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第35話 僕が、問い詰められていた。

「それじゃあ、かんぱーい♪」


 師匠がカップを高々と掲げた。そのまま、一気に葡萄酒(ワイン)を飲み干す。


「乾杯ー……」


 僕は、ちびりとカップに口をつけた。


「乾杯ー……」


 ガルムも、おそるおそる飲んでいる。

 王都の酒場。ガルムの行きつけだという店は、庶民的な雰囲気だが、酒の品揃えは悪くなかった。

 木製のテーブルには長年の日々でできた傷や染みが刻まれ、壁に掛けられたランプの灯りが店内を暖かく照らしている。


「あー、この一杯のために長生きしてるねぇ」


 師匠が、満足そうに空になったカップを机に置き、テーブルの上の揚げ物をひょいとつまんで口に放り込む。

 ガルムがすぐさま新しい酒を注ぐ。


「ん、この揚げ物も美味いねぇ」

「それで師匠、僕たちは何のために呼ばれたのでしょうか?」


 僕は、逃げずに最初から切り込んだ。


「久しぶりに愛しい弟子とのこういう場所での語らいを楽しみにだねぇ」

「でしたら、わざわざ王宮まで来る必要はなかったかと……」

「抜き打ち視察ってのは、事前に知らせるもんじゃないんだよ」


 師匠が、嬉しそうに酒を飲みながら指を突きつけてくる。


「何を視察するつもりだったんですか!?」


 ガルムが、声を上げた。


「まぁまぁ、とりあえずアンタに聞きたいことがあるんだけどいいかい?」


 師匠が、僕の方に視線を向けてきた。


「ええ、なんでしょう?」

「誰を嫁さんにする気なんだい?」

「……はぃ?」


 間抜けな声が出てしまった。


「きちんと責任は取りなよ。避妊してればいいってもんじゃないからねぇ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 何の話ですかっ!?」

「恋バナ?」


 師匠が、可愛らしく首をかしげた。外面だけ見ればとても似合っている。


「可愛く言っても似合いませんから、師匠!! 大体誰を嫁ですか!」

「フェリシアは夫を立てるいい奥方になりそうだねぇ」


 師匠が、指を折りながら数え始めた。


「ミーナは元気な子を生みそうだ。もちろん異種族婚は難しいかもしれないけど、そこは愛で乗り切れ。あと、さっき王宮で見た娘も満更じゃなさそうじゃないかい?」


 師匠の目がキラリと光る。


「不誠実なのは、アタシが許さないよ」


 師匠の横でガルムが、顔をしかめている。そういえば、師匠はこういう方だった……男女関係に潔癖なところがあり、妙なところで世話焼き気質なのだ。

 昔から変わらない。弟子の私生活にも遠慮なく踏み込んでくる。ありがたいような、迷惑なような。……審査の結果、迷惑の方が勝った。


「まず断っておきますけど、フェリシアたちはあくまで使用人で、恋人でも愛人でもありません! それに王宮で見た娘って、リラのことですか? あくまで大事な副官ですよ、彼女は!」


 彼女たちがこの場にいなくて良かった……絶対ややこしいことになっていた。


「それでもアタシの弟子なのかねぇ」


 元祖夜会の華さんが、呆れたように首を左右に振る。

 横に突き出したカップに、ガルムが新しい酒を注ぐ。それ、何杯目だっけ?


「アンタほどの家禄(かねもち)なら、いっそ『三人とも幸せにしてみせる』くらいは言うもんだよ?」

「言いませんっ!! それに、今は恋愛とかする余裕はありませんから!」

「まだまだ青いねぇ……恋愛は"する"もんじゃない、"している"もんさ」


 師匠はまたカップを口に運ぶ。


「うっ……」


 僕の返事を待たずに、そのまま師匠はガルムを相手に絡みだす。

 師匠の言葉が、どこか妙に心に残った。僕はカップの中に残っている葡萄酒を見つめる。

 酒場のざわめきがする中、僕は古い記憶を思い返していた。

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