表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/88

第75話 リラは、少し不満でいた。

 広間の端に移動すると、リラの様子が変わった。

 令嬢らしい穏やかな微笑みが消え、いつもの執務室で見る堅物な軍人の顔になった。


「…………それで、どういうわけなのですか?」

「お、おお? リラ、な、なんか怒ってないか?」

「怒っていません!」


 怒っている。明らかに怒っているじゃん!

 声の調子がいつもより強いし、肩をいからしているし。

 しかし、それを指摘してはいけないことを、僕は妹とフェリシアで学んでいた。


「ただ、なんでフェリシアさんが、ユキト様のパートナーとして、ここにいるのか理由を教えてください!」


 それは質問というより、尋問に近い。

 周囲の貴族たちがこちらをちらりと見ているのがわかる。小声だけど、もっと声を抑えて欲しい。


「えっと。今日の夜会は断るわけにはいかなくてね。パートナーが必要だったから、フェリシアに頼んだんだ」

「それでしたら、私に言ってもらっても良かったのに……その……部下として! そう、ユキト様は師団長で、私が副官なんですよ? もっと頼ってください!」


 リラの声が、心なしか上ずっている。宴会の熱気にやられたのだろうか?


「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、リラはオルディス様のパートナーの代理という役目があったんだろ?」

「そ、それはそうでしたけど……」


 言葉を詰まらせたリラに、フェリシアが静かに歩み寄った。


「リラ様、先ほどはご無礼をいたしました」


 深々と頭を下げる。

 その動作は、本物の外交使節が謝罪するときのように丁寧だった。


「べ、別に謝るようなことじゃないわ!」

「では、ありがとうございました。とっさにこちらと話を合わせていただけたおかげで、周りにいた方々にも、私の演技がバレずにすみました」


 リラはわずかに戸惑った後、ふっと息を吐いた。


「感謝ならば、受け取っておきます。けど、海を見せたいと思ったのは本当よ。いつかミーナちゃんも連れて、私の実家に遊びにいらして……その、良ければユキト様も一緒に」

「そうだね。厄介ごとが一段落したら、それもいいかもしれないね」


 僕がそう答えると、リラの肩から力が抜けたのがわかった。

 だが、すぐになにかに気づいて視線を逸らす。


「おお、リラ……こんな所にいたのか!」


 堂々とした男の声が、背後から響いた。

 振り返ると、壮年の男性がこちらに歩いてくる。白髪交じりの髪をきっちりと撫で付け、堂々とした足取りで近付いてくる。


「あ、お父様……」

「おや?」

「オルディス様、ご無沙汰をしております」


 リラが居住まいを正し、僕はお辞儀をする。

 オルディス・アスター公爵。王国東方の大領地を治める実力者であり、リラの父親だ。


「おお、ユキト殿と一緒だったのかっ。いやいや、お互い忙しいからな。会うのは二ヶ月前の会議振りだな。俺の娘の仕事振りはどうだ?」


 両腕を広げながら訊いてきた。

 堅苦しい挨拶を好まないのは、この公爵というには合わないが、人としては魅力的な性質だろう。


「お蔭様で、お嬢様がいなくては、僕の仕事は始まらず終わりを迎えられません」

「はっはっは、そうかそうか。リラはちょいと色気が足りないかもしれんが、その分、俺よりもずっと真面目で賢いからな」


 リラが恥ずかしそうに顔を伏せた。

 父親に褒められるのが照れくさいのだろう。


「そんなご謙遜(けんそん)を。お嬢様はまさに才色兼備、我が軍の麗しい花ですよ。と言っても三人だけの小さな軍ですけどね」


 僕がそう言うと、リラが恥ずかしそうにうつむいた。ちょっと楽しい。

 オルディスさんーー以前、そう呼ぶように言われたーーは満足げにうなずいている。


「ところで、何故こんな所にいるんだ?」


 公爵の声のトーンが、わずかに変わった。

 先ほどまでの陽気な雰囲気が消え、鋭い眼光が僕を射抜く。


「さて、僕も招待主に直接問いたい気分です」


 正直に答えた。

 わざわざ大公からの招待をされたのは、なにかしらの意図があってだろう。


「気を抜くなよ」


 低い声で釘を刺された。もちろんだ。


「それと、この夜会が終わったら近いうちに俺の屋敷に来い……」

「ええと……」

「レオンからな、事情は伝えてもらった。水臭いじゃないか、俺にも協力させろや」


 オルディスさんは、ニヤリと口の端を上げた。

 その笑みには、単なる好意ではなく、腹に一物ありそうなちょい悪オヤジの気配が漂う。

 レオン様からどこまでを聞いたのかはわからないが、味方が増えるのは助かる。


「……ありがとうございます」


 僕は深く頭を下げ、オルディスさんに敬意を表した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ