表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/74

第10話 扉を開けたら、王子様がいた。

 五日目。

 もうなのか、まだなのか。フェリシアは、ふとそんなことを考えていた。

 ご主人様が王都から出かけて、五日が経った。早くても十日ということは、それ以上かかる可能性もある。

 この家に来て、ここまで長くひとりになるのは、初めてだった。

 屋敷の掃除も、洗濯も、いつも通りにこなしている。しかし、食事を作る相手がいないと、どうにも張り合いがない。

 ひとり分の料理を作るのは、なんだか気が乗らず、ついつい屋台で買ってきた料理でお腹を膨らませていた。


 コンコンコン。


 玄関で、ノッカーが叩かれる音が響いた。

 お客様が来たのだろうか。この屋敷に来て、初めてのお客様だ。普段は本当に誰も来ない。

 それなのにご主人様のいないときに、ご主人様のタイミングが悪いのか、お客様の運が悪いのか。

 フェリシアは、手にしていた(ほうき)を壁に立てかけて、玄関へ向かった。

 扉を開ける。


「…………」


 そこに立っていたのは、金髪の青年だった。

 高価そうな衣服に、自信に満ちた笑顔。一目で上位者だとわかる風格がある。

 フェリシアは、無言で扉を閉めた。


 コンコンコンコンコンコン!!


 今度は激しくノッカーが叩かれる音。

 フェリシアは、もう一度扉を開けた。


「この家のメイドはどういう教育を受けているのかな? 普通、お客を無言で締め出す?」


 言葉こそ苦言をていしているが、その表情には、怒りよりも面白がっているような色が浮かんでいる。


「夢か幻か妖精さんのイタズラなら良かったのに」

「はっはっは、相変わらずだね」


 ほがらかに笑う。この程度のことでは、まったく動じないらしい。


「ええ、王子様も相変わらずのようで。では、お帰りください」

「ちょっ、待って!! なんで、そう人を締め出そうとするかな!」


 王子様……レオン=ハルト・ロズウェル第一王子は、慌てて扉に手をかけた。


「誠に残念ながら、ご主人様は不在のため、怪しげな人間を屋敷に入れることはできません」

「怪しくないでしょ!? ボクほど身元のはっきりしている人間はいないでしょ!」


 確かに、王位継承第一位の王子ほど身元がはっきりしている人物は、この国にはそうそういない。

 しかし、フェリシアは首を横に振った。


「とりあえず、十割中十二割くらい怪しいです。もう、体からあふれんばかりに」

「まさかの全部以上否定!?」


 レオンは大げさに驚いてみせる。その仕草は芝居がかっているが、どこか憎めない。


「まったく、無言で締め出すなというから、一言付けて締め出そうとしたのに、ワガママな」

「え、何かボクが悪い流れになってない!?」


 レオンは困ったように頭をかいた。金髪がさらりと揺れる。


「ご主人様が不在なことは、ご承知でしょう? 何をしにいらしたのですか?」


 フェリシアが単刀直入に訊く。

 ユキト様が留守なのは、王子様が一番よく知っているはずだ。なにしろ、今回の出張を命じたのは王子様本人なのだから。


「いやー、ユキトがいなくてキミが寂しがっているんじゃないかなと」

「寂しがっている女性ならば、王宮にもいらっしゃるのでは? あまり奥様を放置するものじゃないですよ?」


 フェリシアは淡々と返す。

 王子様が結婚していることは、周知の事実だ。愛人の噂も絶えない男だが、きちんと正妻がいるのだ。


「そんな健気な子じゃないけどねぇ。それにキミとボクとの関係じゃないか」

「別に、私と王子様の間に特殊な関係があるとは記憶していませんが」


 フェリシアは首をかしげる。普段の無表情はどこにやったのか、今はとてもわかりやすく、心底不思議そうな顔をしている。


「そこまでいくと、いっそ清々しいね!」


 そう言って、レオンは笑う。爽やかな笑顔だが、その目の奥には何か別の光が宿っていた。


「その点については、ご主人様にも高く評価されておりますので」

「一応関係あると思うんだけど……」


 レオンは、少し真剣な表情になった。

 風が吹き、庭の木々がざわめく。どこかで鳥が鳴いた。


「…………ねぇ、婚約者殿?」


 その言葉に、フェリシアの表情がわずかに動いた。

 ほんの一瞬だけ。しかし、確かに動いた。

 レオンは、それを見逃さなかった。

 午後の日差しを雲が遮ったのか、ふたりの間に長い影を落とす。

 玄関先での攻防は、まだ終わることはなさそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ