2-06
練習は俺が学校から帰ってきた後、すぐさま再開された。
ただ滑るだけ。たったそれだけなのに、二人が息を合わせてとなると、途端に困難になる。特に手をつないでいないときは致命的に息が合わない。
リフト? ツイスト? なにそれ。そんなの無理に決まってるじゃん。今の調子でいったら、リフトができるようになるのはいつの話か。
物事を始める前特有の《何とかなる》という甘い見込みは、現実を前に簡単に打ち砕かれた。
「まぁ、最低でも一ヶ月はお互いの息を合わせることに費やされるだろうな」
コーチは平然とそういってのけた。
俺の考えはかなり甘かったといえる。スケーティングが似ているから、きっと息もバッチリだろう。俺は心の中でそう思っていた。
とんでもない話だ。確かに俺たちの技は似ている。ソロジャンプやソロスピン、ステップなど、二人が同じ技をするエレメンツを練習するに当たって、お互いに大きな修正をしなくても良いというのが、大きなアドバンテージになるのは間違いない。
だが、同じ技が出来るだけではユニゾンとは呼べない。それが、同じタイミングで行えなければならないのだから。同じ技を同じタイミングで、それはペアの大原則だ。
「まぁ、焦る必要は無いぞ。お前たちは相性が良いほうだだしな。それに、どうせ大輔の筋肉がつくまでは、リフトやツイストは無理だ。だから最初の三ヶ月は徹底的に基礎を作る期間に当てる」
ペア結成一年目。それも二人ともペア初心者。そして目標は五輪出場。ハードルが高過ぎるのは俺もよく分かっている。並大抵の努力ではそれを成し遂げることは出来ない。
だが、シングルの練習とはまったく違う練習、そして緊張感。いつもの何倍もの疲れを感じた。
「じゃぁ、そろそろ切り上げようか」
俺は息を整えながら、凛に提案した。俺はこの時、一日良く練習したなという少しの満足感を得ていた。慣れるまでは疲れるものだから、徐々に練習を増やしていけば良い、そんな風に思っていた。そう、俺はこれで十分だと思っていたのだ。
だが、彼女は違った。
「あとリンクが締まるまであと一時間あるじゃない。せめてあと三十分やりましょう」
そういう彼女の顔に、疲れは一切見えなかった。




