3-11
俺は学校に相談して、しばらくお休みをいただくことにした。学校側も五輪前ということで、快く了承してくれた。ただし、練習時間は増やさない。現実問題、過度の練習は、却って効率が悪いというのが、俺だけでなくコーチの見解でもあったからだ。
スケートだけに集中するために、学校を休む。凜は俺の考えを了承してくれた。彼女の真意はわからないが、たぶん、俺が勉強に打ち込んでいるのが怖かったのだろう。かつて、自分を《捨てて》、勉強に全てをささげた親友のことを思い出してしまうから。だから、俺が《一番大事なのはスケート》なのだと示しさえすれば、彼女は納得したんだと思う。
「ようやくジャンプも安定してきたな」
コーチはこれで一安心といった様子だった。
だが、三日もスケートをしない日々を送った代償は大きかった。特にジャンプの感覚が完全に狂ってしまって、元に戻すのに一週間以上かかった。この計十日弱が俺たちにとって大きなディスアドバンテージなのは間違いない。
けれど、同時に俺たちのユニゾンは今までとは較べられないほど高まっていた。それは、《ブランク》で失ったものよりも遥かに大きい。日に日に、自分たちの演技がよくなっていくのを感じる。まだまだ井上組は遠いけれども、その差は確か縮まっている。
「今のはよかったぞ!」
トリプルアクセル。井上組に勝つための秘策。俺たちはこの数日、このジャンプの練習に重点を置いていた。そして、いまや、数度に一回は成功するようになっている。これからも成功率はどんどん上がっていくだろう。
現実として、井上組に勝つのはかなり難しい、というか不可能に近い。でも……。
「大輔、あれに挑戦してみない?」
「あれ?」
「――」
凛はその技の名前をいった。その名前に胸が高鳴った。至高のエレメンツだからではない。俺にとって、いや俺たちにとって、その技はやらなくてはいけないもののように思えるからだ。
「今なら出来る気がする」
凛はそういうが、もちろん根拠はない。でも……
「やろう」
危険な業。世界最高難度のリフト。
何故か俺たちはそれを成功させる運命にあるように思えた。
「いくよ」
「うん」
胸のうちにあるのは《失敗したら》という心配と《もしかしたら》という期待。
向き合って両手をつなぎ、助走に入る。凛の手をつないだまま、俺は彼女を天に向けて持ち上げた。短い螺旋を描き、そして気がつけば、次の瞬間には凛は氷上に降りていた。
自分がやったという認識は薄かった。驚喜の表情を湛えた凛と向かい会う。
「まさか」
その業が成功したことに、俺たちはただただ驚いた。
「大輔、私たち、勝てるかもしれないよ……ううん勝てるよ、井上組に」
本当はわかってる。井上組との差は歴然。勝てる見込みはほとんどない。でもそう思ったらそれでおしまいだ。
「やれるよ。いや、やろう」
頑張るだけ頑張ってみても損はないじゃないか。頑張ってみれば、奇跡だって起こるかもしれない。




