EX
というわけで、新年、新学期。ひさびさにクラスメイトに会う日。だが、俺の心中は複雑だった。……皆になんて言われるだろう。
幸い教室前に来るまでに、一人もクラスメイトに会わなかった(規模の大きい高校なので、不思議なことではない)。
暖房で暖めた空気を逃さないようにと教室のドアは閉め切られていた。
俺はドアの前に立った時、それ開けるのを躊躇した。トリプルアクセルを跳ぶ前と同じくらい緊張する。同時にこんなところでつったってるのはおかしいと、焦りも生まれる。
早く開けないと。ようやく決心してドアに手をかけようとしたとき、
「なにしてんの」
急に肩を叩かれた。完全に不意打ちで、俺は情けなくも肩をびくっとさせてしまう。振り返ると、そこには仲のいい友人の姿があった。
天野星。
「さっきから、何ぼけーっと突っ立ってんの」
「あ、いや」
返答に困る。まさか怖くて教室に入れませんでしたなんて言えるわけがない。だが言い訳を述べる前に、天野が先に口を開いた。
「てかそれよりあんた! ちゃんと君崎凛と結ばれたのね!」
無邪気な笑顔。天野はげらげら笑いながら俺の背中を叩いた。
「それは誤解だ!」
やっぱりね!
全日本選手権の後。非常に不快なことに、俺たちは五輪出場を逃したにもかかわらず、新聞紙の一面を飾っていた。
いわく『女王、熱愛』『女王の氷を溶かしたのパートナー』『氷上キス! 愛の演技』エトセトラ、エトセトラ……。今まで浮いた話一つ無かった君崎凛の氷上にメディアたちはいっせいに食いついた。 国民的美少女の《熱愛報道》新聞紙だけでなく、ネットも騒然だ。
「あれは違うんだって。そのそういう意味はなくて」
本当に、俺と凛の間に、世間が思ってるようなことは一切無い。
結局俺たちは、ペアスケーターでしかない。下手をしたら友達で冴えないのかもしれない。けれどそれに満足してる。
「ふーん。じゃあのキスは?」
「あれはさ、おまじないなんだってさ」
「さすが国際的なスケーターは違うわね。キスの一つなんて挨拶でしかないわ、ってこと?」
「いやだから違うって……」
「わかったわかった。もういいから。そういうの」
こうなると天野はめんどくさい。
「ところでさ、大輔」
「ん?」
「こないだの言葉撤回する」
天野は、にっこり笑って言う。
「大輔のスケート、シングル時代よりも、今の方が好き。だって、すごく堂々としてるから」
それは、何よりの褒め言葉だった。
「ほんとさ、四年後が楽しみだよ」
スポーツ選手なら誰もが憧れるその舞台。
────オリンピック。
次の舞台はミュンヘン。
「天野。俺約束する――俺たちは四年後、絶対にそこにいる」
(ワンモアアクセル1 END)




