表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンモアアクセル!  作者: アメカワ・リーチ
ワンモアアクセル! 1 ~トゥーランドットと練習王子~
21/42

3-03

 俺は更衣室のベンチに座り込んだ。むき出しの白熱灯に照らされた室内をぼんやりと眺める。いまだに倦怠感のこびりつく体が、動くことを拒否する。それに反して、脳の動きは活発だった。試合中は何一つ考えられなかったのに、今になって自分の演技が鮮明に思い出される。わずか二分半の演技時間に犯したミスの数々、不甲斐ない自分の姿、そういったものが次々に脳裏を掠めた。

 だが、そんな時間を、外から聞こえてきた声が遮断した。女二人がしゃべっているらしい。

「それにしてももったいないよね」

「ほんとだよね」

 更衣室にはドアがないため、ある程度は外の音が聞こえてくる。その上話している人の声が大きいため、話の内容が丸聞こえだ。特に盗み聞きするつもりもない。自然と会話が耳に入ってくる。

「あれじゃ、さすがに五輪は厳しいよね」

 その単語が、俺のぼんやりとした思考を覚醒させた。そして次の一言が決定打になる。

「もっと経験のあるやつと組めば五輪目指せたのにね」

 二人は明らかに俺たちのことを話してる。演技で欠いた汗が急激に冷えていく。しかし、自分で一度は確信しておきながら、もしかしたら関係ないかもしれない、そんな可能性をまだ探っていた。

 だが、すぐにそんなものはないと分かる。

「君崎さんはトリプルアクセルも跳べるしね」

「協会の中でも反対意見あったらしいじゃん。パートナーは海外の有名選手にすべきだって」

 疑いが確信に代わった。心臓をわしづかみにされたようだ。自分の居場所がなくなり、かといってそこからは動けず、逃げることさえ出来ない。

 やつらがここに入ってきたらどうしよう。出口はひとつしかない。もちろんそこにはやつらが待ち受けている。

 俺は物理的にも精神的にも追い詰められた。ただ、彼女たちのおしゃべりが終わり、ここを立ち去るのを待つ。

「まぁでも君崎さんもさ……」

 ようやく声が遠のいていった。それにつれてだんだんと緊張が和らいでいく。だが身体にはいまだにあの倦怠感が残っている。

 彼女たちの声がまったく聞こえなくなったところで、俺は自分の思考回路が正常ではなかったことを自覚した。彼女たちが男子更衣室に入ってくることなどありえないじゃないか。

 俺は自分を落ち着かせるために深呼吸した。

 それで、少しだけ冷静になったら、徐々に自分の不甲斐なさに対する懺悔が頭に広がっていく。

 五輪という夢。なんとか皮一枚繋がったけれど、俺が危うく壊してしまうところだったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ