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竜と一緒に森の中で暮らすこども

作者: 有梨束
掲載日:2026/06/10

『なんだ?人間か?』

目の前に大きな大きな赤い竜が現れて、鮮やかで、かっこよかった。


吐く息が湿っていて、温かかった。



森の中を彷徨い歩いていたら、ぽっかりあいた場所に出たからそこへ駆け寄ったら、竜が顔を出した。


竜の住処だったらしい。


『どうした人間、こんなところまで来るなんて』

喋りかけているのが竜だと気づくのに、時間がかかった。


「こんにちは」

『はい、こんにちは』

「竜さんが、しゃべっているの、ですか?」

『そうだぞ。そんなことより、よくこんなところまで辿り着けたな?』


竜は金色のキラキラの目を細めて、じーっと見てくる。


赤い鱗も、金色の目も、全部が綺麗だった。


「わかんない。歩いてたらここに来てたの」

『ほう。じゃあ、お前さんは森の子かもしれねえなぁ』

「もりのこ?」

首を傾げると、竜はガバガバ笑った。

息がかかってくすぐったかった。


『森に好かれる人間のことさ。ここに来るまで怪我もなさそうだし、獣に襲われでもしたか?』


そう言われると、そんなことはなかったので首を振った。


『人間のこどもの足では、半年以上は歩き回ったのではないか?それなのに無事なんだから、相当好かれているんだろう』

「うさぎさんとリスさんが食べ物を分けてくれたよ」

『そりゃあまた随分気に入られてるじゃねえか』

「あとクマさんが一緒に寝てくれた。あったかかった」

『ギャハハッ、普通はそこで食われちまうんだよっ!』

竜は愉快そうに声を上げて笑うと、するりと顔を近づけてきて、鼻先が触れ合った。


『森が認めたのなら、お前もうちの森の子だ。名前はなんだ?』

「メム」

『よし、メム。今日から我が一緒にいてやろう。ここまでよう頑張ったな』

「よくわかんないまま、歩いてきただけだよ?」

『ギャハハッ、そいつはいいなあ!』


竜がなんで笑っているかわからなかったけど、楽しそうでうれしかった。


あと、久々に言葉で返事が返ってきたのも、うれしかった。



その日から、竜の住んでいる洞穴に住まわせてもらえることになった。


森の中をひたすら歩いていた時と違って、雨風を凌げるのはすごくよかった。


「竜さんは、食べ物はいらないの?」

『我はなんでも食べられるし、何もいらないんだよ。霧や霞でも腹は膨れる』

「よくわかんない」

『そうだな。だが、メムは食べるものがいるな。何が食いたい?』

「お腹が膨れるもの」

『お前さんとは気が合いそうだ』


それから竜は、近場で食料になりそうなきのこや木の実を教えてくれた。


『ここでは自分のこと自分でやらんといけん。腹が減ったら、自分で探しておいで』

「うん、わかった」


時々、うさぎやリスが食料を分けてくれた。

だからお返しに竜に教えてもらった場所を教えたりした。


『そろそろ飛ばないと鈍ってしまうな。メム、一緒に空まで行くか?』


そう言って、背中に乗せて飛んでくれたこともあった。


「竜さん、目立っちゃわないの?」

『普通の人間は、竜は認識できないんだよ』

「??」

『我は架空の存在ということになっているからな。架空だと思っている人間の目には映らんのだよ』

「メムには見えているよ?」

『お前さんは森の子だからなぁ』


竜の背中は温かくて、風がビュービューだった。


「こんなに綺麗なのに、誰にも見えないのはさみしいね」

『ふふん、メムに見えているからいいではないか』


竜はケタケタと笑うだけだった。



それから、寝る時はいつも竜がそばにいてくれた。


『ほれ、メム。くっついたら寒くないぞ』

「竜さん、寒いの?」

『我ではなく、お前さんだよ」


竜は尻尾を巻き付けるように、体を囲ってくれる。

それが今までで一番安心して、いつもぐっすり眠れた。


『よくお眠り、メム』

夢の中で聞こえる竜の声は、いつも優しかった。



ある日、クマがのそのそと竜の洞穴までやってきた。

あまりにも動きがゆっくりで、様子がおかしかった。


「クマさん、どうしたの?」

『寿命だろうな』

普段より冷たい竜の声に、少しだけ体がぶるりと震えた。


「じゅみょうって、なあに?」

『生きる時間の終わりを迎えるということだ』

「クマさん、死んじゃうの?」

『そうだな。きっと最期にお前さんに挨拶にでも来たんだろう』

「前に一緒に寝てくれてクマさんだから?」

『そうだろうな、お前さんとても気に入られているらしいな』


そう言って、クマは目を閉じて、どしんと音を立てて倒れた。


森が一瞬騒がしくなって、それからとても静かになった。

他の動物たちも見に来て、草むらの向こうからこちらの様子を伺っている。


『メム』


竜の柔らかいのに固いみたいな不思議な声音で、名前を呼ばれた。


クマから竜に目線を移して、頷いた。


『そのクマ、お前さんが食べてやんな』

「…怒られない?」

『怒らないさ。その代わり、綺麗に処理してやんな。あと、他の動物たちにも分けておやり』

「わかった。やり方わからないから、教えてくれる?」

『ああ、もちろんだよ』


竜は丁寧にクマの解体の仕方を教えてくれた。

慣れない手つきで、一生懸命作業した。


「骨は、埋めてあげてもいい?」

『何かに使えるかもしれないから取っておいてもいいぞ』

「うーん、ありがとうって言いたいから、お墓つくる」

『そうか。じゃあ、そうしてやれ』

「うん」


肉は焼いたり干したり、肉食動物たちに分けたりして、たくさんの食料となった。

竜の洞穴に置かせてもらえたので、干し肉がいっぱいでしばらくご飯に困らなそう。


『メム。毛皮は川で洗って干しておきな』

「何かに使うの?」

『お前さんがもう少し大きくなった時に、服を作るといい』

「メム、大きくなるかな?」

『クマを食べて育つんだ。大きくなるよ』

「わかった」


クマの肉を焼いて、お腹がいっぱいになるまで食べた。


その日はクマの毛皮を敷いて、その上で眠った。


次の日もまた、干し肉の作業をした。


『すっかり手慣れたな』

「メム、もりのこだからね」

『はははっ、そうだな。メムはうちの森の子だ』

ピカピカの赤い鱗に、金色のキラキラの目が、優しく見守っている。


竜との暮らしは、今日も続いていく。


「竜さんも、いつか死んじゃう?」

『安心せい。お前さんよりはずっと長生きだよ』

「ならいいや」


枝に肉をブッ刺して、木と木の間に風が通るように並べていく。


「竜さん、メムここに来られてよかった。たのしい」

『そうかい』

「うん!」








お読みくださりありがとうございました!!

毎日投稿161日目。

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