第20話 家に帰ったら、ネコちゃんがいた。
「お帰りなさいませ」
玄関で、フェリシアが出迎えてくれる。すっかり当たり前になったいつもの光景だ。
「おかえりなさーい」
……いつもの光景?
フェリシアの声に重なって、別の声が聞こえた。高くて、元気のいい声だ。
「…………ただいまー」
僕は、目の前の状況を把握しようと思考を巡らせた。
フェリシアの横に、見知らぬ少女が立っている。
茶色の髪に、琥珀色の目。小柄だが、年齢の割には発育がいい。そして、頭の上には……猫の耳?
「ねーねー、早くゴハンにしよー」
少女が、元気よく言った。背中から生えた尻尾がゆらゆらと揺れている。間違いない、獣人族だ。王都では珍しくないが、なんで?
「そうですね。今日は海産の干物が安かったので魚介スープにしてみました」
フェリシアが、何事もなかったかのように少女に答える。その無表情は、いつもと変わりがない。
「………………」
誰か説明してプリーズ。
僕は玄関に立ったまま、状況についていけてなかった。
「わーい、おっさかなおっさかなー」
少女が、嬉しそうに跳ねている。猫耳がぴょこぴょこと動き、尻尾が左右に振れる。その無邪気な笑顔は、とっても微笑ましい。微笑ましいよ? 僕には感情があるからね?
だが、今欲しいのは、現状の説明なんです。
「ふふふ……私たちは、ご主人様の食事が終わってからですよ」
フェリシアが、少女をたしなめる。その口調は、とても優しげだ。普段の僕に向ける声とは、明らかに違う。
「……誰?」
僕は、少女を指差しながら訊いた。このまま放っておいても、改善される気配がない。
「ん? あたし?」
「うん」
「あたしはミーナだよ!」
少女が、元気よく名乗った。琥珀色の瞳が、キラキラと輝いている。
「へぇ、あ、僕はユキトね…………だから誰っ!?」
思わず自己紹介を返してしまったが、そういう問題ではない。名前を聞きたいわけではないのだ。
「フェリシアさんにチンピラから助けてもらったの! 今日からメイドさん見習い!」
ミーナが、にこにこしながら答える。猫耳がぴくぴくと嬉しそうに動いていた。
「そんなことがあったの? 大丈夫だった?」
僕はフェリシアを見る。チンピラに絡まれたとなると、心配でしかない。怪我はなかっただろうか。
「助けただなんて……ちょっと虫の居所が悪かったから八つ当たりついでです」
フェリシアが、もじもじしながら答える。長い耳が、わずかに揺れていた。
八つ当たりついで……何やってるのフェリシアさん? チンピラたちの生命が無事であることを祈る。
「……怖っ」
思わずつぶやいてしまった。
「ご主人様、念願のハーレム生活への第一歩ですね。がんばっ」
フェリシアが、ミーナと名乗った少女の両肩に両手をのせて、棒読みで言った。
「誰もそんなもの目指してないよっ! しかも全然応援する気もないくせに!」
「もちろんですとも、エッチなのはいけません」
「ううっ……で、本当のところは?」
僕は、真面目に訊いた。とりあえず、実情は知っておきたい。
「いえ、どうも孤児の上、ほとんど人攫いに近い形で王都に連れて来られたようです」
フェリシアの声が、わずかに低くなった。無表情の奥に、怒りに似た何かが燻っている気がした。
「あ~……頭が痛い問題だね」
僕は額を押さえた。人攫い。それは、この国でもたびたび問題になっていることだ。特に、孤児となり身寄りのない子供などは狙われやすい。売られた先で何をさせられるか、考えたくもない。
「ご主人様がダメと仰るのでしたら、即行即座に着の身着のまま屋敷から追い出しますが……」
フェリシアが淡々と言う。その目は、じっと僕を見ていた。試しているような、信頼しているような、不思議な眼差しだ。
「えええっ!? 追い出す……の?」
ミーナが、涙目になった。琥珀色の瞳が、潤んでいる。猫耳がぺたんと垂れ下がり、尻尾も力なく下がっていた。
「どんだけ冷血な男なんだよ、僕はっ! とりあえず、すべてフェリシアに任せるよ」
僕は即座に答えた。
この流れで追い出せるわけがない。そんなことをしたら、きっと何かが終わる。フェリシア殿の眼がそう強く訴えていた。
「かしこまりました。立派なファイターに育ててみせます」
フェリシアが、満足そうにうなずいた。その口元が、ほんのわずかに緩んでいる。
「メイドじゃないのっ!?」
僕の叫びは、誰も答えてくれなかった。
フェリシアは、どこか嬉しそうにミーナにお手伝いを指示しはじめる。その姿は、姉が妹の面倒を見ているようにも見えた。
ミーナは、とても嬉しそうに尻尾を振っている。猫耳がぴょこぴょこと動き、全身で喜びを表現していた。
僕は、最近癖になりつつあるため息をついた。
こうして、我が家の住人が、また一人増えることになった。
いつも応援ありがとうございます。
絹野帽子です。
お陰様で、序盤の区切りである、猫ミミちゃんの登場までリライトできました。
今後も、1日1〜2話位のペースで投稿できればいいなと思っています。
そこで、ひとつお願いがあります。応援してくれる方は、
ぜひ作品の「ブックマーク」「リアクション」「★評価」をポチッとお願いします。
それが作者の毎日の励みになります!




