雷光の理由 1
主人公「鹿島冬樹」とヒロイン「ペリドット」との出会いはあらすじを参照してください。それについてのお話は後々投稿します。
ほの白い風が頬を撫でた。
レースのカーテンが周期的に膨れ上がり、中央から端の方へと波のように揺らめく。
膨らみが端から解放されるたびに涼しげな空気が前髪を掠めた。
窓を閉め忘れた。少し、寝苦しかったから窓を開けた記憶がある。その後の記憶はない。
ベッドから起き上がろうとして手をつくと身体の下の方でどこかが軋む音がした。掛け布団に手をかけ、ひんやりとしたそれを畳む。
几帳面に敷かれたシーツや大きな枕は心地の良いものではあったが、僕は未だにその感触に慣れないままでいた。
小さく伸びをしながら着替えを始めた。ジャケットの袖を通したところで、春先の風が机の本をぺらぺらと捲っているのが目に入った。見ると、昨日の夜は確か第32章までだったはずの頁が、いつのまにか第56章まで進んでいた。
あ~あ、と誰に向ける訳でもなく呟き、しおりが必要だな、と独り言ちた。
部屋を出ると途端に空気が変わる。大気の構成物質が変化したり、気温、圧力が急激に上下するわけでは無い。
ここで言うそれはより感覚的なもの。雰囲気や気配といったフィーリング的な受動に基づく実証不可な変化を指し、さらに具体性を強めるのであれば同居人の気配を感じるのだ。
一口にこう言うと少し語弊が生じてしまうかもしれない。同居人という言葉の持つイメージが、僕が主体的に同居人を受け入れているように聞こえさせるからだ。
実際は、その逆であり、この家の所有権は相手側にあって僕がそこに同居させてもらっている。
ともかく、部屋の扉を開けて下の階に続く吹き抜けの階段に出ると、僕は同居人の気配を色濃く認識させられた。同居人が3mを超える巨躯を持っているだとか、無数の眼球を持つ異形の怪物だとか、気配の種類はそういう類のものではなく。
むしろその対極に位置するであろう、日常の気配、である。
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