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インタールード 主従1

「愚かな戦争が始まるわね」


 報告書を読み終わった。メイベル・ダンダリアス皇女は短く呟いた。

 彼女の机上には、帝国内の各地にいる部下からの報告書の束。長兄皇子派と次兄皇子派、両陣営の動きを記した情報が積み上がっている。どちらも威勢だけは良いが、中身はわがままな子どもと変わらない。


「ええ、仰るとおり」


 執務室の隅に控えるクロイツ・ピヌス卿が、静かに応じる。


「結局の所、愚かな兄たちによる愚かな兄弟喧嘩じゃない」

「この国は……闘争の連続によって統一された歴史があります」

「今更、建国史を学び直す気はないわよ。二十五年前にお父様が初代皇帝になりましたで終わる話」


 メイベルは報告書をもう一枚手に取り、内容を流し読みした。

 戦力の分布図、兄弟たちに付き従う派閥のリスト、それぞれの思惑。どれもこれも、彼女の気分をゆううつにさせる。


「結局、この国は、侵略と制圧によって成長してきた……と言うことです」

「七年前の戦争は、初めての国外への侵略戦争とはいえ、勝てる戦争だった」


 言葉を区切って、メイベルは紫の瞳をクロイツへ向けた。


「ええ、たったひとりの魔術師に戦況を覆されるまでは」


 クロイツの表情は変わらない。だが、その声音には苦い色があった。


「ワタクシは、惨敗兵を見て気付いたわ。この国は根本的に破滅に向かっている、と」

「メイベル様……」

「ワタクシは、この戦争は良い機会だと思っているわ。付いて来てくれるわね」


 問いかける形だが、答えは決まっている。

 クロイツは迷わず、膝をついて頭を垂れた。


「貴女様の御心にままに」


 忠誠の言葉に、メイベルは満足げに口元を緩ませる。

 だがすぐに、いつもの高慢な表情に戻った。


「ところで……訊いてもいいかしら」

「はい?」

「いつになったら、ワタクシはアナタの物になるのかしら?」


 唐突な問いに、クロイツの肩がわずかに強張る。


「俺はメイベル様に終生の忠誠を誓っておりますが」

「アナタがワタクシの物じゃなくて、逆よ……なんで襲い掛かってくれないの?」

「お戯れを、メイベル様と俺では年の差があります。それに俺は、メイベル様が乳飲み子である頃から知っているんですよ。良くて妹としてしか見れません」


 困惑の色を滲ませたクロイツに対し、メイベルは不満そうに眉をひそめた。


「八歳差なんて問題ないじゃない。お父様の新しい側室は、私よりもふたつも年下らしいわよ」

「皇帝様には、その血筋を残す使命がありますから」

「そうね。ワタクシの血を残すために、アナタの血が欲しいって言ってるのよ」


 クロイツは答えない。

 沈黙が執務室を満たす。


「アナタの初恋は、ワタクシのお母様だって、ほんと? なら、ワタクシがアナタの好みから外れているってわけじゃないんでしょ?」

「っ!? あまり、メイドたちの噂話を信じませんように」


 動揺したクロイツの反応を見て、メイベルは愉快そうに笑った。


「あら、時として女の噂話もバカにならなくてよ」


 答えのない問答に、答えを求めない言葉。

 ふたりの会話は、まだしばらく続きそうだった。

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