表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/88

第38話 フェリシアさんが、起きて待っていた。

 玄関の扉を開けると、フェリシアが立っていた。

 いつものメイド服姿で、手には小さな燭台を持っている。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「あ、まだ起きてたんだ……先に休んでいてよかったのに」


 いつもと比べて、だいぶ遅い帰宅だった。こんな時間まで待っていてくれたのか。


「『べ、別にご主人様のために起きていたんじゃないんだからねっ!』」


 突然、フェリシアが奇妙なことを言い出した。


「うぇい?」


 僕の口からも変な声が出た。


「『勘違いしないでよね。私はご主人様のことなんて、好きじゃないもんっ!』」


 フェリシアは無表情のまま、芝居がかったセリフを続ける。

 いつもの淡々とした声で、まったく感情がこもっていない。抑揚のない棒読みが、どこか異様な迫力を生み出していた。


「…………」


 これは、いったい何が始まったのか。あれ、僕、なにかやっちゃいました?


「ふぅ、ご主人様も思わず魅入ってしまう迫真の演技だったようですね。イチコロですか?」

「……呆気に取られたんだよ!!」


 魅入ってなんかいない。ただ困惑があっただけだった。


「ちっ、ガセネタを掴まされましたか」


 舌打ちをした。うちのメイドの態度が悪い!


「というか、どんなネタだったんだか」

「ご主人様は『表面的につれない態度で迫ればイチコロだねぇ』と、演技指導も頂きました」


 黒幕が誰か判明した。師匠だ。あの人は、いったいフェリシアに何を吹き込んだの?


「演技指導した人はわかったけど……フェリシアは何がやりたかったの?」

「ご主人様をイチコロにして手玉に取る悪女になるためのステップ1?」


 疑問形なんだ。自分でもわかっていないのか。


「なんで疑問形なのかは置いといて、ステップ2は実践しないように!!」

「ええ、ステップ2の担当はミーナちゃんらしいので」


 僕の顔から血の気が引いた。


「ミーナに何を仕込んだっ!?」

「ご主人様、私はご主人様の自制心を信じております」


 澄ました声で言われた。


「え、なにそれ、自制心が必要なの!? あ、酔いが急に醒めてきた」


 嫌な予感しかしない。というか、自制心が必要な状況って何だ。背筋に冷たいものが走る。


「ヒントは『お風呂場でドッキドキ大作戦』とだけ、具体的な内容については秘密です」

「いや、もう、なんか、グレーゾーンどころじゃなくない!?」


 お風呂場。ドッキドキ。ミーナ。組み合わせが最悪すぎる。


「ええ、エッチなのはいけません」

「だったら止めようよ!!」


 僕の叫びに、フェリシアは首を横に振った。


「私にヴェルナさんとミーナちゃんのタッグを止められるでしょうか? いや、無理です」

「反語法を使ってまで否定しなくても、いや、僕も無理っぽいなぁ」


 師匠とミーナの組み合わせ。確かに、止められる気がしない。片方だけならなんとかなりそうだけど、ふたりが組んだときの爆発力みたいなものが想像つかない。


「でしょう?」

「なんか君がそんなに満足げな顔をしているのか、とっても問い詰めたい気分だよ」


 フェリシアの口元が、ほんの少し緩んでいた。

 無表情のくせに、どこか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 ……たぶん、気のせいじゃない。燭台の炎が、彼女の横顔を揺らめかせている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ