?」
「うん、そうだよ。この町で、テレビとか炊飯器とか、色々直してくれてる人」
「ああ……成る程。その人はどこにいるんだ?」
どうやらそれは家電修理士の名前だったようである。色々不安があるが、他に話を聞けそうな人物がいないので、その森銅という人物を訪ねることにした。




