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第31話 女三人で、語っていた。

「ヴェルナ様、本日のお昼はいかがなさいますか?」


 翌日の昼前、フェリシアがソファで何やら書き物をしていたヴェルナに声をかけた。

 ユキトは仕事で出かけており、屋敷には女性陣だけが残っている。


「アンタに任せてもいいかねぇ?」

「かしこまりました。では、その様にいたします」

「うーん、なんか堅苦しいねぇ。お客様扱いなのはわかるけどさ」


 ヴェルナがなんとも言えない顔をした。杖を持つ手が、所在なさげに膝の上で動いている。


「ご主人様から、ご主人様と同じように扱って欲しいと言いつかっておりますので」


 フェリシアは、いつもの無表情で答えた。


「もう少し砕けた口調でさ、呼び方も『ヴェルナさん』くらいにならないかい?」

「……その方がよろしいのでしょうか?」


 フェリシアの長い耳が、わずかに傾いた。困惑しているのだろう。


「うんうん、お客様かもしれないけど、もうちょいと親近感が欲しいねぇ」

「…………」


 フェリシアが、珍しく言葉に詰まった。メイドとしての矜持と、客の要望との間で揺れているようだ。


「それとも、若い子は、こんなおばーちゃんの相手はイヤかい?」


 老婆が、いたずらっぽく目を細めた。


「そのようなことはありません、けども……」

「じゃあ決まりだ」


 あっさりと話を終わらせる。そして、フェリシアが何か言い返す前に、厨房の入り口から顔を覗かせているミーナに視線を向ける。


「おーい、そっちの、えっと、ミーナちゃんだっけ?」

「は、はい! なんでしょう!」


 ミーナが、ぴょこんと飛び出してきた。

 猫耳がぴんと立ち、尻尾が好奇心で揺れている。


「ユキトは良くしてくれてるかい?」


 ヴェルナの声が、やや砕けて柔らかくなった。子供相手だからだろう。


「うんっ! あたしは孤児なんで、本当の家族はいないんだけど、お兄ちゃんみたいで嬉しいの!」


 ミーナが、にこにこしながら答えた。その笑顔には、曇りがない。


「まぁ、性格は良い男だからね」


 ヴェルナが小さく頭を上下させ同意する。弟子のユキトが褒められて、どこか嬉しそうにも見えた。


「じゃあ、今日からアタシがミーナちゃんのおばーちゃんだ」

「おばーちゃん?」


 ミーナが、きょとんとした顔をした。猫耳が不思議そうにぴくぴく動く。


「うんうん、ユキトがお兄ちゃんなら、ユキトの師匠のアタシはおばーちゃん。ほら、呼んでみな」

「お、おばーちゃん…………あぅ」


 ミーナが、照れたように顔を赤くした。猫耳がぺたんと伏せられ、尻尾が恥ずかしそうに丸まる。


「あの……」


 フェリシアが、口を挟もうとした。このままでは自分にも矛先が向くと察したのだろう。


「アンタもおばーちゃんって呼んでくれても構わないんだよ?」

「いえ、その、ヴェルナ様……」


 フェリシアの声が、わずかに揺れた。無表情を保とうとしているが、長い耳が落ち着きなく動いている。


「ヴェルナさん、もしくは、おばー様なら許すけどねぇ?」

「……ヴェルナさん、ピラフとサンドイッチのどちらがお好きですか?」


 フェリシアが、話題を変えた。呼び方を変えることで、最低限の妥協をしたらしい。敗北を認めた瞬間だった。


「よしよし、じゃあサンドイッチにしてくれるかい? 庭で一緒に食べようじゃないか」


 ヴェルナの提案に、フェリシアは黙って目礼で了承の意を示す。

 その後ろ姿が、どこか肩を落としているように見えたのは、気のせいだろうか。

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