第21話 朝起きたら、ミーナちゃんがいた。
第21話 朝起きたら、ミーナちゃんがいた。
「……ん~」
僕は布団の中でごろりと身じろぎした。
まだ眠い。朝の光がまぶたの裏をうっすらと照らしているが、もう少しだけこのまま微睡んでいたい。
そう、この腕の中にある温かいものと一緒に。柔らかくて、心地いい。
「うにゅ~……」
温かいものが、小さな声を出した。
「んん~……」
僕はその温かいものを抱き寄せる。ふわふわとした感触が、腕の中でもぞもぞする。
「みゅ~……」
……あれ? なんだろ、こう……。
寝ぼけた頭が覚醒し始める。この感触は、枕でも毛布でもない何か――
バシーーン!!
扉が勢いよく開かれ壁にぶつかる音が、部屋中に響き渡る。
「うぉおお!?」
僕は飛び起きた。心臓が激しく鳴っている。
「…………おはようございます、ご主人様」
扉の前に、フェリシアが立っていた。いつものメイド服姿。いつもの無表情。だが、その声には、どこか冷たいものが混じっている気がした。
そして僕は、自分の腕の中にあるものを見下ろす。
「あ、ああ、おはよ……う?」
茶色の髪。猫の耳。丸まって眠っているのは、ミーナだった。僕の布団の中で、すやすやと寝息を立てている。
嫌な汗が背中を流れた。
「うう~ん、まだ眠い……」
ミーナがもぞもぞと動く。状況をまったく理解していない様子だ。
「…………」
「…………」
沈黙が、部屋を支配した。フェリシアの緑色の瞳が、じっと僕を見つめている。その視線が痛いよ。
「……ご主人様、辞世の準備は整っておりますか?」
フェリシアが、淡々と告げた。その声には、一切の感情が乗っていない。
「待った! 誤解だ!」
「いえ、ここは二階ですが?」
僕の叫びに、フェリシアは真顔で返してくる。
「古典的なボケだね! 間違いという意味でっ!!」
「過ちを認めましたね、その潔さは認めましょう」
「そうじゃなくてー! 僕は手を出してない!!」
僕は必死に弁明する。本当に何もしていないのだ。というか、いつミーナが布団に入ってきたのかすら知らない。
「ふふふ、わかっております」
フェリシアの口元が、わずかに緩んだ。
「そう、それなら……」
「男の方はみんなそう仰るのですよね?」
柔らかな笑みを浮かべたまま、フェリシアが言った。笑顔が怖い。
「わかり過ぎてるー!? できれば、もっと僕のことをわかって!!」
「もちろん、ご主人様のことをわかって、からかっております」
フェリシアはそう言い捨てると、布団の中のミーナに近づく。
「ほら、起きなさい」
肩をゆさゆさと揺すると、ミーナがようやく目を開けた。琥珀色の瞳が、きょとんとこちらを見上げている。
「うー……あれ? あたし、なんで?」
「ご主人様を起こしに行って、いつまでも戻ってこないので、心配しましたよ……"色々"と」
フェリシアの声が、少しだけ低くなった。
「あぅ、ごめんなさいー」
ミーナが、しゅんとして耳を垂らした。尻尾も力なく下がっている。どうやら起こしに来たはずが、布団の心地よさに負けて一緒に寝てしまったらしい。
「色々……便利な言葉だなぁ」
僕はため息混じりにつぶやいた。その「色々」の中身を、詳しく聞きたくはない。
「大丈夫です。私はご主人様を信じておりますから」
フェリシアが、何を考えているのかは読めない穏やかな声で言った。
「なんか、その信じられ方もイヤだ!」
「まったく、ご主人様はワガママですね」
フェリシアが、小さくため息をつく。その仕草は、どこか楽しんでいるように見える。
朝から疲れるなー。天井を仰いで、僕も深く息を吐いた。
我が家の朝は、また一段と騒がしくなったようだ。




