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会場はスタンディングオベーションだった。いつまでも鳴り止まない拍手。無数に投げ込まれる花束の雨の中、俺リンクサイドに凱旋する。
だが俺たちを迎えたのは、険しい表情をしたコーチだった。普段あまり怒ることのないコーチが、確かに激昂がしていた。賞賛で埋め尽くされたリンク、次の瞬間、怒声が、それを切り裂いた。
「馬鹿野郎」
異変に気がついた観客。歓声がざわめきに変わる。
「誰が練習で成功率五割の技を本番でやれといった」
それは俺たちが、選手生命さえ脅かすような暴挙に出たことに対する戒めだった。
アクセルラッソーリフトは、最高難度の技だ。本来なら、結成一年目の俺たちが試合で使えるような技ではない。まして一週間前に初めて成功しただけで、ろくに練習もしていないリフトを試合本番の、それも後半で行うなど、まさに自殺行為だ。失敗する確率のほうが高く、失敗すれば大怪我につながる。
高揚感の波が全て引いていくのを感じた。コーチ言葉で、俺は急激に現実に引き戻された。一歩間違えば、彼女の選手生命どころか、凛の生命さえ傷つけたかもしれないのだ。
汗をかいていることを自覚した。さっきまでかいていた暑い汗の下から冷たい汗がにじんでくる。
コーチは理性で怒っているのではない。コーチがこんな風になるのは、長い付き合いの中でも初めてのことだ。それが、ことの重大性を物語っていた。
会場がまるで演技の前のように静まり返る。
「だが……良くやった」
そういってコーチは俺たちの頭に、その暖かい手を載せた。過ぎたことは仕方がない、コーチは口にこそださなかったが、そう思っているはずだ。
トラブルが解決したのを感じた観客は、再び歓声をあげ出した。キスアンドクライに座った三人の頭上に、高得点を望む手拍子が降り注ぐ。
出来ることはした。胸を張って、今日の演技が俺たちの出来る最高、いやそれ以上だったと言い切れる。後は、その運命を受け入れるだけだ。気がつけば、俺は凛の手の上に自分の手を重ねていた。凛もそれを握り返す。
「凛、この一年本当にありがとう」
「うん」
俺たちは頭上の画面を見上げた。そこに、まもなく得点が映し出される。
『君崎凛さん、王寺大輔さんの得点』
運命の得点。その数字がスクリーンに映し出され――
会場は歓声に包まれる。
『現在の順位は――』




