第19話 お弁当が、赤く染まっていた。
「…………ふっ」
僕は、お弁当箱の中身を見て、思わず笑ってしまう。
王宮の執務室。昼食の時間だ。
「うわー、見事に真っ赤なお弁当ですね」
ガルムが、僕の弁当箱を覗き込みながら言った。
「ニンジンのサラダ、ニンジンのグラッセ、ニンジンジャムのサンドイッチ……」
僕は、中身を確認しながら指差し列挙する。オレンジ色……いや、赤に近い色が、弁当箱を埋め尽くしていた。
「それ、イチゴジャムじゃなくてニンジンのジャムなんですか? オレ、初めて見ましたけど」
ガルムが興味深そうに言う。
「彼女のお手製っぽいから」
僕は肩をすくめる。フェリシアは、本当に料理が上手だ。ニンジンジャムなど、普通は売っていない。
「彼女って、その、例の使用人さんですか?」
リラが、どこかおそるおそる訊いてきた。
「うん」
僕は何気なく答える。
その瞬間、リラの表情が固まった。
「……だって、使用人さんよね? ただの使用人さんじゃなかったということ? 何あの愛情たっぷりなお弁当は!! …………は、もしかして、いわゆる行儀見習いだったけど、お手つき済みの未来は師団長夫人様っ!? 私も明日から……いや、相手の得意な戦場で交戦するのは下策、なら、どうしよう!?」
リラが、何かをぶつぶつとつぶやいている。その目は真剣で、手元の紙に何か書き綴っていた。
「……彼女、どうかした?」
僕はガルムに小声で訊いた。
「いや、気にしないでください」
ガルムも小声で答える。彼の表情は、どこか諦めたような、残念なものをみるような眼をしていた。
「……とりあえず、私も負けませんから! 頑張りますから!」
突如、リラが僕の方を見てそう宣言してきた。
「おおう、頑張って!」
僕は、何のことかわからないまま応援する。
「はいっ!!」
リラは、やる気に満ちた表情でうなずいた。
ガルムが、何とも言えない表情で天井を見上げている。
「ところで、ふたりとも、これ食べない?」
僕は、弁当箱を差し出した。実は今日のお弁当は、ひとりで食べるには、量が多すぎた。
「あー、オレらが食べちゃまずいのでは?」
ガルムが遠慮がちに言う。
「そんなことはないさ」
「だってそれ、ユキト様への"罰"でしょ?」
ガルムの言葉に、僕は固まった。
「うぇっ!?」
「罰? なんのことか説明して」
リラが、目を光らせながら訊いてきた。
「いやー、そのー、使用人の娘さんを辱めた罰で、苦手なニンジン尽くしのメニューを食べさせられてるという話で……」
ガルムが、しどろもどろに説明する。
「お手つき済み確定!? ああっ……」
リラが、ふらふらと椅子に崩れ落ちた。
「おおい! なんでそんな僕の個人的な情報が駄々漏れなんだっ!?」
僕はガルムに向かって。叫んだ。そもそも、辱めたなんて事実無根だ。雷の夜に抱きしめただけで、何も……そう、抱きしめただけだ。
「いや、オレ、MSNのメンバーですんで」
ガルムが、あっさりと答えた。
「マジで存在するのか、『メイドさんネットワーク』……」
僕は頭を抱えた。
謎の組織は、本当に実在したらしい。しかも、部下がその一員だった。衝撃的すぎる新事実だ。
もしかして、僕の個人的な情報は公開情報なの?
僕は、ニンジンだらけの弁当を見つめながら、途方に暮れた。




