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第67話 ユキトは、難題から逃避していた。

 翌日の昼食。

 食堂のテーブルには、見慣れない料理が並んでいた。

 いや、料理と呼んでいいのかどうか。かろうじて肉と野菜を煮込んだらしいと判断できるだけのもの。

 色合いは茶色と灰色の中間で、ところどころに緑色のかたまりが浮いている。


「…………」

「…………」

「うわぁ……」


 僕とフェリシアとミーナの三人が、テーブルを囲んで沈黙していた。

 料理を作った張本人であるベラシアは、腕を組んで自信満々に胸を張っている。


「……ベラシアがこの料理? を?」


 僕は恐る恐る確認した。料理かどうか定かではないが、状況から冷静に判断すれば、料理と言わざるを得ない。


「ええ、ご主人様が、ベラシアさんの家事の腕前をたいとおっしゃるので……」


 フェリシアが淡々と答える。

 確かに昨日、メイドとして雇うなら一通りの仕事ができるか確認したいと言った覚えはある。けれど、まさかこんな物を見せられる羽目になるとは。


「アタシが腕を振るったんだ。ほら、たんと食え」


 ベラシアは偉そうに言ってくるが……僕は恨まれているのか?

 いや、漆黒の瞳が輝いている。自分の料理に自信があるらしい。


「なかなか、野趣やしゅあふれる料理だよね」


 精一杯の表現を選んでみた、スプーンを手に取ったが、スープ?の皿に入れる勇気が出ない!


「ご主人様、とりあえず……毒物は使われていませんので、ご安心を」

「毒物って何だよ! 毒物って!! そんな高価なもん使うかっ!!」


 ベラシアが叫ぶ。

 ん? 高価じゃなかったら毒物を入れられていたのか?


「み、見た目はちょっと悪いかもしれないけど……そこまでは僕も考えてなかったよ? うん、毒を食べても魔術で解毒できるし?」


 フォローになっていない。自分でもわかっている。


「なんか、変な匂いもするよー?」


 ミーナが猫耳をぺたんと伏せながらつぶやいた。

 確かに。甘くて酸っぱくて香ばしいような、形容しがたい香りが漂っている。せっかく意識しないようにしていたのに。


「オマエも黙って食えや」


 本日の料理長の声に、僕は覚悟を決めた。

 スプーンで濁った茶色の粘液をすくう。せめてもの抵抗として肉らしきものを一緒に持ち上げた。


「よし…………」


 口に運ぶ。

 ミーナが息を呑む気配がした。


「わっ! 食べたっ!」

「……あれ?」

「だ、大丈夫っ!? ご主人さま!?」


 ミーナが慌てている。

 フェリシアは静かに僕の様子を観察していた。


「ミーナちゃん、安心して……見た目と匂いはアレだけど……」

「……少し甘酸っぱくて苦味もあって、不思議な味だけど、不味まずいか美味おいしいかで言われれば、やや美味しい……」


 驚いた。

 見た目からは想像できない味わいが口の中に広がっている。複雑で、どこか懐かしいような風味。


「ふんっ、料理くらいできるんだよ」


 ベラシアが鼻を鳴らす。


「いや、これを料理って言うには、コックさんに申し訳ないというか……」


 もぐもぐと肉を噛み締めながら、僕は正直な感想を述べた。


「ご主人さま、美味しいの?」

「不思議と食べられる味になってる……」

「それがご主人様、慣れてくるとたまに食べたくなる味になります」


 フェリシアが補足する。慣れが必要なのか。必要だな。

 彼女は以前にもベラシアの料理を食べたことがあったので、結果を知っていたのだろう。先に聞けばよかったか。


「あー、確かにこの味は変にクセになるかもしれない」


 僕はスプーンを動かし続けた。

 一口目の衝撃を乗り越えると、妙に後を引く味わいだ。


「問題は、ベラシアさんが料理をすると、大体この味になってしまうのです」

「……なんでだよ!!」


 思わず叫んでしまった。

 フェリシアは無表情のまま、小さく肩をすくめる。ベラシアは腕を組んだまま、得意げにふんぞり返っていた。


 どうやら、我が家の食卓には、ときどき刺激的な料理が並ぶことになりそうだ。

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