第27話 家に帰ったら、娘がいた。
「ただいま~……?」
玄関を開けた瞬間、何やら不穏な空気を感じた。
フェリシアとミーナが、こそこそと何かを話している。僕の姿を見て、慌てて口を閉じた。
「……お帰りなさいませ、ご主人様」
フェリシアがいつもの無表情で出迎える。だが、その声の調子に何かがあることを察した。
「…………」
ミーナが、ふるふると震えている。猫耳がぴんと立ち、尻尾が緊張したように硬くなっていた。
「んっ、どうかしたの?」
僕が首をかしげると、ミーナが突然、声を張り上げた。
「『お父さん! 今日会ってた女の人は誰っ!!』」
「え、何っ? 何が起こってるの!?」
お父さん? 女の人? まったく身に覚えがない。
「『あたしが何も知らない子供だと思ってるの? お父さんフケツよっ! 大っ嫌い!』」
「ぐふっ……意味不明だけど、そのセリフは、すっごく精神的に刺さる!!」
思わず胸を押さえた。何も悪いことはしていないのに、なぜこんなにダメージを受けるんだ。
例えるなら、娘に嫌われる父親の悩む気持ちに共感を覚えてしまった。
「ふふふ、お仕事で疲れて帰ってきたご主人様へのささやかな気分転換です」
フェリシアが、口元に手を当てて笑う。笑っているように見えないけど、確実にそっちが楽しんでいるけど。
「いやもう、気分転換を通り越して、心が痛いよっ! 僕は未婚者なのに!!」
「『お父さんが、あの女の人と別れるまで親子の縁を切るから!!』」
「まだ続いてた!?」
ミーナが演技を終え、にぱっと笑顔になった。
猫耳がぴょこぴょこと嬉しそうに動いている。
「……ねねっ! 何点くらいだった? あたしの迫真の演技!」
「えー……、そんな満面の笑顔で質問されても……」
返答に困る。僕は試験管だったのか。
まずは演技だったことに安心すればいいのか。いやもう事実、演技なんだけど。
「ミーナちゃん、どうやら、今日の演技ではご主人様に合格点をもらえなかったようです。満点を目指して、明日も挑戦しましょう」
「おー!」
ミーナが元気よく拳を突き上げる。いや、待ってくれ。
「本人を目の前で、奇襲の計画を堂々と……」
「ご主人様、隠し子バージョンと愛人バージョンのどちらが好みでしょうか?」
「そんな二択しかないの!?」
どちらも嫌だ。というか、なぜその二択なんだ。
「明日こそ満点を目指して頑張りますから」
「あたしも頑張る!」
フェリシアがキリッとした顔で宣言する。無表情なのに、妙な迫力がある。
ミーナがグッと親指を立てた。目がキラキラと輝いている。
「ごめんなさい、もう、満点あげるから、普通に出迎えて」
僕のお願いは、二人の笑顔に飲み込まれていった。
我が家の玄関は、いつからこんな難関になったのだろう。




