竜と一緒に森の中で暮らすこども
『なんだ?人間か?』
目の前に大きな大きな赤い竜が現れて、鮮やかで、かっこよかった。
吐く息が湿っていて、温かかった。
森の中を彷徨い歩いていたら、ぽっかりあいた場所に出たからそこへ駆け寄ったら、竜が顔を出した。
竜の住処だったらしい。
『どうした人間、こんなところまで来るなんて』
喋りかけているのが竜だと気づくのに、時間がかかった。
「こんにちは」
『はい、こんにちは』
「竜さんが、しゃべっているの、ですか?」
『そうだぞ。そんなことより、よくこんなところまで辿り着けたな?』
竜は金色のキラキラの目を細めて、じーっと見てくる。
赤い鱗も、金色の目も、全部が綺麗だった。
「わかんない。歩いてたらここに来てたの」
『ほう。じゃあ、お前さんは森の子かもしれねえなぁ』
「もりのこ?」
首を傾げると、竜はガバガバ笑った。
息がかかってくすぐったかった。
『森に好かれる人間のことさ。ここに来るまで怪我もなさそうだし、獣に襲われでもしたか?』
そう言われると、そんなことはなかったので首を振った。
『人間のこどもの足では、半年以上は歩き回ったのではないか?それなのに無事なんだから、相当好かれているんだろう』
「うさぎさんとリスさんが食べ物を分けてくれたよ」
『そりゃあまた随分気に入られてるじゃねえか』
「あとクマさんが一緒に寝てくれた。あったかかった」
『ギャハハッ、普通はそこで食われちまうんだよっ!』
竜は愉快そうに声を上げて笑うと、するりと顔を近づけてきて、鼻先が触れ合った。
『森が認めたのなら、お前もうちの森の子だ。名前はなんだ?』
「メム」
『よし、メム。今日から我が一緒にいてやろう。ここまでよう頑張ったな』
「よくわかんないまま、歩いてきただけだよ?」
『ギャハハッ、そいつはいいなあ!』
竜がなんで笑っているかわからなかったけど、楽しそうでうれしかった。
あと、久々に言葉で返事が返ってきたのも、うれしかった。
その日から、竜の住んでいる洞穴に住まわせてもらえることになった。
森の中をひたすら歩いていた時と違って、雨風を凌げるのはすごくよかった。
「竜さんは、食べ物はいらないの?」
『我はなんでも食べられるし、何もいらないんだよ。霧や霞でも腹は膨れる』
「よくわかんない」
『そうだな。だが、メムは食べるものがいるな。何が食いたい?』
「お腹が膨れるもの」
『お前さんとは気が合いそうだ』
それから竜は、近場で食料になりそうなきのこや木の実を教えてくれた。
『ここでは自分のこと自分でやらんといけん。腹が減ったら、自分で探しておいで』
「うん、わかった」
時々、うさぎやリスが食料を分けてくれた。
だからお返しに竜に教えてもらった場所を教えたりした。
『そろそろ飛ばないと鈍ってしまうな。メム、一緒に空まで行くか?』
そう言って、背中に乗せて飛んでくれたこともあった。
「竜さん、目立っちゃわないの?」
『普通の人間は、竜は認識できないんだよ』
「??」
『我は架空の存在ということになっているからな。架空だと思っている人間の目には映らんのだよ』
「メムには見えているよ?」
『お前さんは森の子だからなぁ』
竜の背中は温かくて、風がビュービューだった。
「こんなに綺麗なのに、誰にも見えないのはさみしいね」
『ふふん、メムに見えているからいいではないか』
竜はケタケタと笑うだけだった。
それから、寝る時はいつも竜がそばにいてくれた。
『ほれ、メム。くっついたら寒くないぞ』
「竜さん、寒いの?」
『我ではなく、お前さんだよ」
竜は尻尾を巻き付けるように、体を囲ってくれる。
それが今までで一番安心して、いつもぐっすり眠れた。
『よくお眠り、メム』
夢の中で聞こえる竜の声は、いつも優しかった。
ある日、クマがのそのそと竜の洞穴までやってきた。
あまりにも動きがゆっくりで、様子がおかしかった。
「クマさん、どうしたの?」
『寿命だろうな』
普段より冷たい竜の声に、少しだけ体がぶるりと震えた。
「じゅみょうって、なあに?」
『生きる時間の終わりを迎えるということだ』
「クマさん、死んじゃうの?」
『そうだな。きっと最期にお前さんに挨拶にでも来たんだろう』
「前に一緒に寝てくれてクマさんだから?」
『そうだろうな、お前さんとても気に入られているらしいな』
そう言って、クマは目を閉じて、どしんと音を立てて倒れた。
森が一瞬騒がしくなって、それからとても静かになった。
他の動物たちも見に来て、草むらの向こうからこちらの様子を伺っている。
『メム』
竜の柔らかいのに固いみたいな不思議な声音で、名前を呼ばれた。
クマから竜に目線を移して、頷いた。
『そのクマ、お前さんが食べてやんな』
「…怒られない?」
『怒らないさ。その代わり、綺麗に処理してやんな。あと、他の動物たちにも分けておやり』
「わかった。やり方わからないから、教えてくれる?」
『ああ、もちろんだよ』
竜は丁寧にクマの解体の仕方を教えてくれた。
慣れない手つきで、一生懸命作業した。
「骨は、埋めてあげてもいい?」
『何かに使えるかもしれないから取っておいてもいいぞ』
「うーん、ありがとうって言いたいから、お墓つくる」
『そうか。じゃあ、そうしてやれ』
「うん」
肉は焼いたり干したり、肉食動物たちに分けたりして、たくさんの食料となった。
竜の洞穴に置かせてもらえたので、干し肉がいっぱいでしばらくご飯に困らなそう。
『メム。毛皮は川で洗って干しておきな』
「何かに使うの?」
『お前さんがもう少し大きくなった時に、服を作るといい』
「メム、大きくなるかな?」
『クマを食べて育つんだ。大きくなるよ』
「わかった」
クマの肉を焼いて、お腹がいっぱいになるまで食べた。
その日はクマの毛皮を敷いて、その上で眠った。
次の日もまた、干し肉の作業をした。
『すっかり手慣れたな』
「メム、もりのこだからね」
『はははっ、そうだな。メムはうちの森の子だ』
ピカピカの赤い鱗に、金色のキラキラの目が、優しく見守っている。
竜との暮らしは、今日も続いていく。
「竜さんも、いつか死んじゃう?」
『安心せい。お前さんよりはずっと長生きだよ』
「ならいいや」
枝に肉をブッ刺して、木と木の間に風が通るように並べていく。
「竜さん、メムここに来られてよかった。たのしい」
『そうかい』
「うん!」
了
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