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昨シーズンのスケート界に衝撃走った。
世界選手権女子シングル、五輪や世界選手権のメダルを持つ実力者が数多く出場する中、一人の少女が彼女たちを押さえて頂点に立った。
それも、その少女はジュニア上がり一年目、わずかに十六歳だった。
二つの三回転三回転、さらにトリプルアクセル。事前に提出されたプログラム構成は、そんな極端に難しいものだった。そのジャンプ構成に、関係者は口をそろえてこう言った。クレイジーだ──。
だか彼女は狂ってなどいなかった。彼女は予定通りすべてのジャンプを成功させた。例え実績のあろうとも、安全第一の演技をしていた過去のメダリストたちに勝ち目はなかった。かつての女王たちも圧倒的な実力を前にひれ伏すしかない。
若干十六歳の、無慈悲な女王。それが君崎凛。今──俺の目の前にいる少女。
コートとマフラーに身を包み、雪空を見上げていた。試合ではいつもポニーテールだが、今日は髪を下ろしている。長くしっとりした髪が時々吹く風に揺らされる。
俺は完全に思考停止に陥った。まるで試合でリンクに立った時のように、なにも考えられないでいた。
やがて彼女は俺に気がついた。冷たい瞳に捕らえられる氷よりも凍てついた瞳、目をそらすことはできなかった。
「王寺大輔」
名前を呼ばれた。
「は、はい」
俺が絞り出した声は、あまりに情けないものだった。
彼女は何もいってこなかった。まさか、小さすぎて聞こえなかったのか。もう一度返事をした方がいいのか──そう思って俺が口を開こうとした瞬間、彼女がようやく口を開いた。
「──」
身体に冷たい雪が積もっていく。頭を冷やしていく。
「え?」
ただでさえ回転の遅かった俺の脳内PCは完全にフリーズを起こした。彼女の言葉の意味を理解できない。
彼女は、もう一度、ゆっくり繰り返した。
「──私とペアを組まない?」




