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ワンモアアクセル!  作者: アメカワ・リーチ
ワンモアアクセル! 1 ~トゥーランドットと練習王子~
6/42

05


 この時間は一般開放の時間だ。よって貸し切りで練習という訳にはいかない。俺たち選手に割り当てられるのは中央部分だけ。今日は平日だが一般客がかなり多い。まだ冬休み中の学校が多いからだろう。リンクは子供たちの声で騒然としていた。

 人が多いのは苦手だ。けど彼らは観客ではない。いくら俺でもさすがに緊張はしなかった。

 軽くウォームアップをしてから、それから個々のエレメンツの練習に入った。頭の中にある明確な理想像に、自分を近づけていく。スピン、ステップ、そしてジャンプ。少しずつ理想に近づいていくのを日々感じている。

 フィギュア。その言葉は多くの意味を持っている。フィギュアスケートというのは、元々氷上に“図形”を描くスポーツだった。フィギュアスケートのフィギュアは〝図形〟の意味だ。

 でも俺が目指すのは、図形をきれいに描くことではない。

 フィギュアのもう一つの意味。

 “人影”

 俺はある人のスケートを追っている。小さい頃に見て以来ずっと憧れている人。その人に追いつきたいという想いが、俺の努力の源だった。

 彼女のフィギュア<人影>を追い続けている。そして、技という面ではかなり追いついてきてるかもしれない。

 けど、精神は? 残念ながら、俺はあの人の百分一の勇気も持っていない。相変わらず弱いままだ。たぶんスケートを始めた日からほとんど変わらないまま。

 あの勇ましい姿に追いつきたい。その思いは日々強まっていく。けれど、理想と現実はどんどん離れていく。なぜか思いの強さと、スケートの実力とが反比例していく。

 もっと強くなりたい。あの人と同じステージに上りたい。けどできない。どうすればいいかわからない。だから、俺はただ跳び続けて、少しでも高みを目指すしかないのだ。

 それから三時間の練習をこなし、俺はリンクを後にした。ロッカー前の自販機でミネラルウォーターを買う。熱くなった身体をミネラルウォーターが冷やしていく。練習の後はただの水が異様においしく感じられる。俺はペットボトル一本分の水を軽々飲み干した。それから一息ついてロッカーを後にする。自動ドアをくぐると、凍てついた空気を感じるより先に、俺の目に跳び込んできたものがあった。

 雪だ。

 初雪。それも、みぞれではない、しっかりとした雪で、すでに地面を覆うくらい積もっていた。千葉はほとんど雪が降らないから、積もるほど降るなんて本当に珍しい。だから、こんな歳だけど、ちょっとだけ良い気分になった。思わず片手を胸くらいまであげて、雪を受け止めた。体温で刹那に溶ける雪を眺める。練習で疲れきった身体から、ちょっとだけ疲れが消えていった。

 ほんの短い時間だが、雪を楽しんだ俺は、帰路につこうと前を向いた――次の瞬間。雪のことなど頭から吹っ跳んだ。

 リンク前の広場。中央に植えられた大きなモミの木。その下に佇んで雪を眺める少女。俺はその少女に目を奪われた。だって、その少女は────


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