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転生戦車と転移日本  作者: 竜鬚虎
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第一話 フェリー事故

 日本の近海のとある海。空はやや曇り空、辺り一面は見渡す限りの大海原。

 その広大な海のど真ん中を、高速で進む、怪物のように巨大な物体があった。

 全長は百数十メートルはある、細長い巨体。巨大な金属の塊のようでありながら、問題なく海に浮いている。そして海面に泡のような水しぶきを上げ、後尾から謎の煙を、竜が火を噴くように巻き上げながら、ぐんぐんと海をある方向を進んでいった。

 ……こんな風に物々しい言い方をしたが、要するにこれはただのフェリーである。大勢の客・車・荷物を載せて、現在日本に向かっている最中であった。

 見ると既に、向かう先に日本の陸地が見え始めている。


 そのフェリーの二階デッキの客室で、携帯電話で日本の家族と連絡を取り合っている、一人の平凡な女がいた。


『お姉ちゃん、またこんなことして……いい加減に反省したら? 私より先に、まずお父さんとお母さんに連絡したらどうなわけ!?』

鉄子(てつこ)~~~そんなことしたら、まず最初にお説教待ちじゃないの。どんだけ怖いと思ってんのよ」

『当たり前よ! 自分の子供ほったらかして、海外旅行なんて!』

「ああ……うん……」


 客室のベッドの上に、黄緑色のTシャツに短パンという薄着を着た、二十代中程の日本人女性が座っている。

 そして手に持っている携帯電話の向こうから聞こえる、妹と思われる者の声に、何やら縮こまっていた。


「ていうかさ、鉄子こそこんな時間に何で家にいんの? まさかサボり? それは駄目じゃない?」

『急に午前授業になったのよ! 近くの山に、変な獣が出たとかで。ていうか急に話しをそらすな!』

「ああ……うん。まあ、とりあえず……あとちょっとで帰れるから、二人には何とか上手く言っといてね……」

『やなこった! むしろ更に怒るぐらいの説明をしたげるわ!』

「そんな殺生な!」

『それとこっちから先に伝えとくけど……お姉ちゃんの会社、もうすぐ摘発されそうな感じよ。前も警察の人が、家に話しを聞きに来たし』

「うそっ、マジで!?」

『言っておくけど、あたしを巻き込まないでね。じゃあね!』


 そのまま携帯の通信が途切れた。向こうが一方的に切ったのである。そして切られた女性は、しばし口を小さく開けたまま、固まっていた。


(ああ……やっぱりあれって詐欺だったんだ。まあ、飲むだけで痩せるジュースなんて、最初からかなり胡散臭かったけど)


 一年ほど前に就職した、己の勤務先に、終わりの時が見え始めて、彼女はこの先の未来がまた不透明になっていた。

 しばらく彼女は、人生の悩みで固まり続けていたが、しばしして落ち着きを取り戻す。頬を数回軽く叩いて、ベッドから立ち上がる。


(こういうときは……とりあえず風にでも当たって、リラックスしますか……)






 フェリーのデッキへと歩いて行った女性。そこから海と、どんどん近づいてくる日本列島の陸地を眺めながら、あの薄着だとかなり寒いだろう海風に当たっていた。


(どうしようかな……こんなことなら、お土産をもっと買い込んで、親の機嫌をとっておけば良かったかしら?)


 そんなことを考えながら、しばらく海を見続けている時、突如騒がしい声が聞こえてきた。


『緊急警報! ただいまこのフェリーに、潜水艦と思われる謎の物体が、急速に接近しています! 皆さん、衝突に備えて、すぐに緊急避難の準備を……』

「はいっ!?」


 船中に流れたその放送は、映画でしか聞かないような、謎の事態を説明するものであった。

 だがその放送の警告は、かなり遅かったようだ。その謎の物体は、凄まじい速度でこのフェリーに接近し、もう目の前に来たのだから。


 ザッパーーーーン!


 突如彼女の目の前の、デッキ近くの海が、まるで爆発したかのように水が盛り上がり弾け飛んだ。

 本当に爆発が起きたのではない。海中からとてつもない質量が、もの凄い勢いで、海面に上がってきたのである。


(えっ? 何これ? 何かの撮影?)


 大量の水しぶきを上げ、彼女ごとデッキを水浸しにしながら出現したそれは、現実ではありえない存在。

 それは生物だった。フェリーの全高と同じぐらいの体高を持った、鯨のように巨大生物。下半身が水中であるため、詳しいことは判らないが、これは二足歩行で立っているように見える。

 それは巨大な亀だった。まっすぐに立ち上がる、かつての大映映画の子供の味方のような巨大生物。

 日本のイシガメのような、石のような質感と模様を持った甲羅。そしてトカゲのような鱗で覆われ、太くて鋭い爪が生えた、熊のような手。顔は尖っていて、ワニガメに似て無くもないが、何故か後頭部に人間のような髪の毛が伸びている。

 そんなあまりに非現実的な、危険そうな大型生物が、このフェリーの前に現れたのである。


「何よあれ!? 何かのショー!?」

「知るか! グダグダ言ってないで、さっさと逃げろ!」


 他の乗客達が、パニックになって船内を逃げ惑う中、まさにその巨大亀の目と鼻の先にいた女性は、その雄大な怪獣の姿を、先程の電話の時以上に呆然としながら、高々と見上げていた。

 巨大亀は、目の前のデッキにいる女性をみやると、その大きな口を開き、それをまっすぐ彼女に向かって振り下ろした。彼女の頭上から、その顔が作り出す影が、彼女を覆っていく。


(ああ……もう駄目だ……おさらば……)


 そしてその巨大亀の大きな口は、女性語とそのデッキの一部分を、丸ごと食らいついた。


 金山かなやま 鉄実てつみ。フェリーにて日本の帰国直後に、海から現れた、亀型巨大生物に補食されて死亡。享年25歳。

 この日世界中に、後に人妖と呼ばれる、謎の生物が異界から大量に出没した。その直後に、彼女の故国である日本という国は、謎の転移現象により、突如世界から消えたのであった。






「言っておくけど、あたしを巻き込まないでね。じゃあね!」


 とある町の、平凡な民家の中で。一人の少女が、自分の携帯電話に耳を付けて、そう叫んだ後で、電源を切る。

 その少女は、鉄実が電話で会話していた妹=鉄子であった。十代半ばぐらいの、まだ容貌に幼さのある、ごく普通の少女である。学校から帰った直後のようで、彼女は学校指定の制服のセーラー服姿。


 つい先程、帰ってきた直後に、メールが来たのだ。

 内容は『今父さんと母さんいる? いなかったときに、また連絡して』というもの。

 こういうことは以前にもあった。10日ほど前に、突然同じようなメールが来たのである。とりあえずいないと打ってみたら、特急で実家にやってきたのだ。しかもまだ一歳に満たない赤ん坊を連れてである。


 両親がいないのを見計らって、その赤ん坊を妹に押しつけて、鉄実はさっさと言ってしまった。

 その時のことも、今回のことも、いずれも店が休みの時は、両親が家を離れていることが多いことを狙った上でのメールであった。

 ちなみにこの時に、姉に子供がいたことを、鉄子も両親も初めて知ったのである。そのメールが来たとき、彼女は即座に、姉の携帯に電話をかけたのである。


 鉄子は電話を切った後、居間の食卓机の椅子に座り込み、リモコンを持って、居間にある黒いワイドテレビの電源をつける。

 いつもは食事中にもテレビを見ているのであろう、家族団らんの間。だが今は、家に彼女しかいないようであった。


『はい、この弘後食堂は、今年で百年の営業となる老舗で……』


 テレビに映ったのは、何やらリポーターらしき女性が、生放送と思われる番組で、店舗の紹介をしているようであった。

 目の前に、大きな木の看板が入り口に置いてある、老舗と言うには真新しい建物の飲食店の映像が映し出される。

 彼女にとって、特に興味をそそる番組でもなかったのか、その場でチャンネルを変えようと、リモコンのスイッチに指をかけようとしたときだった。


『えっ!? ちょっと何あれ!?』


 突如発せられたリポーターの困惑の声。彼女が視線を向けるのは、本来仕事で紹介する予定だった店ではなく、その店の脇の道路の上。地上から高さ十メートルぐらいの上空であった。


(何これ? パニック映画だったの? この番組?)


 そこに映し出されたのは。空に浮かぶ謎の赤い円であった。謎の赤い空間が、円形になって空中に、SF物のブラックホールのように、空中に姿を現しているのだ。

 物質的な感じはなく、何かのエネルギー的なものを感じる質感の、縦に浮かぶ謎の赤い空間。その赤い空間から、何かが這い出てきた。

 河童が沼から上がるように、ヌーーとその赤い空間から、何かが出てくる。これはワープホールだったのであろうか?

 獣のような毛むくじゃらの身体が、どんどんその穴から出てきて、全身が抜け出た後、重力に従って地面に降り立つ。


 ズン!


 地面に降り立ったときの衝撃は、結構大きなものであった。それはこれがそれだけの重量である証拠。

 それは体高四メートルはある、人型の何か。ただし人ではない。それは狼男であった。

 全身が灰色の毛で覆われており、両手足の指には、刃物のように鋭い黒い爪が生えている。頭は完全に狼で、鋭い歯が生えそろった口が、この画面に凶暴に映し出される。そして後頭部には、何故か人の髪のような毛が、後ろに長く延びている。

 まさに洋画の悪役っぽい怪物である。


『きゃぁああああああっ!』

『ばっ、化け物だーーーー!」


 画面の向こうから、凄まじい悲鳴が上がる。現れた狼男は、その巨大な腕を、リポーター目掛けて振り下ろした。


(うわ~~~グロいわね……)


 テレビ中継中に怪物が現れるという事件が起き、画面に映し出されていたリポーターが、怪物の振り下ろした拳に叩きつぶされ、血と肉と骨と内臓の欠片が、割れた皿のように散乱して、カメラのガラスに付着しても、テレビを見る鉄子はさほど動揺しなかった。

 というかそもそもこのテレビに映し出されている光景を、本物だとは思わなかった。

 このような映像、CG技術が発展した現代においては、そこかしこの映画や特撮では見慣れた物だけに。


『たっ、助け……』


 今まで怪物を写していたカメラマンも、さすがにこれには逃げだして、カメラを捨てる。

 画面に映し出された映像が、倒れたカメラから映し出される、狼男の足下が映し出される。カメラマンを追っているのか、前進を始めた狼男。

 その足が、カメラを踏みつぶさんと近づいたときに、急にテレビの画面が途切れた。


(あら?)


 テレビ番組映像が途切れて、画面に無放送時のカラフルな表示が出る。

 てっきりこの後で、作品の主人公だとかが出てくる本筋の話しが出てくると思ったが、いつまで経っても画面が切り替わらない。


(何これ? 故障?)


 試しにテレビのチャンネルを別の物に切り替えると、普通に他局の番組が放送されていた。何故あのチャンネルだけが、急に切れたのか、いまいち判らない。

 とりあえず彼女は、録画チャンネルに切り替えて、以前録画したアニメの鑑賞をすることとした。


 それからまもなくして、出かけていた両親と、彼らと一緒に車のチャイルドシートに乗っていた甥が帰ってきた。

 それから数時間ほどして、警察より緊急の電話が入ってきた。それは先程港に着く予定だった姉が、港に入る前の船で、行方不明になったという報せであった。


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