01
冷徹な氷が俺のブレードを弾いた。
尻餅の衝撃、遅れてやってくる失敗の認識。次の瞬間、俺は、自分が去年の自分と何一つ変わっていないことを悟った。
前半で失敗したトリプルアクセル。その分を挽回するため、演技後半の冒頭で再び挑んだが、やはり失敗。続けて跳んだトリプルルッツも転倒してしまった。
もはや挽回は不可能。
失意の中、残りの要素をただ消化していく。意識はスケートから解離し、ただ満員の会場を眺めていた。
今自分は観客たちの目にどう映っているだろうか。
哀れな道化?
……いいや違う。
観客たちは俺のことなんてもう見てない。見ているようで見ていないのだ。
何かしらのエレメンツをこなすたび会場からは拍手。だが、それがすばらしい演技に対する賞賛から自然と起こったものではないのは自明だった。
ひたすらに重い身体を何とか引きずっていく。
ジャンプの転倒で予想以上に無駄な時間をロスした結果、ステップに入るのが遅れる。音楽との調和は皆無。空虚な手拍子がより演技の不協和音を際だたせた。
最後のエレメンツ、バタフライからビールマンまで繋げて会場を盛り上げる予定だったスピンコンボは、すべての姿勢が回転不足。
自分でもなにをやっているのかわからないまま、音楽の停止が俺の演技を強制的に終了させた。
会場からはそこそこの拍手が送られている。それといくらかの花束。
腰に手を当て息を整えるも、なかなか動悸が収まらない。今にも倒れ込みたい衝動に駆られたが、なんとか最後の力を振り絞る。俺は形式的に会場に礼をして、リンクを後にした。
余計な言葉は無用とばかりに、神崎コーチはただ俺の肩を軽く叩いて出迎えた。
得点が出るのを待つこの場所。選手たちはコーチと喜びのキスを交わし、あるいは悲しみで涙を流す。だからこの場所はキスアンドクライと呼ばれている。
だが、キスはおろか、泣く気分にさえなれなかった。あるのは虚無感だけ。あまりにもふがいない自分に対する諦めだけだった。
名前がコールされ、画面にリアルな点数が表示される。
技術点を見たところで俺は現実から目をそらした。
『現在の順位は────』
俺はそのコールと同時に観客に手を一回だけ振って、席を立った。




