第16話 フェリシアさんから、試されていた。
「ご主人様、私の目を見て正直に仰ってください」
フェリシアが、真剣な声で問い詰めてきた。
夕食の席でのことだ。テーブルの上には、今日も彩り豊かな料理が並んでいる。しかし、フェリシアの様子がいつもと違った。
「うん、何かな?」
僕は少し緊張しながら答える。何か怒らせるようなことをしただろうか。
「お嫌いなのですね?」
フェリシアの目が、まっすぐに僕を見つめている。その緑色の瞳には、悲しみのような色が浮かんでいた。
「ええーと……」
僕は思わず視線を逸らそうとした。
「目を逸らさない!」
フェリシアの声が、鋭く響いた。
「はいっ!」
反射的に背筋が伸びる。
「お嫌い、なのです、ね?」
フェリシアが、再び同じ質問を繰り返した。
「…………そんなことはないですよ」
僕は平坦なトーンで答える。嘘をついているのは、自分でもわかっていた。
「ご主人様、私は怒っているわけではありません。ただ悲しいだけです」
フェリシアの声が、わずかに震えた。
いや、震えたように聞こえた。演技かもしれないが、いつもの。
「うっ……」
たとえそれが演技だとしても、その様子に胸が痛む。悲しませるつもりはなかったのだ。
「もう一度言わせていただきます。私は悲しいだけなのです」
フェリシアが、さらに追い打ちをかけてくる。
「わ、わかってる」
「では…………」
フェリシアが一歩、近づいてきた。その目は、じっと僕を見据える。
「……」
僕は息を呑んだ。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
「どうすれば、良いかわかっていますね?」
フェリシアの声が、耳元で響いた。
「いや、その……」
「ご主人様、男らしくないです」
フェリシアの言葉が、僕の良心をえぐる。
「ううっ」
「これは……言わば、私に対するご主人様の信頼を図る試金石のようなもの」
フェリシアは真剣な表情で続けた。
「な、なんか大げさじゃない?」
「決して大げさなことではありません。ご主人様は、私が仕えるに値する傑物だと思っております」
傑物。大げさな言葉だ。僕は、そんな大層な人間ではない。
「け、傑物っ……」
「そして、ご主人様と私の間には、様々な試練を経て築かれた絆があると信じております」
フェリシアの口からでくるセリフは、とても芝居がかっていた。
「なんかもう、その試練の大半が君の自作自演だった気がするけど……」
僕は思わず突っ込んでしまう。
「誤魔化さないでください。さぁ、ご主人様、決断を!」
フェリシアが、テーブルの上の皿を指差した。
そこには、オレンジ色の野菜が山盛りになっている。
「わ、わかった……食べる」
僕は観念して答えた。
「素晴らしいご決断です。たとえご主人様がニンジンを嫌いであっても、私の料理を残すのは許しません、ええ」
フェリシアが、満足そうにうなずいた。
つまり、ニンジンを食べるか食べないかという話なのである。
僕は、覚悟を決めてフォークを手に取った。




