2-04
君崎凛&王寺俺組、カップル結成。
二人のホームリンクは、千葉クリスタルFSC。俺にとっては通い慣れたリンクで、二人たちの〝新しい〟練習拠点だ。
日本のペア層は極端に薄い。その実体はこう揶揄される。《男女が組めば誰でも優勝できる》。そして、それは誇張でもなんでもない。
去年の全日本選手権にエントリーしたカップルはわずかに一組。その一組は十六歳の双子姉弟カップル、井上夢&井上優組なのだが、彼女たちがカップルを結成するまで、なんと三年もの間、日本にはカップルが一組もいなかったのだ。
選手層の薄さは、すなわちペアを指導できるコーチの少なさも意味する。つまり選択肢は多くはない。そしてその少ない選択の一つが、俺のコーチである千葉クリスタルの神崎コーチに師事することだ。神崎コーチは、自身がペアの選手だったこともあり、国内ではほぼ唯一のペアを教えることができるコーチだ。
元々東京のリンク所属だった凛が、千葉に来ることになったのは自然な流れともいえる。
とはいえ、千葉市から東京の彼女の自宅までは結構距離がある。自宅から通うとなると、往復三時間──。一流選手である凛にとって、そしてペア結成一年で五輪を目指す二人にとって、それはあまりに大きな負担と時間の浪費だった。
さて、どうするか──。
だが、
「私が千葉に引っ越せばいいわ。高校も、君と同じ学校に転校する」
なんの迷いもなく、彼女はそういいきった。俺はその迷いのなさ驚いた。家族と、友達と、あるいは恋人と──緒にいたいとかそういう思いはないのだろうか。
だが彼女の毅然とした態度とその決意を前に、大輔が口を挟む余地はなかった。
「スケート以外に優先するものなんてない」
凛は冷たく言い放った。そして、彼女の“熱意”それだけでは終わらなかった。
さすがに結成、はい引っ越しとはいかないので、しばらくは自宅から通う、あるいは自主練習……ってな具合だとてっきり思っていた。 だが、それは甘い考えだった。
彼女は言う。
「五輪まで後一年しかない。時間を無駄にはできない。私はホテルに泊まるから、明日も朝から練習」
さすがにこの徹底ぶりには、俺も驚いた。練習に対して、彼は比較的真摯に取り組んできたつもりだった。だが彼女の“熱意”を前にすると、俺の努力など霞んでしまう。
聞けば、彼女の一日の練習時間は少なくとも八時間にも及ぶらしい。俺の倍近い。才能にあふれたシンデレラ──その世間の、そして彼の中イメージがいかに間違っているか、それをいきなり認識させられた。
ここにきて、俺の不安はさらに増した。一流選手である彼女についていけるか、最初から不安だったが、それは自分の技術や本番に弱いところが彼女の足を引っ張らないかというものだった。
しかしここに来て、彼女のストイックさについて行けるかという新たな不安が生まれたのだ。




